それから数日たった火曜日、その日は彼女の仕事が休みなので、会う約束をした。

彼女は若いながらも、ショップではかなり立場が上らしく、仕事がある日は早くても22時を過ぎないと帰る事はなかった。

なので、彼女の休日は早い時間から会う事が出来る、少ないチャンスだった。

俺は仕事をさっさと終わらせると、待ち合わせの池袋へと向かった。

20時の約束には、十分に間に合う時間だ。

電車を乗り継ぎ、池袋へ到着した。

いつもの喫煙所へ。

もう、100m先からでも彼女を見つける事ができた。

彼女はいつもの様に、地下からの出口にもたれかかって、煙草を吸っていた。

今日は一段と目を奪われる。

普段彼女は、白っぽい服にデニムを合わせる事が多かったが、今日の彼女は黒で統一されていた。

足元を飾るシルバーのスニーカーがとてもクールで、スニーカーマニアの俺の心をくすぐるコーディネートだった。

それに対する今日の俺は、濃いピンクのTシャツに白のショートパンツ、足元はレザーのサンダル。(オイオイいくつだよ!)

まったく対照的な二人だった。


俺は彼女の後ろから近付き「愛してるよ」と声をかけた。

彼女は驚いて振り向き、俺の事を確認すると「本当キモい、バカなんじゃないの?」と、笑いながら言った。

「だから、バカだ!っていつも言ってんじゃん!」と、俺も笑いながら答えた。

「楽しい方が、いいでしょ。」と言うと、「まぁね。」と彼女は微笑んだ。


彼女の手を引いて、駅へと向かい電車へと乗り込んだ。

明るい所で見ると、ホントに今日の彼女はオシャレで美しかった。

黒い服が彼女の透けるような白い肌をより一層際立たせていた。

俺は思わず「今日のオマエは可愛すぎて、メチャメチャ緊張するよ。」と言った。

「は?何言ってんの?相変わらず上手いね。」と彼女は本気でとりあってくれなかったが、俺は本気でそう思っていた。

「そんな事よりさっきの雨、凄くなかった?」と彼女。

「あぁ。メチャメチャ凄かったな。オマエ駅まで大丈夫だった?」と俺が聞くと、

「タクシー呼んだから平気だったけど、ヤバかったよね。」と彼女は答えた。

他愛もない会話を続けていると、自宅の駅へと到着した。

今日は寿司屋に行く予定だったので、一つ前の駅で降りるつもりだったが、愛犬マーキュリーの夕飯をあげる為に、一度自宅へ戻ってきたのだった。

自宅に着くと、マーキュリーが俺ら二人を迎えてくれた。

ここ最近、よく泊まりに来る彼女にマーキュリーもすっかりなついていた。

マーキュリーに夕飯を与え、彼女がマーキュリーとじゃれている間に、俺は掃除機をかけた。

短毛のマーキュリーだが、1日自宅で暴れ回っていると、かなりの毛が落ちていた。


一通りの掃除が終わり、出かける事に。

一駅隣なので、散歩がてら歩いて行こうと思ったが、また雨が降りそうな気配だったので、電車で行く事にした。

電車に乗り改札を出ると、外は土砂降りだった。

「やっぱ、電車で正解だったな。」と俺が言うと、「そうだね。」と彼女もいった。

コンビニでビニ傘を2本買うと、1本を彼女に渡し、寿司屋へと向かった。


店に着き、引戸を開けると改装したばかりの真新しい店内は、豪雨の平日だと言うのに結構混雑していた。

いつも出前が多いので、店に来るのは久ぶりだった。

本格的に身体を鍛え始める前は、地元の友人と毎週のように通っていた。


カウンターの席に座り、ウーロンハイとカシスウーロンを注文する。

ツマミも刺身を中心に、揚げ物、焼き物など、それぞれ注文した。

久しぶりの寿司屋は、かなり美味しく二人とも大満足だった。


ほろ酔い加減で「もう、いい加減俺の女になれよ。」と言うと、

彼女は、「オヤジは嫌だ!」と、笑った。

俺は「29から、歳をとるのを止めてるから、大丈夫。」と訳のわからない事を言ったが、

「ムリ!」と一蹴されてしまった。


彼女と出会って2週間以上経つが、色々わかった事がある。

今まで俺が付き合った女は、10歳以上歳の差があっても、あまり気にするヤツはいなかったし、どちらかというと年上好きが多かった。

さすがに、10歳以上は・・・というヤツもいたが、俺自身20代後半から30代前半に見られ、結構ガキな部分も多々ある人間なので、年齢が付き合う時の障害になる事は無かった。

しかし彼女の場合、俺の年齢がかなりネックになっているようだった。

元々、同級生の彼氏としか付き合った事が無く、男性経験も俺が2人目、(彼女曰くだが)まわりにの友達にも、10歳以上歳の離れたカップルはいない様だった。

だから彼女自身、俺に対して好意は有るが、どう対処してよいのか戸惑っている様だった。

彼女のそんな気持ちが、俺には何となく解っていたので、あまり焦って答えを求めるのはやめていた。

「今の状態を、1ヶ月でも2ヶ月でも、もしかしたら半年でも続けてもいい」と思っていた。

最終的に彼女の一番近くに、俺がいればいいのだから・・・

それに、俺には自信があった。

俺の事を好きにさせ、付き合ったら彼女を絶対幸せにする自信が。

いつも彼女に「何でそんなに自信マンマンなの?」「その自信はどこから来るの?」と言われていたが、俺自身何故だか解らなかった。

だだ一つ、いつも思っていた事は、最初に出会った時に感じた運命・・・自分の直感、それだけだった。


自宅に戻ると、二人とも明日仕事なので早めにベッドに入る事にした。

考えてみたら、彼女が俺の家から仕事に行くのは、初めての事だった。

彼女の方が、家を出る時間が遅いので合鍵を渡し、「返さなくていいから。」と言ったが、「ポストに入れておくよ」と、サラリとかわされた。

彼女に、「何時に起きる?」と聞くと、「9時」と言う答えが返ってきた。

「んじゃ、9時にモーングコールしてやるよ」と、俺が言うと「宜しく」と彼女。

こんな何気ない会話が、とても幸せだった。


そしていつもの様に、彼女を抱いた。

今夜俺は、彼女の愛を確かに感じた・・・・

彼女は俺の様に「愛してる」と口に出して言わないが、俺の心には伝わった・・・・


翌朝、7時・・・

けたたましい目覚ましの音で、俺は目覚めた。

「そっか。今日は二人とも仕事なんだ。」

ふと横を見ると、彼女があどけない表情で、眠っていた。

傍らには、愛犬のマーキュリーが寄り添うようにくっついて寝ていた。

「まったく。こいつら、この目覚ましの音でも、全然おきねぇな。」と思いながらも、起こさないようにそっと寝室から抜け出した。


身支度を整え、マーキュリーの朝食を用意すると、寝室へ戻り熟睡している1人と1匹にキスをして、家を出た。


「こんな毎日が、続けばいい。」俺は心の底から、そう思った。


会社に着くと、早速彼女にモーニングコールをした。

すぐに彼女がでた。

「起きてる?」と聞くと、「うん。」半分寝ぼけた声で彼女が答える。

「ちゃんと、起きて仕事行けよ。」と言い、電話を切った。

隣の席の後輩が、何か言いたげな表情でこちらを見ていたが、俺は気が付かない素振りでパソコンのキーボードを叩き始めた。







車が池袋に到着すると、急いで待ち合わせの場所へと向かった。
この間もそうだったが、「彼女に会える」と思うだけで、胸が高鳴った。
そして、東口の喫煙所へ。
スラリとしたシルエットの彼女が、タバコを吸っていた。
俺は「お待たせ。」と声をかけ、彼女の手をとり歩き出した。
相変わらず可愛すぎて、まともに見ることが出来なかった。
俺はタクシー乗り場ではなく、駅の改札へと向かった。
「電車?」と問う彼女に、「うん。」と答えた。
いつもは車なのだが、今日は彼女と一緒に、どうしても電車に乗りたい気分だった。
それに俺のマンションは、駅に直結していて、徒歩0分の場所にあるので、下手にタクシーで帰るよりも確実に早かった。
彼女と電車に乗り込み、ドア付近の壁にもたれかかるとすぐに発車した。
座席は空いていたが、10分も乗っていないので彼女の腰を抱き立っていた。
彼女は「酔ってるの?」と聞いてきた。
自分では、そんなに酔っているつもりはなかったが、店を出るとき「こんなに早く帰るなら」と強引に飲まされたテキーラのロックが、今頃効いてきたみたいだった。
俺は「少しね」と答え、彼女を支える腕に力を入れた。
彼女は「地元でしょ。知り合いに見られるよ。」と言ったが、俺は力を緩めずに「見せたいんだよ」と笑いながら答えた。
彼女は「ホント、バカだねぇ」と一緒に笑った。

自宅に着き、いつもの居酒屋へ。
彼女はいつもカシスウーロンを頼む。
俺は熱燗。
適当にツマミを注文し、 酒を飲む。

ただそれだけの事なのだけれど、彼女と一緒だと全てが楽しかった。

熱燗を三合空けたところで、自分がかなり酔っている事に気が付いた。

そのことを彼女に告げると、「解ってるよ。だって顔が完全に36だよ。」と、笑いながら言われた。

「マジ!それは、完全にオッサン面って事?」と俺が聞くと。

半笑で「うん。」と彼女。

俺は「オマエと一緒だから、リラックスしてるんだよ!」と強がったが、「もう帰ろう。」という彼女の提案を素直に受け入れた。


家に帰り熱いシャワーを浴びると、ますます酔いがまわってきた。

時計を見ると、深夜2:00をまわっていた。


そして、彼女とベッドに横になる。

俺がキスをして抱き寄せると、彼女は素直に身をゆだねてきた。

お互いが激しく求め合い、抱き合った。

俺はアルコールと彼女に酔いしれながら、深い眠りへと落ちていった。


翌朝。

いつものように、昼過ぎに起床。

昨日飲みすぎたアルコールもすっかり抜け、気分は爽快だった。

ま、彼女がいてくれれば、いつでも最高なのだ。

今日彼女は、ネイルの予約を入れているので、遅いランチのラーメン(彼女に何を食べる?と聞くと必ずラーメンになる)を食べ、ネイルショップのある駅まで送って行く事になった。

本当は、昼のデートを楽しみたかったのだが、あまり多くを望むのも・・・と思い我慢した。

駅へ着き、キスを交わすと彼女は車を降り、駅のエスカレーターへと消えていった。

俺は、彼女が見えなくなるまで見送っていたが、彼女が俺の方を振り返る事はなかった。

俺は少し寂しい気持ちになったが、「よく考えたら出会ってまだ2週間。こうして会っているだけでも、幸せだ。」と思いなおし、車を走らせた。


よく晴れた6月の土曜日は、日の光がとても眩しく、俺の小さな不安や不満をどこかへ消し去ってくれるような感じがした。

俺は「そう、まだ2週間。」と自分に言い聞かせる様につぶやいた。





翌日。
仕事に行こうと、8時過ぎに家を出たところで、携帯が鳴った。
昨日会った、親友からだ。
何かあったのかと思い、急いででてみると、「大丈夫かぁ?」と全然大丈夫そうじゃない声が、電話の向こう側から聞こえてきた。
「何が。」と俺。
彼は辛そうな声で、こう答えた。「いや、昨日結構飲んだから、寝坊しないかと思って・・・」
「おう。少し寝不足だけど、全然大丈夫だよ。オマエは?」と俺が聞くと、「メチャメチャ二日酔い。かなり具合が悪いよ。」と、声から察するに予想通りの答えが帰ってきた。
俺は「お大事に。」と告げ、電話を切った。
自分の具合が悪いのに、わざわざ起きて電話をくれるなんて。相変わらず、優しい男だった。
・・・何で、女にはあんなに冷たいんだ?と、少し疑問に思いながら、仕事に向かった。

朝から気分の良い電話で、寝不足気味の身体が、少し元気になった。

それからの数日、彼女と毎晩の電話とメールを繰り返し、心地よい時間が流れた。

そして週末の金曜日。
彼女との会話の中で、彼氏との予定がキャンセルになった事を告げられた。
俺は、「マジ!じゃ、金、土と会おうよ!」とすぐに聞いてみた。
彼女は「もう予定入れちゃったよ。それに、今日飲み会でしょ。」と言った。
・・・あ!そういえば、今週の水曜日に代々木でバーをやっている友人から連絡があり、「金曜日、大学生兼タレントの卵の女の子に合コン頼まれているんだけど、男四人集められないかなぁ」との連絡を受けた。
たまたま一緒にいた後輩三人に聞いてみると、「行きます。」と即答だった。
彼女から、「週末は彼氏と会う」と聞いていた俺は、少しでも気が紛れるならば、とOKしたのだった。
さすがに、この状況では、俺が行かない訳にはいかなかったが・・・
「大丈夫。一時間位顔出して、すぐ帰るから。会おうよ。」と、懇願したが。
「ムリ」と一蹴されてしまった。

がっかりしながら、自宅へと車を走らせていると、彼女からメールがきた。
「今日、会えるかも。もう予定入れちゃった?」との文字が!
俺は「大丈夫。一応、顔は出すから22時位に待ち合わせしよう。」とすぐに返信した。

自宅に着き、身支度を整え、代々木へと向かった。
20時の約束だったが、15分位遅れそうだったので、店と後輩に連絡をしてから家を出た。
タクシーを拾おうと思ったが、この時間は電車の方が早いので、駅へと向かった。


代々木駅からタクシーで店に向かうと、丁度後輩達がチャリンコを止めているところだった。

彼らは都内の移動には、全てチャリンコを使う。

飲酒の取締りもないし、(厳密には、自転車にも飲酒はあるのだが・・・)駐車料金はかからないし、とても楽なのだそうだ。

俺も一度、乗らせてもらったが、ブレーキも無く車輪と直結しているペダルは、とても扱い難く「よく酔ってあんなのに乗れるなぁ~」と感心した。

事実彼らは、よく転んだり車に突っ込んだりと、常に怪我をしていた。

前に「ブレーキくらい付けろよ。」と言った事がある。(法律上はブレーキを付けなければならないらしい)

すると、「かっこ悪いじゃないですか。」と、答えがかえってきた。

・・・そんなもんかなぁ~。


時計を見ると20:25を指していた。

俺は、「先に言ってるぞ」と後輩達に告げると、店内へと続く階段を駆け下りた。

店に入ると、店主の友人が笑顔で迎え入れてくれた。

「久しぶり。」と挨拶を交わし、握手とハグをした。

彼は「女の子達、お待ちかねだよ。」と言いながら、奥の席に案内してくれた。

席へ着き、彼女達を見ると、なるほど皆事務所に入っているだけあって、とても可愛かった。・・・が、以上にテンションが低い。

そりゃそうだ。三十分近く待たされているのだから・・・

俺はとりあえず、一人一人に謝った。

そこへ後輩達も到着し、それぞれのドリンクで乾杯した。

少々のアルコールと、料理を食べながら少しずつ会話も弾んできた。

驚いた事に彼女達は皆二十歳で、超有名私立大学の現役の学生だった。

「何で、この子達合コンやりたかったんだろ?」と疑問に思っていたが、話す内に段々と解ってきた。

ようは、30代に興味があるらしい。

周りにいる同年代の男よりは、金もあるし色々知っているからだそうだ・・・

・・・若いなぁ~。

彼女より、一つ年下なだけの女の子達だったが、話す内容全てが幼かった。

退屈な時間が過ぎ、時刻は21時30分を過ぎようとしていた。

「そろそろ、帰ろうかな。」と思った矢先、女の子の1人が用事があるので、もう帰ると言い出した。

俺は「ナイスタイミング!」と思い、一緒に店を出ることに。

一応、ずっと話していた女の子に電話番号を教えると、会計を済ませ後輩達に「金は払っておいたから後、宜しくな」と告げ、店を後にした。

店主の友人が見送りにきて、「どうしたの、こんな早く?」と、聞いてきた。

俺は軽い酔いも手伝って「これから、一番好きな女に会いに行くんだよ」と、答えた。

友人は笑いながら、「では、今度は二人でのご来店、お待ちしています。」と、お辞儀をした。

俺は「了解」と答え、丁度止まったタクシーに乗り込んだ。


タクシーから彼女に電話を入れた。

丁度彼女も、家を出るところだったらしい。

一応、22時20分に最初に待ち合わせした場所でと約束し、電話を切った。

新宿方面からの明治通りは工事で渋滞し、「電車にすればよかったな。」と少し後悔した。


彼女に会うのは、まだ3日ぶりくらいだったが、一秒でも早く会って抱きしめたかった。

こんな感情になったのは、ホントに久しぶりで、自分でも少し戸惑っている。

好きになればなるほど、上手くいかなかった時のダメージが強すぎて、自分自身少し怖かった。

まさか、俺が・・・

しかし車の窓に映る自分の顔を見ると、とても幸せそうだった。(そりゃそうだ。これから、大好きな彼女に会うんだから。)

その顔を見ながら、「絶対、上手くいく!いかせてみせる!」と、固く心に誓った。

車は、彼女の待つ池袋に到着しようとしていた。