高校生だったある夏の日、昼休みにベランダで煙草を吸っていると、同級生が隣に来て、「なぁ、俺さ、蛯原(仮)の事が好きじゃん?」と話し掛けてきた。ティーンエイジャーだったから、誰もが誰かに恋をしていた。俺は、「あぁ。そうだな。どうした?」と聞くと、彼は、「でもよぉ‥1人でいると、蛯原(仮)の顔が上手く思い出せねぇんだよ。そういうのって分かるその日は少し暑かったが、いい天気で、運動場は遠目に見ると、拭きたてのテーブルみたいにすっきりしていた。煙草の吸い殻は、ベランダに残しておくと、教師に見つかった時に面倒なので、集めてトイレットペーパーに包んでトイレに流す。何故わざわざトイレットペーパーに包むのかと言うと、吸い殻をそのままトイレに流しても、フィルターが浮いてしまって流れないからである。俺が2本目の煙草をくわえると、彼がニセモノだか安物だかのダンヒルで火を点けてくれた。そして、彼のラークにも火が点いた。2人の吐き出した煙は、仲良さげに絡まり合いながら、次第に一体となって、そして夏の空気に溶けていった。彼の言う通り、確かに俺も上手く思い出せない。何故なんだろう。「うん。分かるな。」と、俺。「なんでかな?」と、彼。「そうだなぁ‥。きっと、フラれた時に、傷が軽減されるから、とかじゃねぇのかな?」彼は、全く納得していない顔で煙を吐いていた。当然だ。俺の言った事は、思いつきの出鱈目な相づちに過ぎない。だが、今でも彼の言っていた事はよく分かる。 君の顔が、上手く思い出せないんだ。
上記は昔からの友人が書いたものだ。今年読んだすべて詩作のなかでもっとも美しい文章だと思い、ここに紹介しました。
