おのれの愚かさが情けなかった。こんなはずではなかった。


俺はもっと大物になるはずだったのに


金、金、金。金がないということが、こんなに苦しいことだとは。



そう、命と引き換えに家族を守ろうと決めた。


それしか、社長として会社と家族を救う道はなかった。




「俊子、健太さよなら」。


そのとき、左腕に強い衝撃が走った。


「ばかやろう!」上から声が聞こえた。(つづく)

涙ににじんだ目を開け、頭が朦朧としながら片足が離れ重力を失った。
「俺が最後にできることは、これだ
彼は自分の生命保険を使う覚悟を決めていた。

あっというまに自社ビルが建ち、何の苦労もなくマンションが売れた。


次第に仕事を忘れ、毎晩、銀座や六本木で夜を明かした。


まわりに部下を侍らせて、「社長」「社長」とおだてられ、


自分は帝王だと思っていた、そうあの日までは



地価は下落し、買手が付かなくなった。


利息の支払いだけで首が回らなくなった。


厳しい取り立てに身も心もボロボロだった。「ああ、俺の人生はなんだったんだ」。(つづく)


リーマンショックの影響は瞬く間に日本に波及した。

第1話


よれよれのジャンパーを着た男が、レインボーブリッジの上に立って、自ら人生の幕を降ろそうとしていた。


巻き上がる強い風にあおられて、ジャンパーが音を立ててはためく。


真下の海をしばらく見つめたあと、彼は上を向いて目を閉じた。


涙がほほを伝って流れ落ちた。


昨日のことのように半生が脳裏に浮かんできたのだ。


想えば数年前の高層マンションブームに乗って彼は不動産業で勝負に出た。


(つづく)