ランチブレイク、9ヶ月ぶりのリリースとなる新作はなんと初のフルアルバム。
サポートベース、すみれスミス(ba)の加入により一層ライブ活動に励んでいた彼ら。
新曲4曲に加えてライブでは欠かせない既存曲のリ・アレンジ4曲が収録されたファン待望の1枚となっている。
ライブ活動休止中でありながら今回のレコーディングには全面参加しているハシモトケンゴ(ba)にアルバムの制作の裏側、活動休止中の動向について迫る。
(インタビュアー:ハンプティ"熊谷"ダンプティ)
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5.ふたりはペア
熊谷:それでは前半4曲に引き続き、後半もよろしくお願いします。
アッパーな楽曲中心の前半とは違い、後半はドッシリと腰を据えた落ち着きや味わい深さのある印象です。
特に後半1曲目の「ふたりはペア」ですが、今までのランチブレイクにはなかった整然とした音像ですね。
ハシケン:「ペア」は小松が作詞曲なんですがデモの段階で完成形のムードはもう表れてましたね。
今回の新曲4つの中では一番最初に出来上がった曲だったのもあって、デモにベース入れをする余裕もあり、唯一メンバーとコミュニケーションを取りながら曲作りを進めた感覚です。
熊谷さんの"整然としたサウンド"という例えがすごく腑に落ちる表現で、僕の中ではこの曲のテーマって"節制"と"余白"なんですよ。
熊谷:たしかに楽曲全体を通してどちらも強く感じる部分です。
ミドルバラードのような楽曲だけどドライブ感みたいなものがあまり無く、リズム自体はすごくミニマルな印象を受けます。
同期トラックも控えめというか、踊らせる感じではないし。
ハシケン:同期トラックがある場合、どうしても耳に入る情報は増えてしまうので、ベースとしての仕事は果たしながらも出来る限り音数は絞ろうとしてました。
熊谷:イントロからしてポツリポツリとリズムを刻んでいくようなベースですよね。
これは同期トラックや歌メロを聴かせるためのアプローチだったと言うことですね?
ハシケン:もちろんそれもありますが、音数少ない方が1つ1つの音選びが問われるじゃないですか。
この曲はそうやって慎重に肉付けをしたくて。
デモの段階で歌詞も全部出来上がってたんですが、何というか、すごくメッセージが曖昧に感じたんですよね。
パッと歌詞を見るとラブソングのようにも映るんですが、前作の「わっかのうた」のように明らかに男女の歌と言い切っていないし。
それなら聴いてる人の解釈に委ねるようなサウンド、と思って敢えて最低限の音数を心がけました。
そういう意味でも"余白"ですね。
熊谷:前作「ヒストリア」ではとにかく足し算のスタイルだったのに対し、ガラリと変わりましたね!
語弊があるかもしれませんがスタジオミュージシャンっぽいんですよね。
荒井由実さんのバックだった頃の細野晴臣さんとか…。
ハシケン:まさに初期ユーミンの細野さんやカーペンターズのベーシスト、ジョー・オズボーンなんかはすごく参考にさせてもらいました。
ただ、音数少ないからといって薄っぺらい音にはしたくなくて、チューニングをドロップD(通常、解放がE音である4弦をD音にチューニングすること)にしてます。
時たま登場するローDのエグみ・重みが結構気にいってます。
《鉄板の「Lovin' You」進行のイントロから細野さんのメロディアスなベースが堪能出来ます》(ハシモト)
《言わずもがなの超名曲ですが意外とゴツゴツしたジョー・オズボーンのベースが存在感大》(ハシモト)
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熊谷:ゆったりしたAメロに対し、サビは緩急のあるベースワークでメリハリが出てますよね。
サビのメロディアスなフレージングも見事ですが、歌メロに対しての絡み方にもすごく慎重な様子が窺えます。
ハシケン:この曲の聴かせどころはなんと言ってもサビのメロトロンっぽいキーボードの音色だと思うんですよね。
代表的なメロトロン名演と言えばビートルズの「Strawberry Fields Forever」ですが、そこでもメロトロンの音を活かすためなのかバックはスカスカなんですよね。
だからサビはベース音をポツポツと置いていく感覚で弾きました。
後半の展開のために4分のルート弾きはとっておきたかったし。
動きのあるフレーズはほとんど自然発生的に出てきたのでよく覚えてませんね。よく出たな、と自分でも思います。
熊谷:どこか淡々と聴こえますが的確に歌メロをフォローしている真似したくなるベースラインです。
同様に1番サビ終わりのインターリュードでの和音のプレイは良く聴くと技アリなアプローチですね。
ハシケン:あそこはトップノートを固定してルートを動かす感じで弾いてみました。
そんなに難しいことやってないのに結構グッとくる便利なフレーズです。
熊谷:2番サビは間奏に向けて1番よりも更にメロディ寄りになってますよね。
特にハイノートでのプレイは非常にヴォーカル泣かせなフレーズですね(笑)
ハシケン:"節制"という観点から見ると全然我慢できてないんですが、山場に向けてストーリー展開を作りたかったポイントですね。
「歌を喰っている」と批判されそうでもありますが、カウンターメロディー的で個人的に気に入ってるんでまぁ良いかな(笑)
《ポールが弾くベースには正解だと思わせる説得力があります》(ハシモト)
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熊谷:楽曲後半の壮大さには驚きました。
前半のミニマルな雰囲気から一気に広がりを見せて、コーラスワークで変化をつけるアレンジは新しい。
ハシケン:リズム的にもグワッと解放されている感じはありますよね。
実はこの曲って左チャンネルが生ドラムで右チャンネルは小松が打ち込んだドラムなんですよ。
前半では若干の味付け程度だった打ち込みドラムですが、後半から生ドラムの"余白"に対して打ち込みドラムがツッコミのように刺さってくるんです。
熊谷:ドラムに関してはどうなってるのか、と気になっているポイントでもありました!
切り貼りして繋ぎ合わせたのかと思ってましたが、そもそも生ドラムと打ち込みは別だったんですね。
ハシケン:謂わばツインドラムですよね。
それでもサビのベースライン等はあまり変えず、局所局所で感動をプッシュするようなフレーズに留めたのは"節制"を強く意識したからですね。
熊谷:ベースが大きく動いても映えるポイントではありますが、そうしなかったところに懐の深さを感じます。
何重にも重なっているコーラスワークも涙腺を刺激しますし、misakiさんのヴォーカルも狙いに行きすぎない感じがこの曲らしい。
ハシケン:結局ポップスは曲ありきですからね。
出てきた曲に対して最適なベースを付ける、という観点では今回のレコーディングの中でもトップクラスの完成度だと自負してます。
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6.髪を染め上げたなら
熊谷:1stアルバム『ランチブレイク!』から2曲が収録されているのも昔からのファンには嬉しいですよね。
そのうちの1曲がライブでお馴染みの「髪を染め上げたなら」と言うセレクトも。
ハシケン:キャッチーでパンチもあるし、ライブで演奏する機会も多い曲でしたから。
だからこそ正直"今さら録り直さなくても…"と思っていたんですが、1stに収録したのを改めて聴いてみてビックリしましたね。
熊谷:僕もインタビューに備えて聴き直してみたんですが、大まかなアレンジはあまり変わってないものの、全然違う曲になってますよね。普段ライブで「髪染め」を聴いている人からしたらギャップ凄いでしょうね。
ハシケン:そうそう。だから今回再録候補に上がったんですよね。
そもそも1stの頃はランチブレイクがまだクソトングと小松の2人のユニットだった時代で。
1stでは僕も「シンガポール」と「ランチブレイク!」の2曲しかサポートで弾いてないんですよ。
熊谷:そっか、1st録音したのってその頃なんだ。
じゃあハシケンさん自身も「髪染め」のベース録りはお初なんですね。
ハシケン:1stの「髪染め」は小松の打ち込みベースですね。
当時ベースを弾くことになったのも小松から"ちょっと2曲くらい手伝って"って言われただけですから(笑)
だから「髪染め」が今みたいな姿になるのはもうちょっと先で、この頃はあくまでもユニット感が強いですよね。
熊谷:なるほど、まだ知られざる頃のランチブレイクですね…。
たしかにまだバンド感は皆無で脱力系ポップって感じ。
トングさんの歌い方も何というかすごく気だるい。
ハシケン:すっごいだるそうですよね。
あれはトングの好きなアジカンの影響なのか、あえて気だるいニュアンスを狙ったのか分かりませんが。
テンポ設定も今よりゆったりですし、前に前に進む推進力はないですね。
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熊谷:1stに収録されたものに比べると今回の「髪染め」がいかにブラッシュアップされたものか実感します。
脱力感やゆるさは一新され、メンバー同士の連帯感が非常に強くなったような印象を受けます。
ハシケン:たしかにメンバー全員がクローズアップされている感覚はありますね。
船橋のドラムはヤンチャでいながらしっかりタイト、misakiのキーボードも奔放なプレイで遠慮が無いし、小松のギターはエッジが立っていて低温ヤケド的なヒリヒリ感が良い。
トングは…歌がすごい上手くなった(笑)
熊谷:ド直球(笑)
他の曲に比べてベースは比較的シンプルな印象ですが何か心がけたことはありましたか?
ハシケン:歪みの音作りは時間かけたかなぁ。
「ハーフアップ」と同じくDarkglass B7K Ultraを使ったんですが、こちらは自然で耳障りの良い歪み感に凝りましたね。
堅実にバックアップするようなベースなのでただルート弾きをしていても気持ち良い音を目指してみました。
熊谷:他の楽器を殺さない良い歪みですね。
ルート弾きもそうですが、特にサビ前のBメロでのうねりのあるフレーズなんかはザラリとした後味が良く引き立ちますね。
ハシケン:Bメロはトングの作詞が光るパートでもあるんですよ。
《ワクワクドキドキした青春時代も表現すれば無駄なことね》とか《偉いのは脂の乗った先生方々》だったり皮肉の効いた表現が凄くトングらしいですよね。
ネガティブなものってドロっとした負のパワーってあって、それをフルに引き出すためにはやっぱりうねりのあるフレーズですよね。
熊谷:そういうもんですか?(笑)
ハシケン:そういうもんですよ。
だってラーメンだって濃厚なスープにはうねりのある縮れ麺がセオリーじゃないですか(笑)
僕のベースの先生である亀田師匠も今ではトレードマークにもなっているRoger Mayer Voodoo Bassを手にする前と後では演奏スタイルがガラッと変わったらしいですからね。
音色が変わることでスタイルが変わることもありますよ。
《亀田師匠のうねりのあるベースと言えばコレ。歪みありきの立体的なベースライン》(ハシモト)
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7.うさぎのめだま
熊谷:「髪を染め上げたなら」に引き続き1stからの再録で「うさぎのめだま」ですね。
この曲はランチブレイクにとって歴史の深い曲ですよね?
ハシケン:「うさぎ」に関しては喋らせると長いですよ。
ランチブレイク、というよりは小松が曲を生み出してから8年~9年くらい経ってますから。
まだ僕も小松もトングも大学生だった頃のことです。
熊谷:そんな昔からある曲なんですね。
こんな機会もなかなか無いので是非聞かせて下さい。
ハシケン:前のインタビューでも話したような気がしますが、元々小松はランチブレイク(当時はthe lunch break)でドラムを叩いてたんですよ。
もちろんその頃は僕もランブレには所属してなくて、リードギターとベースを含めて4人編成のバンドでしたね。
熊谷:そうでしたよね。
未だに小松さんがドラムってあんまりイメージ湧かないんですけど。
ハシケン:その頃のランチブレイクでも「うさぎ」を演ってたんですがアレンジが全然違ってて、トングの良い意味でのおちゃらけ感が強い軽快なロックだったんです。
the lunch break『おひるやすみ』という完全自主製作のCDにそんな「うさぎ」が収録されていて、今となってはめちゃくちゃレアなCDかもですね。
熊谷:うわー、それファン垂涎の1枚ですよね!
その頃の演奏と聴き比べてみたいな。
ハシケン:このインタビューに備えて僕も家にある『おひるやすみ』を聴き直したんですが、なかなかどうして面白いCDでした。
実際のところは分かりませんが、バンド内のパワーバランスがトングにグイっと持っていかれてるようなところがあって、彼のやりたいロックを凝縮してる感じ。
で、その頃に小松主体で"小鹿バンド"と言う謎めいたバンドも並行して活動してたんですが、僕はその小鹿バンドの方に居たんですよね。
熊谷:小鹿バンド…たしかビッグバンドのサークル内で組んでたバンドでしたよね?
『ランチブレイク』『ランチブレイク2』まで一緒に活動してたドラムの佐藤さんと一緒の。
ハシケン:そうそう。小鹿バンドってブルースでもカントリーでもジャズでもフュージョンでもやりたいことはとりあえずやってみる団体で。
小松もその頃はやりたいことを模索してた感じで、とにかく色んな演奏をしたなぁ。
それこそ小鹿バンドでも「うさぎ」をやったんですが、その頃の小松の趣向でもあったと思いますが、びっくりするくらいレゲエ調のアレンジでしたね。
そのアレンジが完成形の基盤となっているとは思いますが。
熊谷:なるほど。今の「うさぎ」にも仄かにレゲエを感じるリズムが使われていたりしますよね。
まだ世に出る前のプロトタイプがその頃には生まれていたとは!
ハシケン:元々はレゲエ調でめちゃくちゃ素朴なんですよ。
リズムもシンプルだし、音もスッカスカで無防備。
だからこそ親しみやすさみたいなのがあって、今でもすごく好きなテイクですね。
小鹿バンドでも『うさぎのめだま/父親』って両A面みたいなCDを作ったんですけど、そのレコーディングの逸話がまたパンチあって(笑)
小松がまだ宅録初心者だった頃なんですが。
熊谷:当たり前ですけど小松さんにも初心者だった頃があるんですね…
ハシケン:『うさぎのめだま/父親』は基本的に一発録りなんですよ。
スタジオに4人集まっていっせーので、で。
まずそれだけでよくやったなぁと思うんですけど、いざレコーディングが始まってみるとベースとキーボードの音が何故か周りに聴こえないんですよ(笑)
熊谷:まさか一発録りなのにスタジオにはドラムとギターの音だけ流れてるってことですか?
ハシケン:そうなんです。でもベースとキーボードの音は録れてるし、弾いてる本人達はヘッドホンから自分の音は聴こえるってことでそのままレコーディング強行したんですよ。
ドラムとギターの挙動を見ながら完全に目視でタイミング合わせてましたね。
僕が演奏中ミスっても周りは止まらないから"ミスったら挙手"という変なルールも出来て(笑)
熊谷:そんな状況下で良く強行しましたね(笑)
ハシケン:いや、ホントに。
小松もその場でめっちゃ焦ってたと思うんですけど、今の彼のサウンドエンジニアっぷりを見ると信じられないですよね。
結局なんだかんだでそれなりのテイクが録れて「うさぎ」を作品化出来たことに満足感はあって。
しばらくして小松は兵庫県に音楽の武者修行に行って、僕は残りの大学生活でとにかくジャズばっかりやってたので、2年くらいは空白の期間があったんですよ。
熊谷:その2年後が1st『ランチブレイク』がリリースされる2015年なんですね。
ハシケン:ある日、小鹿バンドで鍵盤を弾いてた友人から"小松が札幌に帰ってきた"って話と同時に、生まれ変わった「うさぎ」のデモを聞かされたんですね。
そのデモが1stに収録された「うさぎ」の原型で。
初めて聴いた時の感想は"小松も都会に染まってしまったなぁ~"でしたね(笑)
熊谷:あんなに素朴で純粋だった「うさぎ」が2年の間で大人になってしまった…みたいな?
ハシケン:「木綿のハンカチーフ」みたいな状況ですよね(笑)
それくらい垢抜けてて、何だか電子音もいっぱい入ってて、コードも何やら難しくなってて…
今思えば小松が当時やりたいことを全部詰め込んだようなサウンドだったんじゃないかな。
だからCメロなんかは結構混沌とした瞬間もあるし、コレが完成品と言うには拙いところも残ってて。
《the lunch breakと小鹿バンドが対バンした伝説のライブハウス、小樽CRU-Z》(ハシモト)
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熊谷:僕は1stの頃からランチブレイクのライブをたびたび観てますが、「うさぎを」ライブでやる頻度って割とまばらでしたよね?
ハシケン:30分のセットリストを組む時に「うさぎ」って絶妙な立ち位置で。
「温泉」とか「なんてないいな」に比べると即効性が薄くて尺も割と長い。
だから必然的に演る回数は少なかったと思うんですけど、僕はそれがちょっと残念だったんですよね。
だって「うさぎ」ほど小松の人生観というかイズムみたいなものが濃縮されてる曲って無いと思うんですよ。
熊谷:すごく良く分かります。
今回収録された「うさぎ」はたしかに尺こそ長いものの、今まで以上に完成されている印象です。
いわゆるライブ向きではないですが、逆にこういう曲を演奏してるバンドってなかなか無い。
ハシケン:このアレンジはたしかスリーマンライブの時のなんですよ。
ランブレがトリだったのでアンコールがあった時用の1曲を決めあぐねてて、ベターに「髪染め」なんかが候補に上がってたんですが、僕がこのアレンジでの「うさぎ」を提案させてもらいました。
今までのランブレのキャラクターだと最後は盛り上がって終えるのが鉄板でしたが、その時は何だか感動的に締めくくりたいなと思ったんですね。
熊谷:エンディングでそれまでのボルテージを敢えて落とすのがすごく新鮮。
一貫してどこかレゲエっぽさを残したリズムが完全に取っ払われてアコースティックな雰囲気になったような。
ハシケン:さすがの着眼点ですね。
このエンディングは元々アコースティックver.のを借りてきてるんですよ。
小規模なカフェとかバーでは小松・トング・misakiの3人でアコースティック編成のライブをしていたんですが、その時の「うさぎ」のエンディングがすごい良くて。
初めて聴いた時はこのクリシェのコード進行に完全にヤられちゃいました。
熊谷:"忘れないでいてほしいよ"のところですよね?
すごくドラマチックな演出です。
ハシケン:そうです。ルート音ではなく構成音が半音で上下するタイプのクリシェで、代表的な例を挙げると山崎まさよしさんの「One More Time, One More Chance」の出だしがモロに近いんですが聴き手を切なくさせる効果がありますよね。
《まさにクリシェのお手本のようなイントロ!》(ハシモト)
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熊谷:曲のバックボーンと解説だけですごく長くなっちゃいましたが、ベースも音色・フレーズともにかなり練られたのではないのでしょうか?
ハシケン:時間はかけましたけど、こだわっただけあってすごく良い音じゃないですか?
完全に自画自賛ですけど(笑)
ふくよかなローを意識した結果、ここでもほとんど親指弾きで通しました。
「雨の中華街」「白波」では無機質な低音を出すためにパームミュートを使ってましたが、「うさぎ」ではアタックを抑えて暖かみのある音になってます。
熊谷:同じ奏法でもこんなに音が変わるんですね。
たしかに「白波」でお話していたアンソニー・ジャクソンのような親指弾きともまた違いますね。
ハシケン:アンソニーの親指弾きはもっとコシがあって、ドクドクとグルーヴする感じですよね。
どちらかと言うとジミー・ハスリップの親指弾きのようなクセがなく、アンサンブルの最下層でしっかり支えているような音をイメージしました。
ハスリップと言えば歌心満載のベースソロですが、実はバッキングのセンスも抜群に良いんですよね。
熊谷:ハスリップもハシケンさんのフェイバリット・プレイヤーの1人ですよね。
親指弾きの歯切れの良さの中にソウルやモータウンのベースのようなモコモコしたニュアンスもありますよね。
ハシケン:そうそう!
このレコーディングに向けて星野源『YELLOW DANCER』を改めて聴き込んだんですよ。
ベース弾きにとってはどの曲を聴いても参考になりっぱなしなんですが、伊賀航さんが参加してる「ミスユー」「SNOW MEN」のようなトーンを極力絞った暖かな低音がめちゃくちゃ良くて。
熊谷:星野源さんのバック、と言えば最近はハマさんのイメージが強いですよね。
ハシケン:ハマさんの有機的なグルーヴもイイんですが、ブラックミュージックの何たるかを心得ているような伊賀さんのベースの素晴らしさと言ったら!
熊谷:熱が入ってますね(笑)
ハシケン:"この音出したい!"って素直に思いましたもん。
伊賀さんの奏法や機材って全然世に出回ってなくて、インターネットを漁ってても結局分からず仕舞いで。
我流で色々試した結果、この音に辿り着きました。
《伊賀さんの音価のコントロールやダブルストップの使い方はまさにネオソウル》(ハシモト)
《このライブ盤でしか音源が残っていないなんとも珍しい曲。ベースソロの完成度には脱帽》(ハシモト)
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熊谷:音色に関してのマニアックなこだわり、とても面白かったです。
フレージングもかなり取捨選択されたんでしょうか?
ハシケン:相変わらずフレーズはどんどん湧いてくるので、最もハマる1つを厳選するまでに時間をかけましたね。
特にサビでは歌メロに対して非常に気をつかいましたね。
逆に2番Aメロみたいなベースらしくないフレーズは全く歌に気をつかえてないんですが(笑)
熊谷:"ずっと同じで~"のところですよね。
あそこ、どうなってるんですか?
ハシケン:分かりません、何を考えているんでしょうね(笑)
コード進行を無視して勝手にリハモ(リハーモナイズ)してるんですが、録り終えた後にやりすぎたなぁって反省しました。
小松に"上手いことお願いします"って頼んだら見事に上手いことやってくれてたのでよしとします。
熊谷:エンディング前の一節もなかなか攻めてますよね。
"窒息するほどの~"のところ。完全に歌にケンカ売ってる。
ハシケン:いやー、やってますよね。
あそこはタイム感もベタベタに後ノリで弾いてるので、歌とも合ってないはずなんですよ。
こういうやりすぎな時は小松に"微妙だったらカットして下さい"って伝えてるんですが、結局使ってもらえるんですよね。
熊谷:それだけ長年の関係ってことですかね。
ハシケン:どうなんですかね。
トータルで見ても7年前の「うさぎ」とはだいぶ変わりましたが、今回のテイクが完成形と言ってもいいんじゃないかな。
完成までにすごく時間はかかりましたが、この曲のもっている要素をフルに表現できた気がします。
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8.ロマンチック・ラブ
熊谷:ついにラストを飾る8曲目、新しいランチブレイクを感じさせる「ロマンチック・ラブ」ですね。
この曲、真っ直ぐなようでいて屈折している感じもあり、爽やかなようでいて根っこの部分は影が射しているような…。
言葉にすると矛盾してますが、そんな一筋縄では行かない気配があります。
ハシケン:おっしゃる通りで、この曲難しいんですよ。
レコーディング段階ではアルバムの曲順って決まってなかったんですけど、まさかコレを最後に持ってくるとは思いもしなかったですね。
リズムもメロディーもトリッキーこの上ないですから。
熊谷:リズムはついにここまで来たか…ってくらいの異国感。
船橋さんもカウベル導入してますよね。
ハシケン:元々はトングが"ハチロクの曲が欲しい"って作り始めたんですがまさかの変貌ですよ。
気づいたら超アフリカンなリズムになって戻ってきました。
船橋は何故かこういうリズムパターン得意ですから存分に力を発揮してますよね。
熊谷:元の形とはだいぶ変わったんですね。
アルバムの中でも特異と言うか、毛色の違いは感じます。
「恋をしているよ」「キスをする」なんてランブレには珍しい臆面もなくストレートな歌詞が珍しい。
ハシケン:トングがこういうストレートな歌詞書くときってなんか裏があるんじゃないかと思っちゃいますね(笑)
何度かライブで演って没になった「野球雑誌」って曲があるんですが、それに共通するものを感じますね。
歌詞はストレートなのにサウンドは尖りまくってるっていうギャップも面白い。
ベース録りの順番的には最後でしたが、多分アルバムの中で一番苦戦しました。
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熊谷:やはり独特なビートにベースを合わせるのが大変だったんでしょうか?
特にAメロのベースは一聴しただけでは何が起こってるのか分からない。
ハシケン:もちろんビートに対しての最適解を探すのも大変でしたが、特にAメロはボーカルも攻めてるんですよね。
入りのメロディーがスガシカオ「午後のパレード」のBメロの歌い出しと同じなんですが、よくドアタマからこんなクセのあるメロディー持ってきたなぁ、と。
熊谷:メロディーもそうですが、符割りも掴みにくいですよね。
ビートに対してふわふわしてるというか。
ハシケン:そうなんですよ。
だからビートとメロディーの両方に合ったベースラインを見つけるのが相当難儀で。
わざと気をてらったパターンを作りたかったわけではなくて、一番ハマったのがたまたま今の形だったんですよね。
多分Aメロだけでも30パターンくらい弾いたんですけど、1拍目アタマを弾かないパターンが最終選考に残ってたかな。
熊谷:1拍目アタマを弾いていないことですごく非ポップス的なリズムになってると思いますが、やはりアフリカンなビートにはアフリカンなベースが合っていたんですかね?
ハシケン:ホントは非ポップスになるのは避けたかったんですが、1拍目アタマを弾いてしまうと急にのっぺりしてしまうんですよ。
だから試行錯誤したうえでアフリカ音楽的なシンコペーションの効いたラインになりましたね。
当初はもっとシンコペーションだらけでクってクってクいまくる感じだったんですが、さすがにアタマが分からなくなるのでやめました。
熊谷:それはそれで気になりますね(笑)
前作「ヒストリア」の頃からアフリカ音楽にハマってるとは窺ってましたけど、具体的に参考にした音源などはありますか?
ハシケン:ベース弾きらしくアフリカ音楽に興味をもったきっかけがリチャード・ボナだったので、彼の音源は積極的に聴きましたね。
あとは同じジャズ畑でもベナン出身のリオーネル・ルエケ『Heritage』は参考にさせてもらいました。
このアルバムはベースがデリック・ホッジなんですけど、現代ジャズとアフリカンなリズムの良いとこ取りが体現されていますね。
ゴーストノートを多用したボナの強烈なグルーヴも捨てがたいんですが「ロマンチック・ラブ」には慌ただしすぎる感じで、ホッジのどっしりと構えたスタンスの方が近いかもしれません。
熊谷:たしかにリチャード・ボナは一人でグルーヴが成立しちゃってるような恐ろしさすらありますね。
どちらかと言うと「ロマンチック・ラブ」はドラムとベースが手をとりあってビートを作っているようなイメージです。
ハシケン:ビートの軸となっているのは間違いなくドラムですよ。
絶えずリズムを送り出していて、人間の体で例えると心臓みたいなもんで。
ドラムが心臓ならベースは脈ですかね。
心臓が送り出したものをうねりのあるリズムに変換して行き渡らせる…みたいな?
音色的にもあえてオフ気味の音を狙っているので、最前線でバンドを牽引する感じでは全くないですね。
熊谷:まさに言い得て妙な例えです。
たしかに全体のサウンドの中でもベースは少し奥にいるような位置どりですが、これも狙いだったんですね。
ハシケン:アフリカ音楽とポップスの中間点を模索している中で歪みを加えることを思い付いて、試してみると輪郭が適度にボケて周りと馴染んだ感覚があって。
それこそクセのあるベースラインなのでフロントの邪魔をしないために裏方に回りました。
熊谷:演奏が難しくなりすぎないギリギリのラインを図ったわけですね。
歪みの成分も中低音域でザラザラと引きずるような感じが耳に気持ちいい。
ハシケン:音楽性は全然違うんですけどDIR EN GREYのToshiyaさんもすごい歪みにこだわりがある人で、音源を片っぱしから聴き直して参考にさせてもらいました。
曲によって歪みの性格が全然違うんですけど、その中でも潜り込むような歪みの魅力を再確認しました。
《Jamiroquaiのストリングスで有名なロンドン・セッション・オーケストラの演奏がアガる》(ハシモト)
《アフリカ音楽と現代ジャズの真ん中を感じさせる楽曲。マーク・ジュリアナのビート・ミュージック的なドラミングも面白い》(ハシモト)
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熊谷:リズム・メロディーともに絶妙なバランスで成り立っているAメロがあったからこそ、サビのシンプルなグルーヴがより引き立ちますね。
ハシケン:「ヒストリア」でもそうでしたが、トングは踊れるサビが好きですよね。
よくあるラテンのベースラインに一工夫加えて、アタマを弾くパターンとアタマを抜くパターンが交互に入ってるのでAメロからの流れもしっかり受け継いでいます。
熊谷:アタマ抜きのパターンがフックとなっていて、良い意味で緊張感が途切れないグルーヴですね。
リズムパターンはノリやすいものにガラッと変わりますが、相反するようにメロディーは3連のノリになりますよね。
ここがまた一筋縄ではいかないポイント。
ハシケン:せっかくノリやすいリズムになったのにメロディーがまたトリッキー(笑)
この3連ノリはおそらくハチロクの名残だと思うんですが、ずいぶん思い切ったサビの歌メロですよね。
むしろその後の間奏の方が全然キャッチーに聴こえる。
熊谷:たしかに。
間奏のキーボード、すごいキャッチーですよね。
音色はフィルター系のエフェクトがアンニュイな感じもまた良い。
ハシケン:「ロマンチック・ラブ」はキーボードとギターが良い仕事してますよね。
ベースとドラムが土台作りに専念して、曲のストーリーテリングは澄みきったクリーントーンのギターと爽やかな音色のエレピが担当している。
misakiはポップなフレーズを作るセンスが良くて、僕なんかはちょっと油断するとポップじゃなくなってしまうんですが、彼女は直感で親しみやすいフレーズが作れる人なんだと思います。
熊谷:役割分担がハッキリしてるとも言えますよね。
たしかにリズム隊のエグみが上手い具合に中和されています。
ハシケン:実は「ロマンチック・ラブ」だけは完成した音源を聴いて唯一ギャップを受けた曲でもあるんです。
今回、僕以外のメンバーはスタジオで集まって曲のアレンジやリズムのアイディアを出してたんですが、こんなにポップな仕上がりになるとは正直思ってなくて。
離れてレコーディングしていることの弱点ですよね。
だから個人的には録り直せる機会があるならばトライしてみたい気持ちです。
《DIRはドラムが独特なフレーズなのでベースがどう合わせているのかに注目して聴いてしまいます》(ハシモト)
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熊谷:全8曲のインタビュー、お疲れ様でした。
流石に長丁場でしたが、新体制でのランチブレイクの中身が垣間見えた感覚です。
ハシケン:ライブ活動を休んでから初めて、ランチブレイクでの作品をリリースすることになりましたが、改めて学ぶことの多い時間を過ごせました。
特にMPP WORKSの高田さんのような外部の人間が介入して、より良いレコーディング体制が作れたのでないでしょうか?
今までのベース録りは小松の家に行ってマンツーマンでやっていたんですが、1人で録れる環境が出来て好きなだけ時間がかけられるようになったのは大きい変化ですね。
熊谷:札幌からは離れての活動にはなりましたが、レコーディングには今まで以上にこだわれるようになったんですね。
メンバーとのギャップなんて話も出ましたが、離れていることで生じる問題もあるなかで今後の意気込みをお願いします。
ハシケン:やっぱり今は裏方に回っているので現場組との温度差は絶対あるんですよ。
だからこれから先、レコーディングの形態も変わって然るべきだと思うし、普段ライブで活躍しているすみれがレコーディングに関わっていくことも必ずあると思います。
だから今回の『みんなで吉報旅行』はある意味僕にとってのターニングポイントでもあって"やっぱり頼んでよかった"と思われるプレイをしないとダメだった。
全部終えてみて、手応えは間違いなく感じてますし、レコ発のライブでやったようなツインベースでの演奏もまだまだ改良の余地があるから自分にしか出来ないやり方で関わっていきたいなと思ってます。
音楽に正解は無いと思っているので"この曲はライブの方が好き!"だったり"やっぱり完成度は音源が一番!"だったり色んな意見があって良いと思う。
そのどちらも咀嚼してこそ分かることもあるので、是非様々な目線で『みんなで吉報旅行』を観察していただけると嬉しいです。
