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クリックお店には、実にいろんなお客様が訪れる。
それは、先日の日曜日のことであった…
メ～ンズ♪ビギ！
メ～ンズ♪ビギ！
メ～ンズ♪ビギ！
遠くから念仏を唱えるような声が聞こえる。
どうやら“メンズビギ”を変な節回しで
連呼しているようだ。
通路を真っ直ぐこちらに近づいてくる。
通路を歩いているからには、
一応お客様である。
しかし、どう見ても怪しい…
スカジャンにジーンズ、
足元はエンジニアブーツ、
さらにシルバーアクセをジャラジャラ…
風体は明らかにオジサンである。
人を見かけで判断してはいけないが、
服装や言動は、少なからずその人の精神状態を表すものだ。
できれば、他所に行って欲しいが、
メ～ンズ♪ビギ！と言いながら
タケオキクチやニコルに行くとは思えない。
３メートルぐらいの距離に近づいた時、
スタッフの仁田が私の耳元で、
「酒飲んでますね」
と囁いた。
確かに顔は赤黒い。
でも、何か危害を加えないかぎり
お客様はお客様なのだ。
私は「パターンA」で応対することにした。
店内に入ってくると、
相変わらずメ～ンズ♪ビギ！と言いながら
私の周りをゆっくり一周した途端、
ヌーっと顔を突き出し対峙した。
「懐かしいなあ～、メ～ンズ♪ビギ！」
「そうでしょう～、
もう43年も経ちますからね～♪」
と、私は“メ～ンズ♪ビギ！男”の節回しを真似て答えた。
こういうタイプのお客様を接客する時は、
長年の経験から
言い回しや口調を
お客様の調子に合わせることにしている。
これが「パターンA」だ。
決して怯んだり下手に出過ぎてはいけない。
相手のペースに引き摺られるからだ。
明るくハキハキと
相手より大きな声で話すのがコツである。
“メ～ンズ♪ビギ！男”は、
「JUNとかDOMONとかさあ～、
もう無くなっちゃったの～♪」
と聞いてきたので、
「もうとっくの昔に
無くなっちゃいましたよ～♪」
と答えた。
こういうやり取りを何度か繰り返したが、
“メ～ンズ♪ビギ！男”独特の
節回しに慣れてない私は、
だんだん調子を合わせるのが
メンドクサクなってきたので、
応対を「パターンB」に変更することにした。
酔ってはいるが、
どうやら危害を加えることは無さそうだ。
ちなみに「パターンB」とは、
タメ口のことである。
これは使い方を一歩間違えると
大変なクレームに発展する恐れがあるが、
上手く使いこなせば、
相手との距離が劇的に縮まるウルトラCだ。
マニュアル化された接客というものは、
時と場合によっては
逆に相手を苛立たせることがある。
一癖ある相手には通用しない。
結局は販売員とお客様ではなく、
人と人なのだ。
心が通じ合うかどうかが大事である。
早速私は、
「これ、ヒステリックグラマーのスカジャンじゃない！似合っててカッコいいねえ！」
と言いながら、
“メ～ンズ♪ビギ！男”の両肩を
ポンポン叩いた。
ボディタッチは私の奥の手である。
笑顔で誉め言葉をタメ口で言いながら、
同時に相手の身体に触れると効果倍増だ。
これが、「パターンC」である。
いわゆる併せ技だ。
どんなに癖のある相手でも、
これで落ちなかったためしがない。
気を良くした“メ～ンズ♪ビギ！男”は、
「いやあ、アナタの方が断然カッコいいよ！
もしかして同世代？」
「あ、オレ53だけど、何歳？」
「オレは55！」
“メ～ンズ♪ビギ！男”は、
いきなり私に手を差しのべ、
私も彼の手をしっかり握り締めた。
一体何の握手か分からなかったが、
ハグよりはマシだと思った。
「また来るよ～！」
と言って、彼はお店を出ていったが
来るときと同じように、
メ～ンズ♪ビギ！
メ～ンズ♪ビギ！
メ～ンズ♪ビギ！
と再び独特の節回しを連呼しながら
去っていった。
どうも昔から私には、
一風変わった男を引き寄せてしまう
磁石のようなところがある…
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「Paul McCartney＆Wings」
“磁石屋とチタン男”
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メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより