てんかん発作と一口に言っても、その症状は様々に分類されます。

●全般発作
 ……大発作。全身の硬直や痙攣。
 ……単純欠神発作。突然の意識消失後、速やかに回復。
 ……脱力発作。全身の力を失い、瞬時に倒れる。
 ……その他。
●部分発作
 ……単純部分発作。意識は保たれる。
 ……複雑部分発作。意識は消失する。
 ……
二次性全般化発作。部分発作ののち全身が痙攣。

 発作の現れ方の違いによる分類の他、原因部分による分類も、治療法確定の上で重要な観点となります。

●前頭葉要因……手足など体の部位を動かすことに影響。
●頭頂葉要因……空間認識に影響。
●後頭葉要因……視覚認識に影響。
●側頭葉要因……海馬があり、発作の直接的焦点となる場合が多い。

 時間や場所を選ばず発作を起こす人もいれば、特定の条件下でのみ発作を起こす人も多く存在します。
 たとえば、睡眠中や起床前後に発作は起こすが、日中活動には何ら支障が及ばない人もいるわけです。こういう人、結構多いですよ。

 患者の8割近くは、予後良好です。難治性てんかんと呼ばれる患者の場合は、ほぼ生涯にわたって服薬継続が必要となります。
 最後の発作から5年が経過すると、服薬治療の効果による寛解を医学的に判断する余地が発生します。医師と相談の上、計画的段階的に、減薬を進めていきます。

 てんかんの治療は、何はさておき服薬継続です。
 今般、池袋で自動車が暴走する事故が起きました。報道によると、運転手はてんかん診断を受けており、毎朝夕に治療薬を服用するよう指導されていたとのこと。
 病態や処方薬の詳細は分かりませんが、今回のエントリーでは、デパケンRが処方されていたものと推測して、以下の所見を述べます。

【販売名】デパケンR錠100mgおよび200mg
【有効成分】
日局バルプロ酸ナトリウム
【効能効果】各種てんかん及びてんかんに伴う性格行動障害の治療、躁状態の治療、片頭痛発作の抑制
【使用上の注意(抜粋)】てんかん患者においては、連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により、てんかん重積状態があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重に行うこと。

 現時点の報道によると、事故当日夕方の服薬を行なっていなかったことになっています。
 デパケンRの有効血中濃度は、40~120μg/mLです。
 しかしながら、デパケンRを単回投与(200mg×3T)した場合の血中バルプロ酸濃度は、服薬後9時間を掛けて漸増するものの、MAXは30μg/mLに留まるのです。24時間後には半減し、48時間後にはほぼ代謝されます。
 ところが、反復投与(1200mg×1T×8days)した場合の血中バルプロ酸濃度は、服薬後24時間以内に有効濃度に達し、その後24時間で有効濃度を若干下回ります。従って、少なくとも1日1回出掛ける前、可能ならば1日2回の服用を継続していれば、充分にてんかん発作を予防することが可能なのです。

 ネット上では「1回服薬しなかっただけで発作が起きるのか」と懐疑する向きも多いようです。
 断言します。1回の飲み忘れは、発作リスクを大幅に高めます。
 逆に言えば、診断が正しく処方も正しければ、服薬遵守により発作を抑制できます。したがって、仕事も可能ですし、自動車運転も可能です。
 今般の事故に関しては、真面目に治療をしている患者にネガティブイメージが向けられないか、その点を懸念しています。容疑者の服薬継続状況について、慎重な捜査が求められることと考えます。