『助かった。ありがとう』
「他にも何かあったら言ってくれ。出来る限りのことはするから」
『あぁ。あまり飲み過ぎるなよ』
「気をつける」
画面越しに苦笑した顔。
声と言葉ばかりは他愛なく聞こえるが、表情には疲労の色が見て取れた。
そこがどんな戦場なのか、画面のこちら側からは想像しかできない。
閉ざされた扉の向こう側でどんな声が、音が、感情が、流れているのか。
白衣姿の彼が、ここに帰らなくなって数週間。
ただ多忙が理由なだけではないことを、暗黙知的に知っている。
だからこれは単なる俺のエゴだ。
休憩になったら連絡して。出来ればテレビ電話で。
顔を見て、声を聞いて、言葉を交わして。
少しでもその一端を、端っこの方で担がせてくれ、なんて。
お前が少しでも、息ができるように。
『それじゃあ、柊(シュウ)』
「うん」
またな、と手をあげて告げられた挨拶に、手を振り直して答える。
ほどなくして通話終了の画面になったタブレットの画面をオフにし、膝の上に肘をついて両手に額をのせた。
現場を知らない人間が、うぬぼれてはいけない。
それはどんな状況においても通ずるものがある。
それでも、何かをしたいと思う。何かできることはないかと。
その“現場”で闘う友人がいるからこそ、なおさら。
「はい、どうぞ」
「ん?」
静かに音が降ってきて、顔を上げると目の前のテーブルにお蕎麦と天ぷらのセット。
お盆の配置を整えながら、息を吐くようにして告げられる。
「食べようと思って買っておいたこごみがあるから、天ぷらにでもして出してやって、って。癸岐(ミズキ)さんから」
「!竣(シュン)から?」
「今朝方メールが来たんです。なので、食べたらメール返しておいてください」
「準(ジュン)宛のメールなんだろう?」
「いいじゃないですか。まどろっこしいの、面倒ですし」
それに、私が料理するのとか超レアなので、温かいうちに食べちゃってください。
よく食べて、よく寝て、免疫力アップ。私たちにできることです、と言いながら隣のソファに腰かけて手を合わせるのを見て、こちらも手を合わせる。
揚げたての衣が、サクッと音を立てて、山菜の歯ごたえと風味を舌の上で感じながら。
俺たちに、今、出来ること。
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四季:春
気:穀雨
候:牡丹華さく(ぼたんはなさく)
牡丹の花が咲きだすころ。
新暦では、4/30~5/4ごろ。
お久しぶりのご無沙汰です。
参考文献
『日本の七十二候を楽しむ-旧暦のある暮らし-』
/文・白井明大 絵・有賀一広 東邦出版
