年金で悠々自適など望めない。
それどころか普通に生活することも当てにできない。
早めに人生の舞台を移り、自分の思いを反映した城を持ちたい。
城を通じて、なにかを感じ、なにかの形を表したい。
そうだ、脱サラだ。脱サラして起業する。
そう決意し、父は行動に出ました。
「お父さん、どうして珈琲ショップをやってみようと思ったの。
どんな珈琲ショップがいいなぁって思ったの?」
「テレビドラマなどでよく見るあのイメージだよ。
席数は少なめの小さなカフェだ。席数が多いとやることも増えるからなぁ。
母さんと余生をのんびり過ごしたいからね」
「規模が小さくても、やることっていっぱいあるんじゃぁないの」
「そんなことないよ、やることって大きさに比例するから。
規模が小さければそれなりに少ないよ」
「でもね、やる量は少ないと思うけどやる項目は同じだと思うけど。
ほんとうに2人でカフェ経営はできるの?」
「2人でだったら大丈夫だよ。それに日銭が入ってくるし。
これからは母さんとカフェ経営しながらのんびり過ごしたいからね」
父は珈琲やドリンクが好きで、
いろんな店に時間をみつけては行っていたようです。
人と会うことも、話すことも好きなので、
それらを生かせる仕事が珈琲ショップだったようです。
カフェで見せている顔は、2つありました。それは表の顔と裏の顔です。
表の顔は、どんなに大変でもお客さんには笑顔で振る舞い、
余裕のある顔をしながら珈琲を出したり調理をします。
お客さんが居ない時には、裏の顔になります。
伝票整理、支払いなどの経理を行ったり、掃除などの雑務を行ったり、
新メニューを考えたり、食材の仕込み、日々の経営方針、
資金繰りなど、やることは盛りだくさんです。
朝8時から夜の9時の営業時間ですが、7時前から仕込みを開始します。
閉店してからも、その日の売上の締めや後片付けなどが待っています。
実働としては、15時間くらいになっていました。
休憩時間であっても、お客様が来店すれば接客を続けなければなりません。
サラリーマンよりも極悪な状態での勤務形態となっていました。
それも母を巻き込んで、です。
カフェ経営の現実は厳しかったのです。金銭的にも肉体的にも…。
明日の生活も厳しい状況に追い込まれ、
余生をのんびり過ごすことはできませんでした。
せっかくの定休日でもカフェを中心とした生活になっていて、
休日なしの24時間労働になってしまいました。
年齢を重ねた父と母は、体も無理が利かなくなってきたのできつい毎日のようでした。
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