読書㉚『風のことは風に問え』(辛坊 治郎著) ㉛『太平洋ひとりぼっち』(堀江 謙一著) | そういえば・・・

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橋本商工株式会社の社長のブログです

辛坊さんが2021年4月から8月にかけて、

愛艇KaolinVで太平洋を往復した体験記

『風のことは風に問え』。

ニッポン放送でその″冒険”を聞いていた

こともあり、本が出たら読もうと思っていた。

 

そして今や、エベレスト登山も普通の人

(と言っても、それなりの力量が最低限

必要なことはいうまでもない)ができる

ように、ヨットでもそれに近い世界に

なっているのだなあ、というのが

正直な読後の感想だ。

 

これは氏の冒険を軽んじて言うのでは

ない。もし知り合いが太平洋をソロで

ヨットで往復したと聞いたら、大ビックリ

することは間違いのないことで、

「すごい!凄い!」と称賛するだろう。

 

しかしなんで個人的には超スゴイこと

なのに、超感動しなかったのか。

これは今どきの機材が発達しすぎている

ことにつきる。

海の厳しさは序盤の嵐に揉まれている

ところを読めば、昔も今も変わらない。

しかし寝ている間でもヨットは

目的地に向かって進めるよう、

舵を自動で切ってくれるし,GPS

が発達しているので、たちどころに

現在地がわかる。仮にSOSとなった

場合、助かるようなセーフティネット

が盛り込まれている。

 

であるからして、序文に植村 直己氏

(登山家、冒険家)へのオマージュ、

堀江 謙一氏の冒険への尊敬の念が

表されることは、「時代」によるハンデ

をもらっていることへの裏返しと読んだ。

 

 

 

 

ということで、辛坊さんの冒険記を

読んだら、こちらを読まないわけには

いけない。日本が誇る冒険野郎・

堀江 謙一氏の『太平洋ひとりぼっち』だ。

昔から超有名であったこの本をなぜか

素通りしていたが、辛坊氏の横断

(2021年)と堀江氏のそれ(1962年)は

59年も差があり、味わいもひとしお

だろう。

 

で、読んでみた。世界初の単独での

太平洋横断の冒険記は素晴らしく、

面白かった。堀江氏のとんがった性格、

関西弁でストレートな物言いが

この本の魅力である。そもそも

スナイプ級ヨット(全長5.8m)という、

高校生が初めてヨットに出会ったとき

に乗るような小型ヨットでの太平洋横断

だから、始終危険がいっぱいである。

 

造船所での製作過程をつぶさに

観察していた氏は、早くも自艇

(マーメイド号)の不出来、アラを

いくつも見つけガッカリてしまう。

そして板厚9mmの合板で大洋に乗り

出せば、ちょっとした出来事、それは

サメなどの大型の魚との衝突などで

船が破損し、お陀仏となることを

見切っていた。

 

自動操舵もあるにはあったが、

風任せで、方向はしょっちゅう目的

とは別の方向へ行ってしまう。

本人もやけくそだ。

 

食糧計画では特に積み込む真水の量

の計算は楽観的で驚きである。

たくさん積めば重くなって、遅くなる。

じゃあ、途中雨水も調達できるし

(その保証はないが)、ビールと缶詰も

あるじゃないか、と大いに切り捨てる。

こんな船には乗りたくない。

 

しかしとんがった性格が自分を鼓舞し、

「世界初」という勲章もチラつき、

なにがなんでも成功させるぞ、という

若い気合で太平洋を渡りきる。

 

 

ヨットはこうやって発注するんだ、と

買う気は全くないが、わかったことも

この読書の価値である。

 

そうそう、巻末にヨット設計者の文章

があり、この冒険記にはもう一つの

「初めて」が書いてあった。

この冒険以前は、このような小さい船

で海外へ渡航する者へは旅券(パスポート)

が発券されなかった。

では堀江氏の場合はどうかというと、

当然発券されず、「密出国」という形

での出帆であった。

吉田松陰の時と変わらない。

 

しかしサンフランシスコへの到着、

世論の歓喜と凱旋帰国、それが江戸、

明治時代から変わらなかったこの法律を

一発で変更させるきっかけとなった

ことは特筆である、とあった。