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日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。

国内総生産(GDP)の推移:米中貿易戦争の勃発後

GDPを成長率で見ると、米国トランプ大統領による米中貿易戦争勃発後だが持ち直しとは言えない状態。日本もトランプ大統領に攻撃され鉄鋼・アルミニウム関税を食らったのだが、最も恐れていた自動車高関税は回避された。2019年は東京オリンピックの直前準備で少し浮上したのではないか。データ上は政府最終消費支出が寄与している。また再度の消費税引き上げは10月からだったので2019年のデータには影響はほとんど見られず、むしろ駆け込み消費分が乗っている。

 

世界のGDPの推移:貿易戦争で米中欧低迷

米中貿易戦争により、さすがのトランプ経済もGDP面では崩れている。密接に統合された国際経済においてトランプ政権の癇癪・発作のような関税戦争は米国にも悪影響であることは明白である。

 

2020年に生きているあなたは、もはや米中貿易戦争どころではなく新型コロナウイルスで全世界が打撃を受けていることを知っている。

 

為替相場の推移:ドル軟化(米FRBの予防的緩和)

米中貿易戦争の不安やトランプ政権のプッシュもあり、2019年に米FRBが予防的金融緩和に踏み切った。これは円高方向に作用する可能性がある。米経済が不況でもデフレでもないのに貿易戦争の後遺症を先取りして金融緩和するのは異例ではある(過去に例はあるが)。まるでマッチポンプであるがトランプ政権には有利に働くはずであった。

 

貿易収支の推移:貿易戦争で輸出入減少

 

国際収支の推移:投資立国、貿易額縮小

第一次所得収支の黒字は貿易黒字の何倍もあり、いまや債権国・投資立国としての日本を映し出している。米中貿易戦争のあおりで中国向け輸出が減ったことで貿易赤字となっているが、投資利益は影響を受けていない。また原油価格下落で輸入額も縮小している。

 

 

株価の推移:貿易戦争の翌年収束を見込む

株価だけ見れば日本経済は上げ基調で万事オーライに見える。年末に向けて貿易戦争の収束と経済回復が見込まれ、また東京オリンピックも控え株価は好転しつつあった。

 

また日銀のETF買いは2020年1月末には累積28兆円超となり株価を下支えしている。2020年には株式市場最大の株主となる見込み。

 

金利指標の推移:追加緩和をしぶる日銀

日銀は2016年にマイナス金利に踏み切った。結果は金融市場が混乱したのか中止している。

 

ただし、矢継ぎ早に「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」を打ち出し長期金利をマイナスから引き上げた。金利がマイナスとなると地方創生のスローガンがあっても地銀などが打撃を受けることになる。苦境の声は大きくなってきている。

 

2019年には米FRBが好景気にもかかわらず予防的に利下げを再開し米国利上げ局面は終わった。世界中の中央銀行が緩和方向に傾いている。日銀はすでに長らく緩和実施中であり、マイナス金利の深堀りを避けたい意図もあり、板ばさみ状態に陥り追加緩和をしぶった。しかし年末に向けて貿易戦争収束の見込みから世界における安全資産への逃避の波が収まり日本の長期金利もマイナスから浮上した。日銀はほっとしたようだ。

 

住宅着工件数の推移:頭打ち軟化

金利がどうであれ、住宅建設は少しずつ軟化している。

 

地価の推移等:特定物件の地価は日銀リフレ

日銀はREITも買っているが2019年は年間予定額900億円に対し528億円にとどまり昨年の消極姿勢を維持した。地価への介入しすぎを避けたいようである。

 

地価は公示価格のデータからは安倍政権発足とともに高騰を続けている。日銀のリフレはここでは機能している。ただ地価の高騰は物価全体の押し上げにつながっていない。

 

新車販売の推移:米中貿易戦争がダイレクトにヒット

 

産業活動の推移:輸出減響くが全産業は横ばい

鉱工業生産指数の低下は輸出減に起因している。また2019年は自然災害も多かった。

 

物価の推移:石油価格が企業物価指数押し下げ

株価や地価の盛況ぶりからすると消費者物価からはアベノミクスの効能は感じられない。思うに、日銀のリフレ国内政策よりも国際的な石油価格動向の影響の方が強い。

 

石油関連指標の推移:石油価格が再び軟化

石油価格は米中貿易戦争で軟化している。2019年のイラン産原油禁輸措置も価格引き上げにはつながらなかった。OPECは本来カルテルのはずなのだが足並みが揃わず、シェールガス革命の米国は減産などする気はない。

 

金属関連価格指標の推移:石油に比べ影響弱い

石油価格と比べると、ここで取り上げた金属の価格には貿易戦争はほとんど影響がないようだ。石油が元々生産過剰であるだけか。

 

 

消費関連指標の推移:商業販売総額崩れる

2019年の消費税引き上げは10月開始のため小売への影響はまだ出ていない。翌年に影響が出ても2020年オリンピックの消費で補えると思っていたのだろうが・・・。

 

代表的な小売店舗の状況としては、百貨店の落ち込みが止まらない。意外というかコンビニが健闘している。規模としてはセブンイレブンがダントツである。2020年には商社がコンビニ買収を本格化し、さらにウォーレン・バフェットが日本の商社買いに向かっているが・・・。

 

家計最終消費は低迷しているが、2019年10月の消費税引き上げのダメージはまだ出ていない。実質賃金の長期低迷もあり節約志向が強まっているとされる。

 

労働関連人口の推移:老人・女性の労働力化順調、非正規拡大

生産年齢人口(15歳~64歳)が8000万人を割り7500万人に減少した。

 

労働力人口・就業者数は逆に増えており、労働インプット増のための老人・女性の労働力化は安倍政権の狙いどおりではないか。

 

また、そろそろ技能実習などという詭弁は止めて外国人労働者をちゃんと労働者として扱うべきではないか。「外国人は日本人よりも一生懸命働いてくれる」などという人情まがい記事を出す前に同じ権利を保障すべきである。ただ保守の重要な一角である中小零細経営者が外国人労働力を欲していることは、アンチ移民の精神的・民族主義的右翼とは異なる方向である。

 

他方、正規雇用3500万人に対し非正規雇用は2000万人突破。週刊SPA!は相変わらず勝ち組・負け組み特集みたいなことやっているが、コロナ禍で非正規で大きな打撃を受けた人も少なくないはずである。

 

賃金統計の推移:リフレなし、実質賃金低迷続く

経済に目的があるとすれば、政策が目指すべき最終的な果実は実質賃金の増加である。

 

株価と地価はリフレだが、実質賃金にはアベノミクスや黒田バズーカ砲の恩恵はまったく感じられない。

 

安倍政権の消費税引き上げのタイミングは実にまずく不運なものだ。これでも遅らせてきた挙句なのだが。。2014年にはリフレ機運をつぶし、2019年の引き上げの後には、コロナ禍と五輪延期が待っていた。貿易戦争による製造業萎縮消費税引き上げによるサービス業萎縮というダブルパンチで2020年に向かったのだからいいところがない。実質賃金が低迷しているかぎり消費がそれほど伸びるわけもない。ますます財布の紐は固くなる。

 

戦後の日本経済において実質賃金がぐんぐん伸びていた時代があったなど今の若い人には信じられないだろう。安倍政権発足以来、サラリーマンの実質賃金がわずかにプラスであったのは2016年だけである。

 

日本経済の雑感のまとめ(米中貿易戦争のあおり)

2020年のコロナ禍でアベノミクスが達成した実績は吹っ飛んでしまったと言われている。そして安倍総理も吹っ飛んでしまった。

 

アベノミクスの当初リフレが声高に叫ばれたものの、消費税を段階的に引き上げれば、それはブレーキとアクセスを両方踏むのと同じだ。「インフレにならないかぎり増税しない」と言い切ればもっとリフレになったかもしれない。結局、安倍はポピュリストではなく財務省には勝てなかった。憲法改正も国民議論が盛り上がるのを待つ受身の姿勢があった。これだけ保守を統合して長期政権を維持したというのに、「どんどんやっちまえ、今のうちに既成事実を積み重ねろ」ではなく「今はちょっとタイミングよくない、まだまだ」という待ちの姿勢があり、待った挙句にコロナ禍が直撃したということだ。石原慎太郎であれば「天罰だ」と言うのであろうか。

 

ところで米中貿易戦争を見てみると、米国側のこだわりは農産物輸出である。戦後の国際貿易自由化はまず製造品を中心にしていたし、米国も農産物輸出国になると思っていなかった節がある。農業の自由化は一番遅れているというか、一番難しい分野だ。EUも欧州農業を絶対守るつもりである。

 

日本で人気のあるトフラーが弁じていたような「脱工業化社会」論をトランプ支持者は憎んでいるが製造業を根こそぎ米国内に取り戻すのはやはり無理であろう。中国からベトナム等に製造国が変わるだけだ。またすでに50兆円近い米中経済関係をゼロにして断交することもできないし、それだけ巨大な代替先もない。ソ連崩壊後のばら色姿勢が中国への甘さを招いたので切り離すのには手遅れ。アメリカファーストを採用せずに同盟国と団結して中国を枠内に封じ込めるのが良策のはずだが、トランプ支持者は意固地である。

 

金融万能論の終焉(モノがモノを言う)

世界の金融とマネーを支配すれば世界を支配できるのか?マネーはモノを支配できるはずである。中国はマネーは支配できていない。世界中の人がコーヒーを飲んでいるが、コーヒー豆産出国は貧しい国が多い。小作人のように世界のマネーに支配されているのだ。だが中国を小作人のように支配できない。日本を小作人のように支配できない。トヨタを欧米が買収することはできない。マネーの問題ではない。レーガン政権以降の金融万能論とバブルにうつつを抜かしてきた米国人はようやくそれに気がついた。

 

秀吉の鳥取城飢え殺しのように、黄金の山を前にして餓死することもある。重要物資や生産・製造、そして港や航路を支配してしまえば、マネーを支配していなくても強い。第三世界にはマネーを介しないバーター取引もあるが、マネーがモノや価値の表章にすぎないことを物語っている。レアメタル・レアアースの生産トップはロシアや中国であり、場合によってはマネーがあっても入手できない事態も有り得る。

 

米国に集中するマネーは米国が純粋に鎖国すれば枯渇する。それは中国や日本、産油国から還流しているのである。つまり米国はマネーを運用しているだけで支配していない。中国が米国の二番目に大きい債権者というのは米国人にとって受け入れがたい現実であろう。

 

米国はどこへ行くのか

中国は共産党独裁国家だからどこへ行くかはわかっている。それよりも米国はどこに行くのか?2020年には大統領選挙もあり米国のますます左右の対立は激しくなり文化戦争の様相である。

 

米国は建国以来、独善的に自分たちの特殊性・正義・繁栄を信じて拡大を続けてきた。レーガン大統領の言葉で言えば「光り輝く丘の上の町」である。インディアンを駆逐して農地を拡大し、労働力不足を奴隷制や移民で補い、金鉱・銀鉱さらに油田まで発見して経済を膨らませてきた。新技術の導入、投機的イノベーションや新商品の大規模展開に適した国でもある。アメリカが自由の国だと信じて渡米する日本人までいる。

 

伝統を重視し拡大のない狭い土地を重層的に支配し、あるいはこれを巡って争ってきた日本とは精神的に大きく異なる。日本は世界への拡大よりもムラ社会の秩序と平和、一攫千金よりも地位の保障、自由よりも安定を重んじているはずである。

 

世界大戦は米国が実力相応に国外へ拡大していく契機となり、米国資本・米国の理想が世界に拡散することはあたかも使命となっていた。それは国内に差別など自由の否定があるにもかかわらず世界を自由にする、とでも言うような矛盾を秘めた膨張だ。ベトナム戦争で初めて米国の拡大幻想は打ち砕かれたと言えるかもしれない。軍事力で負けたわけではない。ただ南ベトナムの農民の8割が親北になっていたのだからどうあがいても民意がついてこない。

 

しかしその後も米国の拡張主義・バブル主義・グローバル化は止まらなかった。クリントン政権の環境グローバリズムとドットコムバブル、ブッシュ政権のテロとの戦いとサブプライムローン・バブルなど。日本のように戦後の成功を産業序列・学歴秩序でがちっと定めて、新規参入のないテレビ電波利権を固めて、というような内向きカルテルではなかった。

 

トランプ大統領自身に思想があるとは思えないが、国際協調には嫌気がさしており、その意味で閉鎖的・孤立主義に向かっている。問題はそれが建国以来の拡張主義を放棄することである。それは米国という人類の実験の終焉になりはしないか?仮に民主党のバイデン大統領候補が勝利したとしても、この内向きになる米国の流れは変わらないのではないか?孤立主義で膨張を否定すれば、今度は国内の富の分配が頭をもたげ、むしろ左派を勢いづけることになる。戦争の勝利であれバブルであれ終わりなき膨張が米国の国内矛盾を忘れさせてくれていたのである。アメリカがアメリカでなくなる分岐点にいるのかもしれない。