私が昼食から戻ると、
仁田がスーツの接客をしていた。
お相手のお客様は親御さん連れで、
大学の入学式でお召しになるスーツが
目的だった。
入社1年弱の仁田は、
スーツの接客の経験がまだ浅い。
成り行きを見守っていると、
まずまずスムーズの展開である。
親御さんもご本人も
気に入っていらっしゃる様子だが、
太ももがややキツく感じられるようだ。
私が見た限りでは
そのままでもよさそうだったが、
初めてスーツを着るご本人にとっては
そう感じられないようである。
そこで仁田は、
太もも部分を拡げるお直しをご提案した。
と私は心の中で思いながら、
彼の成長ぶりに目を細めたのである。
そしてお客様もご納得してお決め頂いた。
太モモのお直しは頻繁にはないので、
彼は〈お直し料金表〉を確認したが、
念には念を入れて私のところにも
確認しに来た。
⁉…
ももキン?
私は最初、自分の耳を疑った。
何かの聞き間違いだろうか…。
いや、確かに彼は”ももキン゛と
言ったはずだ。
もしかして、販売歴30年の私でさえ
知らない専門用語がまだあるのだろうか?
先週の金曜から始まった
”プレミアムフライデー゛のことを
言ってるのだろうか?
そんなバカな…私は彼が差し出した〈お直し料金表〉を
老眼鏡を掛けもう一度見直してみた。

そこには…
ももキン ではなく、
もも巾(はば)と書かれていた。「アホッ!オマエこれ、
キンじゃなくて 巾(はば)
だろっ!」
その瞬間私の身体に、
脳天から爪先まで雷に打たれたような
衝(笑)撃が走った !
のは言うまでもない。
不謹慎とは思いつつ、
私はお客様のいる前で
込み上げる笑いを堪えることができず、
ゲラゲラと笑い続けた。
あぁ、苦しい…
だって、こんな場面に遭遇し
平然としていられる人間がいるだろうか?
聞こえていたのかどうか分からないが、
釣られてお客様も笑っていた。
どうやら彼にとって「巾」という字は、
「巾着」の「巾」
を連想させるらしい。
分からぬこともないが…
いやいや、やっぱり分からない。
「温故知新」を「うんこ知新」と言い放ち、私を驚愕させたばかりだ。
なんという おバカな男 だろう。見た目は育ちが良さそうでお洒落、
普段の会話もスマートで
ウィットに富んでるというのに…

こんなことなら面接だけでなく、
一般常識試験をやっておくべきだったか…
私は仁田に、
「今から君を゛ももキン゛と命名する。
そして明日から毎朝〈お直し料金表〉を
私は仁田に、
「今から君を゛ももキン゛と命名する。
そして明日から毎朝〈お直し料金表〉を
朗読するように」と告げた。
それにしても、
それにしても、
計算のない偶発的な出来事は、
なぜこれほど面白いのだろう。
その年で一番面白かったスタッフに
その年で一番面白かったスタッフに
贈られる年末のGM賞争奪戦は、
これで熾烈を極める展開となったのは
確かだ。
メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
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