自著の評判というのは、当然気になるもので、Amazonのランキングをときどきチェックするのだが、この半年以上、集英社新書のトップを走っている『時間はどこで生まれるのか』が、一人の読者に酷評されているのを発見してのけぞってしまった。
 文面から察するに、書いた人はPh.D.を持っている堅物の学者さんのようで、こんな下らないものは書くな、とダメ学生を激しく叱責しているような感じである。内容が間違っているとは書いていないから、想像するに、学者先生を揶揄した箇所にカチンときたのではなかろうか。博士号も持たない予備校講師の分際が何を分かったようなことを言うかというエリート意識がありありと現われている(決して付き合いたくない人種である)。
 しかし、そんなに酷評するなら、あなたの時間論を聞かせてほしいと言いたくなる。一般の人々を納得させられるような時間論をお持ちなのだろうか。学者歴イコール創造力ではない。ラテン語が出来ないレオナルド・ダ・ヴィンチを批判罵倒した当時の学者を思い起こすとよい。
 拙著はさまざまな読まれ方をしているが、著者自身が一番独創的と考えているのは、エントロピーの原理と進化の自然選択を結びつけたところにある。それは、言われてみれば実に単純な話で、単なる思いつきと言われてしまえばそれまでであるが、ぼくの知るかぎり、誰もいままでそんなことを言った人はいないのである。いわばコロンブスの卵である。
 コロンブスがあっさり卵を立てるのを見て、「そんなものは物理学ではない。物理学的に卵を立てる研究はもっと深くなされていて、云々」と批判するようなものである。
 Amazonの読者の覆面批評は、現時点で23件になっていて、絶賛してくれる方がかなりいる反面、哲学者などからの批判もわずかながらある。今回のようなこきおろしは初めてであるが、匿名で誹謗する輩など大した器ではあるまい。まあ、これも有名税ということか。



【注】この記事に関連するAmazonの書評は、現在、消去されています。2008.01.31