松山は先をうながすように感心してみせた。斎田もうながされるのを待っていた
。他人とあまり話をしない毎日なので、来客があるとおしゃべりになる。
「その、時間や空間のこともでてくるよ。そもそもだな、文明の出発点にさかのぼ
るとする。つまり、人類が出現した時のことさ。まずなにをしただろうか」
「そりゃあ、食うことだったろうさ。食わなきゃ、しようがない。文明もなにもな
い」
 松山は料理を口に運び、酒を飲んだ。斎田は軽くうなずく。
「そのとおり。植物や動物を食ったというわけだよ。人類はまず、植物や動物を自
己のために役立たせようとした。生物を支配したいとの考えを持ち、それに努力し
た。これを生物支配の時期と名づける」
「名づけるという口調は、ものものしくていいぞ。で、そのつぎにはどんな時期が
くるんだね」
「無生物、つまり物質だね。物質を支配することを考える時期がくる。物質といっ
ても、最初は木材とか革とか牙とか、なかば生物的なものだったろうがね。それら
を使って衣服や住居などを作った。しかし、そのうち石や金属のたぐいの利用をも
思いつく。すなわち、生物支配の時期より一段と進んだというわけだ。この時期を
……」
「物質支配の時期と名づける、となるんだろう。そういえば、石器時代とか青銅器
時代なんて、むかし習ったものだったな。そんな言葉は……」
「いまでは一年に一回も口にしなくなったというわけだろう。まあ、そんな口まね
のやりあいはやめて、先へ進もう。物質支配の時期に入った人類、かたい物質でい
ろいろなものを作ってもちすることに気づき、新しい飛躍の
もととなった。つまり、時間を支配したいという気持ちのことだよ。石をつみ重ね
て万里の長城をきずいたのも、そんなことのあらわれだろうな。これさえ作れば、
いつまでも安心といった考え方だ。三種の神器も、かたい物質で作られている。時
間支配の象徴というべきだと思うんだ」
「万里の長城で思い出したが、|秦《しん》の始皇帝なんかは、時間への強いあこ
がれの持主だったようだな。始皇帝って名も、永遠への王朝の第一代とかいう気分
によるものだとかいう話だったな。それから、不老不死の薬を求めて家臣を海外に
派遣したとか……」
 松山は頭のすみに残っている歴史の知識の虫干しをはじめたような気分だった。
斎田は話をつづけた。
「ね、ピラミッドだってそうだし、そのなかにおさめられた王のミイラだってそう
だ。時の流れを支配したいという願いなんだよ。現実には、個人的には無理なこと
だったが、文明としてはある程度なしとげられた。長期安定が目標とされ、軌道に
乗った。エジプトで天文学や暦が発達したのも、ナイル河の氾濫を予測したかった
からだ。くりかえしの法則をみつけ、ひたすら時間的な安定を心がけた。だから、
エジプト王朝はけっこう長くつづいた……」
「なるほど、時間支配の時期というわけだな。しかし、悪くない状態だぞ。そこで
止まっててくれれば、われわれ、こんなにあくせくしないでもっとのんびりと毎日
をすごせたのにな。そうならないところが、文明の歴史的な必然とかいうやつのた
めか」