お客様の研修旅行に参加して北海道の室蘭に行ってきました。
目的は新日鉄住金・室蘭製鉄所見学。小さい室蘭の町にガリバーのように
君臨する大企業だ。幸いにも天気よく、しかし冷涼な気配の漂うなかでの
(最高気温13℃)工場見学となりました。
最初に事務所で製鉄所と製品の紹介をいただき、終了後バスで工場の
見学に出掛ける。あいにく所内はすべて撮影禁止の為、写真で紹介が
できないのが残念だが、これはしょうがないこと。
生産される鉄の70%が自動車部品となる室蘭製鉄所 ここは撮影OK
当社も他の製鉄メーカー様とお取引をいただいているため、若干では
あるが製鉄所というものに関してわずかな知識があるが、あらためて
プロの方の説明付きでご案内をいただくことは楽しくもあり、勉強にも
なる。
見学中、とてもラッキーだったのが、高炉から鉄の初期段階である、
銑鉄(せんてつ)が出てくる瞬間を参加者の皆と見ることができたこと。
普通の工場では決して見ることのできない、エキサイティングな瞬間でした。
ところで銑鉄とは何か。それはゴールを鋼とした時の、初期の鉄の状態を指す。
鉄はいくつもの工程を経ながら硬く靭性(しなやかさ)を有する鋼となる。
作り方はすっごく大雑把に言うと、高炉の頂部から鉄鉱石をいれるが、同時に
還元材と燃料としてコークス(石炭を蒸し焼きしたもの)や不純物除去のために
石灰石を一緒に入れ、下から熱風を吹き入れ、コークスを燃やす。
その際、コークスの炭素が鉄(鉱石)から酸素を奪い(=還元反応)、熱と
一酸化炭素、二酸化炭素を生じさせる。これら有毒なガスは別系統で処理
されるので割愛するが、最後には溶融した鉄が『銑鉄』(英語ではpig iron)
となって、高炉の底部に溜まる。そしてその溶けた銑鉄を、高炉の底に穴を
あけて取り出す行為が『出銑』である。
ちなみに銑鉄の炭素含有量は4%以上でもろい。われわれの仕事で
よく出てくるS45Cは炭素含有量0.45%である。
ガイドさんの「あのインジケータの数字が400を越えたら、銑鉄が出てきます」
「出銑する時は、作業者は必ず退避しなければなりません。なぜなら周囲に
1500℃の鉄があたかも散弾のように飛び跳ねて出てきて、とっても危険
だからです」と説明された。作業者が火山の噴火口に行くときに着るような
銀色の防護服に身を包んでいる。専用のドリル(当社が売っているものとは
全然別物なのであろう)で穴を穿つ(うがつ)。
われわれは固唾を飲んで、今かいまかと待ち受け、いよいよその時が来た。
そしてこんな風に
イメージ写真(インターネットより)。 火花を散らしながら穴貫通 放射熱で周りが暖かくなる
祝・穴貫通! 銑鉄誕生!
むかし『鉄は国家なり』という言葉があった。このようなハードな作業環境を
見ると、そんな気にもなる。
この1500℃の銑鉄を、次の工程である製鋼工場の転炉へ運ぶための
軌道車がトーピードカーという、なんとも不思議な形の貨車。
最高時速20km、中身は1500℃の溶けた銑鉄。雨の日にブレーキをかけて
止まるのに100mかかるそうだ。たしかに魚雷の様なかたちである。
こんなのでもつくると ン億円かかる、とガイドさんが言っていました。
インターネットより
製鋼工場ではトーピードカーで運ばれてきた銑鉄を、
転炉⇒真空脱ガス装置⇒連続鋳造⇒ビレット と製造していく。
整然と並ぶビレット(インターネットより) 出来立てはオレンジで冷めていくと黒っぽくなる
本来なら線材圧延を見たかった(時速320kmで製品がつくられる)のだが、
今回はビレットという、長方形の鉄の塊までの見学でおしまい。スピードは40km。
数十本のビレットがオレンジから黒へのグラデーションで並んでいる様は美しい。