ほら副所長、そんな長い髪して邪魔じゃないのかしらね・・・

「結局、本社から来た女性なんて仕事なんてやる気ないのよ・・・」

そう影口が毎日聞こえてくる

呟く人は「辞めない年配の女性二人、金森佳代、大橋利子」だった

既に5年目のベテランだが、新人をいじめて辞めさせている悪女

 

二人の髪は短い、耳が出るくらいのベリーショート

 

商品センターの空調が弱すぎて「暑いから!」短くしたの・・・

そう言っていたことを思い出した

 

確かに暑い、空気の流れがなく何もしていなくても汗が流れる

湿度90%・・・・ジメジメする環境に耐えられず、断髪したらしい

 

副所長の歓迎会のとき、二人のおばさんが隣に来た

「あら!まだ髪切ってないのね・・・」絡んできた

嫌味な雰囲気を醸し出しながら・・・

 

志桜里は別に長い髪が好きでもなかった

「キャリア」のためなら・・・

 

「私、ショートにしたときなくて・・・」

「どんな髪形が似合いますかね・・・」

 

すると目を大きく見開いたおばさん達は

「あら!そうね・・・あなたの髪は癖のない、真っ黒な髪だから・・・」

そう言い、言葉を止めた

「せっかくだから、私たちの行きつけのお店に行きましょう!」

そうね、それがいいわね

 

「私たちが決めて上げる!」

「いいわね!・・・」

 

志桜里はショートカットした自分を想像した

「身長の高さ」が結構恰好良い!きっと

自分にそう言い聞かせた

 

翌日、仕事が終わって金森さんの軽自動車で「行きつけのお店」へと

向かった

 

数十分走ると小さな駅の商店街入口付近で車を降りた

 

「ほら!あそこよ・・・」

 

「えっ…・マジ」

 

小さな木造ボロボロの理髪店が佇んでいる

「金森理髪店」と剥げ落ちた看板に書かれている

 

「さ!入って・・・あたしの母がやっている床屋さん!」

 

少し安堵した・・・

 

「母さん!昨日話してた会社の偉い人」

 

「偉い人」・・・悪くない

 

「どうぞ・・・」

 

武骨な古臭い床屋の椅子に案内された

 

「じゃ~お願いね・・・昨日話した髪形にね・・・」

 

そう言いながらお店の奥の居間へと消えて行った

 

「気の良さそうな理容師さんに・・・」話しかけたが返答はなかった

 

志桜里の首にタオルと真っ白なクロスを掛けた

 

結わいている髪を解いて、無造作に下ろした

 

理容師さんは志桜里の頭を「クィっと」前に倒した

 

倒しながら冷たい触感の物を動かした

 

「カチカチカチ・・・」

 

「えっ・・・・刈られている」

 

結構な力で抑えられている

 

「カチカチカチ・・・・」

 

長い髪が邪魔なのか・・・

後頭部の髪を前に上げながら「カチカチカチ・・・」

 

耳の付け根辺りまで上下を繰り返した

 

「カチカチカチ・・・」

 

数十分頭を抑えれて、手動バリカンで刈られてしまった

 

今度は頭を起こして、霧吹きで髪を濡らした

 

水が垂れるくらいに濡らした髪にハサミが入った

 

「ジョキジョキジョキジョキ・・・」

 

「ジョキジョキジョキジョキ・・・」

 

太くて黒い髪がクロスに落ちている

 

耳半分が露わになってきた

 

さらに「ジョキジョキジョキジョキ・・・」

 

「ジョキジョキジョキジョキ・・・」

 

耳の付け根辺りで揃えられてしまった

 

横も後ろも真っすぐに

 

理容師は志桜里の前に立つと

前髪を櫛で真っすぐ下ろした

 

「ジョキジョキジョキジョキ・・・」

「ジョキジョキジョキジョキ・・・」

 

見えなかった鏡が見えてきた

 

「えっ・・・」

 

理容師は容赦なく前髪をこめかみいっぱいのラインで揃えていた

直角になるように何度も揃えているせいか・・・

青白い肌が露わになってきた

 

「もう切らないで!・・・」

心で叫ぶも、理容師はさらに前髪を揃えている

 

生え際1センチから2センチくらいでパッツンと揃えた

 

横は耳に掛かるくらいの長さで揃っている

 

理容師はコンセントにバリカンを差し込み電源を入れた

 

モーター音とともに志桜里の後頭部は剃り上げられている

 

「ジリジリジリ・・・」

「ジリジリジリ・・・」

 

電気バリカンの刃が熱い

 

手遅れな恥ずかしい髪形に驚愕した

 

理容師は笑顔で「あら!可愛いわね・・・」呟いた

 

「キャリア女性」に似合わない、恥ずかしい髪形に言葉が詰まった

 

そのあと、初めての洗髪、そして顔剃り

「恥ずかしいくらい細い眉」

もともと太くて黒い眉も、青白く剃られている

 

こめかみも青々としている

 

「はい!」

 

終わった、悪夢の断髪が・・・

 

¥2,800いただきます

 

「金取るのか・・・こんな髪形で!」と思いながらも財布から払った

 

「あら!」随分思い切った髪形にしたのね・・・

嫌味な笑みを浮かべながら、剃りたての後頭部を二人で撫でた

 

「お母さん!」毎月お願いね・・・

 

「ま・い・つ・き・・・・」

 

「志桜里さん!良かったわね・・・素敵な髪形になって!」

苦笑しながら家路についた

 

翌日、恥ずかしい髪形のまま電車に乗って出社した

朝から周りの笑い声と、「ひどい髪形!」。。。聞こえる

 

職場でも周りから「やるね・・・」「凄いね!」と声を掛けられた

 

「我慢!」そう呟きながら仕事についた

 

昼休み、私の周りにおばさん達がやって来た

「あら!こんなに汗かいて・・・」

すると食堂のぞうきんで後頭部を拭っている

 

「あ!ごめんなさいね・・・」

 

数週間後、志桜里は食堂の片隅で後頭部を刈られている

 

「ジ~ジ~ジ~ジ~・・・」

 

シェーバーで後頭部を剃られている

 

「はい!完成!良かったわね・・・」

 

ワカメちゃんカットは後頭部を綺麗に手入れしなきゃね・・・

 

志桜里の余計な一言が

「ここ伸びたら、男性の髭のようになるのかな・・・」

「そしたらみっともないかな・・・」

 

化粧室の鏡で呟いているところを聞いてしまった

 

「大丈夫よ!私たちがきれいに剃って上げますから・・・・」

 

「えっ!あ・・・大丈夫です!」

 

「ダメよ!あなたは偉い人なんだから身だしなみもね・・・」

 

二人は顔を見合わせてうれいそうに呟いた

 

副所長という肩書で呼ばれる機会は減っていった

 

「ワカメちゃん!」みんなからそう呼ばれている

 

ある意味「チームワーク」は出来てきた

 

「まっ!いいか・・・」もうすぐ戻れるし・・・

 

半年後「ワカメちゃんカット」で本社で杉沢人事部長と話した

 

「志桜里さん!」あと3年、商品センターお願いね

その髪型じゃ・・・営業部は無理ね

顧客相手じゃね・・・

 

~「えっ・・・」

「キャリア」は・・・・

 

半年前の人事発令書がまた貼られている

 

「あっ!」あのときの・・・まだ貼ってある

 

 

 

「配属転換」、人事発令という紙が食堂に貼られている

 

大谷志桜里 営業部(旧)  商品センター(新)

 

えっ私が、第二営業部課長という肩書から「えっ・・・」

 

昼食を済ませると、人事部から「至急!来てください」と内線が入った

 

入社8年目、それなりに会社に貢献してきた自負があるし、営業成績だって決して悪くはないのに、なんで・・・私が

髪を結い直して、人事部の扉を開いた

 

杉沢京子人事副部長は志桜里を来客用の応接室へと導いた

 

「大谷さん、3日間で今の仕事の引継ぎをしてください」

「商品センターは、輸入商品を扱う郊外の倉庫に」と告げられた

 

「キャリア」目指すなら「経験」という説得と、内部統制を図ってほしいという役職は「副所長」の言葉を聞いて人事発令を快諾した