大修館書店から出版されていた月刊誌『言語』は、ぼくの出版社時代から、言語関係の学者や知識人必読の老舗の雑誌であった。昨年春に、その『言語』編集部から巻頭エッセイを書いてほしいと頼まれたときは、戸惑いももちろんあったが嬉しさもあった。ところが、その『言語』が昨年末で休刊になってしまった。単なる一雑誌の休刊ではない、良心的出版の敗北といった無念を感じた。編集部の方々の無念さは想像に余りある。
今春、少しだけ慰められる出来事が二つあった。ぼくが書かせてもらったエッセイは「文系と理系の垣根」というタイトルであるが、これを引用して下さった方々がおられるのである。
一つは、大阪人間科学大学の平柳行雄先生という方で、『日本語論証文の「書く」力を向上させるためのクリティカル・シンキング』(青山社)に、例題として引用されている。
もう一つは、九州の保険医療経営大学の今年度の入試問題として、全文が引用された。
「文系と理系の垣根」というのは、とくに文系の方々にとっては、大いに関心のあることなのだなぁという感想とともに、休刊になった『言語』の遺産が少しでも残り、またぼく自身の思うところが、いろいろな形で人々の目に触れるという執筆者冥利というものをちょっぴり感じたのだった。
もっとも、入試問題に正解できる自信はありませんが……。