『子供料金』~創作ショートストーリー~ | 最強の作家への飛翔

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『子供料金』



 もしあなたが三十歳になっても背が小さく童顔で、小学生に間違われるような人間だったらどんなことをしただろう?
 今泉はちょうどそういう特徴をもった男だったから、ある密かな楽しみ持っていた。彼は電車に乗るとき、子供料金で乗っていたのだ。
 

 自動改札に子供料金の切符を入れると、ランプが光る。駅員がそのランプをチェックして、本当に小学生以下の子供かどうかをチェックするが、今泉はほとんど小学生のような背格好なので、キセルをしても気付かれないのである。
 
 今泉がそんなことをしていたのは、退屈だったからというのが大きい。
 小さな会社に勤めている彼は、他の大勢のサラリーマンと同じように、日曜日の夜になると明日から会社に行きたくないと憂鬱になってしまう日々が続いていた。
 何か刺激が欲しくて、二十八歳になってからは毎週休みになると、子供料金で電車に乗っていろいろな街に出かけるのが趣味になった。


 その日今泉は、朝起きたときから嫌な予感がしていた。
 「今日こそキセルがバレて捕まってしまうのではないか…」
 そんなことを考えながら、今泉はいつもどおり子供料金で地元の改札を通ろうとした。


 そのとき、今泉は駅員と目が合ってしまった。
 大丈夫だ、大丈夫だ、と彼はまったく気にしていないそぶりを見せながら歩き続ける。
 改札を通り過ぎて、ホームへと向かう。
――結局呼び止められなかったな…。 
 今泉はほっと胸を撫で下ろし、笑みを浮かべた。
 すると、今泉の体がフワっと浮いた。一瞬何が起こったか、彼は分からなかった。
 気がつくと、後ろから駅員に羽交い絞めにされていた。
「ちょっと来てもらおうか」
 駅員は冷たい目をしてそう言うと、今泉を駅員室へ連れて行った。


 今泉の免許証を見て三十歳だと知ったとき、駅員は目を丸くして驚いた。
「三十にもなって、こんなことをやっていたのか!」
 正規料金の三倍のお金を払ってもらう、今まで何回不正乗車をしてきたんだ、と駅員は怒鳴り続けた。
 今泉は正直に百回くらいと申告し、その分の費用の十万円近くを払うことになった。手持ちでそんな大金を持っていなかったので、後日支払いに来ることになった。
 
「もう二度とこんなことをするんじゃないぞ」
 駅員に叱られて、今泉は泣き出した。

 今泉が泣いたのは、罰金を払うのが辛いからでも、捕まったことを恥ずかしいと思ったからでもなかった。このスリリングなゲームを、もうこれからはできなくなることが悲しくて、ワンワン泣いた。
 それはまるで、おもちゃを没収された子供のような泣き声だった。





  (完)