森下洋子は世界のバレエ界において偉大な足跡を残した現在でもさらなる進化をとげている。

2010年2月21日NHKホールで上演された清水哲太郎演出振付の「新・白鳥の湖」において、これまでにない身体性、すなわち妖精としての白鳥の演技に、またとない工夫をこらしたのである。

それは、完全ともいえる脱力の技である。これにより人間らしさを徹底的に排除、空気のごとくその存在の危うさを見せた。

脱力とは、身体が物体としての存在を極端に無力化することで、妖精とはまさにそういうありかたなのである。

森下洋子は半世紀にわたりバレエとかかわり、数え切れない白鳥を踊っているが、この日の白鳥の更なる進化には心底脅威を抱いた。凄い人だ。

黒鳥は別配役ではなく、森下が32回のフェッテは踊らない形の演出。

黒鳥の森下洋子は生命体の邪悪のバルブを全開させて、騙しの技を見せていく。白鳥との対比が際立って見事だ。しかし「白鳥・・」で32回がないというのは実に寂しいものだと言う事を実感。これは原作者がいかにエンターテイメントの達人だったかを証明するものであろう。

長谷川六