古臭いパーマ屋に興味本位で扉を開けると
予想通り、地味な年配の女性が暇そうに椅子に座っている
奈津子は大学を卒業して、一応大手ホームセンターに
就職して、地方の店舗に配属された
過疎地というほうがきっと正しい
着るものにお金は掛けないけど、髪形というより、美容室散策が
好きで、それも古臭い美容室で理想はひとりでやっているところ
赴任してアパートに引っ越しして辺りを散策
東京と違って、足は自転車がいいかもしれないと思い
勤め先の社員購入でいちばん安い自転車を購入した
「あそこ」だったバスの車窓から見えた理想の美容室
つたの葉で覆われた、なんか地味な感じ
「いらっしゃいませ」と面倒くさそうに椅子から立ち上がって
奈津子の前に立った
「どうぞ・・・」通された椅子に座った
でかい女!強面の意地の悪そうな女性に引きながらも
椅子に座った
奈津子の肩辺りまでの髪を弄りながら
「どうされますか・・・?」
奈津子は別に決めていなかった
お店の人と話してからと・・・
「えっとヘアカタログとかありますか・・・・?」
あっあるよ・・・でも古いなこれ・・・
数冊奈津子の前に置いた冊子はいずれも昭和の本
・・・・
冊子を開けると、「夏に合うボブ特集」
お店の人も一緒に見ている
「じゃ~短いボブなんてどう?夏らしくさっぱりと・・・」
奈津子は時間をかけても仕方ないと思い
「そうですね・・・さっぱりとボブでお願いします!」と
女性はタオルを首に巻いて
ピンクのクロスを首に巻いた
霧吹きで髪を濡らして櫛で雑に梳かした
無言の重い空気が漂う
奈津子は携帯もいじれず、読む雑誌もなく
瞼を閉じた
どくどくの匂いにいつしか眠りについてしまった
女性は櫛で梳かすと耳たぶ辺りでハサミを閉じた
「ジョキリジョキリジョキリ・・・」
「ジョキリジョキリジョキリ・・・」
あっという間に耳タブが見えるくらいのボブになっている
女性は躊躇せず
耳半分でハサミを横から一気に後ろへと揃えていく
「ジョキリジョキリジョキリ・・・」
「ジョキリジョキリジョキリ・・・」
後頭部の髪はそのまま無造作に残してある
奈津子の顎を持ち上げ起こさないように静かに
額の真ん中あたりで丸く揃えていく
「ジョキジョキジョキ・・・」
幼い女子のような髪形になっていく
さらに短く揃えて生え際から短いところで1センチくらいまで
横も髪を濡らしては揃えていき、耳に掛かるくらいまで
揃えられてしまった
女性は棚から黒い大きなバリカンを取り出し
コンセントに差し込むと電源を入れて
静かに奈津子の頭を押さえた
ブ~ンという低い音とともに
「ガリガリガリガリ・・・・」
「ガリガリガリガリ・・・・」
真っ青に剃られていく後頭部
「ガリガリガリガリ・・・・」
「ガリガリガリガリ・・・・」
奈津子が目を覚ましたとき、すでに悲惨な髪形になっていた
バリカンは奈津子の後頭部を真っ青に剃り上げて
もみあげも綺麗に剃り落とした
頭を起こされたとき、衝撃の髪形になったいた
昭和の女の子、前髪は短く丸くきっちり揃っている
女性はうれしそうに「可愛いね・・・似合う!」と
なんだか楽しそうに後頭部を鏡で見せてくれた
「ほら・・・ジョリジョリ」真っ青になっている
すぐ伸びちゃうからね・・・
いちばん短い刃で刈ったから・・・
あ・ありがとうございます
女性はクロスを外してシャンプー台へと案内した
大雑把にシャンプーしてトリートメントらしき液体を
掛けてしばし置かれた
そのあと髪を流して元の椅子に案内された
ざっくりと世間話をして
単身赴任で東京から来たことを話すと
「へ~」と何度も驚いていた
悪い人ではなかった
最後にまたクロスを掛けて
「あ~切らないで・・・」という心の声も空しく
前髪はさらに短く
横もさらにきっちり揃えて
ロールブラシで梳かしながら髪を乾かした
最後に髪が固まるスプレーを全体にかけて完成した
昭和の女子の完成だ
奈津子はお金を払って
「ありがとうございました」といい、お店を後にした
自転車に乗りスーパーに寄り
周りの滑稽な笑い声に耳を澄ませながら
「恥ずかしい・・・」
後頭部を隠せず、自転車に家路についた
翌日勤務先で「刈り子」というあだ名が付けられ
名前で呼ばれることはなかった
おわり