朝は、中とコーヒーを飲みながら、話を切り出すチャンスを伺っていた。
中は、朝の考えに勘付いたのか、朝にその隙を与えないほど話し続けた。
朝は、中の話を耳で聞きながら、頭の中では、別のことを考えていた。
なぜこの人は、私を振ったのか。
なぜこの人は、私のところに戻ってきたのか。
なぜ私は、この人をもう一度愛せないのか。
なぜ私は、もう愛していないこの人を、これほどまでに傷つけるのが怖いのか。
考えを巡らせるうちに、朝は、分からなくなった。
そして、中に、自分の想いを伝わるように伝える自信を、すっかり失ってしまった。
今思えば、別れ話など、いつも相手に伝わるものではなかった。
伝わらなくても、伝えさえすればそれでよかった。
しかしそのとき、朝の中では、このチャンスを諦める選択肢しかないように思えてしまった。
また朝は、弱い自分に流されてしまった。
その日の夜、朝はなかなか寝つけなかった。
もともと、ホテルの枕は高くて苦手だった。
眠れないこと枕のせいにするのは、小学生の頃から変わらなかった。
でもその日は、枕をバスタオル四つ折りに変えても、やはり寝つけなかった。
朝の頭を巡るのは、今日の自分の弱さを肯定しようとする、自己保身の声ばかりだった。
朝は不安だった。
またこれで、弱い自分の心が、朝の体力まで奪っていくように思えた。
朝は何度も寝返りをうちながら、眠りにつくその時を待った。