薄暗く、寒い。鉄の檻の言葉を信じる限り、決してミクに害のある人物ではないはずだ。信頼と警戒の目でその正体を見据える。

「……そんなに怖い顔しないでよん」

 すらりとした長身、青い肌。長い指の先の爪に、鍵が引っかかっている。緑色の唇が妖しくほほ笑んだ。

「ビアードのお気に入りちゃん」

「フィ、フィシュー……!」

 ミクは想定外の人物に、ぐっと唇を噛んで警戒する。直接戦ったことはないものの、くりだすムチの攻撃や確かな戦略術はジョーバス幹部内でも優れた戦闘員である証だと思っていた。そんな強敵が突然ふらふらと現れたものだから……しかも囚われの身である今。警戒心をマックスにして、ミクは言う。

「な、なにしにきやがった」

「……相変わらずビアード以外には厳しいのねん。でもそういうとこ、嫌いじゃないわよん。ね、警戒しないで、だってアタシ、あんたと恋バナしにきただけだもん」

「…………は???」

 ますます意味が分からない。フィシューはのんびりと椅子をどこからか持ち出してきて、檻の前に腰掛けた。

「ほんとは鍵あけちゃえるんだけど、それしたらあの堅物熊さんが何言うかわかんないし。これで許してねん」

「は、はあ」

「さーて、いろいろ聞くわよん!」

 フィシューはにやにやと笑いながら言った。

「あんたビアードのどこがすきなのよん」

「え、えええ、えっ、えええ!」

 突然の質問に慌てるしかできない。えっ、てか、なんでばれてるんだ! でもそりゃ、そうか。でも。敵にまで。まさか。

あわあわするミクにフィシューは「早く答えなさいよぉ」と口をとがらせる。

「一目ぼれ?」

「えっと……うん。一目ぼれ、だった」

 ぽつぽつ、と。

 今でも鮮明に思い出せるあの記憶をミクは敵に話し、聞かせる。

「学校帰り……ぼーっとしてたら急に天気が悪くなって。そしたら周りの色が消え始めて。なんだなんだって思って空を見上げたら、大きな掃除機みたいな怪物と、サラちゃんとスイちゃんが戦ってるのが見えたんだ。うわーなんじゃこりゃーと思って、走って逃げようとしたら大きな掃除機の怪物が目の前に落ちてきたんだ」

「……それって、あんたが最初にブレスガールに変身した時の話よね」

「そ、そうなんだ。それでアワアワしてたらサラちゃんとスイちゃんが来て、『なんでおまえいるんだ』ってなって。『知らん!』って言ってたら、後ろにすっごい大きい気配を感じて……」

 ああ、ここで初めて出会ったんだ。

 フィシューは「それで?」と笑みを含んで言う。

「振り向いたらその、全身モフモフの怖い顔した熊さんがいて……! わたしちっちゃいころから熊が大好きだから『うわーっ!』ってなって。『あの、おいくつですか』って聞いたんだ」

「おいくつですかってあんた」

33って言われた」

「答えたんかい……!」

「それで、その声があんまりにも素敵だったから『結婚してください』って言ったの!」

 きゃーっと鎖でつながれた手足をばたばたするミク。フィシューは思った。この子バカだわん。

「サラちゃんとスイちゃんにはふざけんなって言われたんだけど、ビアード様にも『は?』って言われて。まずい、プロポーズ失敗したと思った」

「そういう問題じゃないでしょ」

「そしたら掃除機復活してズドーン! ズバーンでうわーって変身してえーいってやっつけてその時は終わったんだけど、それ以来寝ても覚めてもビアード様が愛おしくて……」

 だから、結局どこが好きなんだろう。考えて、止まらなくなって。

「あの全身モフモフのお姿もきりっとした目と傷も、立派な牙もちょっとセンス悪い隊服も、いかつい碇の武器も厳しい性格も全部好き。厳しいけどほんとは優しくて、正々堂々としてて、ほんとにかっこいい!!」

「……はぁん、なるほどねん」

 聞いてるあたしが恥ずかしいわん、とフィシューは顔を扇いだ。

「でもあいつ融通効かないし、あんたのことも『たおすべき敵だ』とかって言っちゃってるわよん。ほんとにあんなのがいいのん?」

「フィ、フィシューさんもわかるはず、あのむんむんとした色気が!」

「いやわかんないわよ」

 ここで、ミクはハッとなった。あかん。敵にしゃべりすぎた。

 馬鹿な頭でこんなことをしゃべってしまったデメリットを探す。

 ひきつった顔のまま見上げると、フィシューが不敵に笑った気がした。

「じゃあさ……聞くけど」

 フィシューは冷たくほほ笑んで問いかけた。

「あんたもしビアードに裏切ってジョーバスの仲間になれって言われたらどうする?」

「え……」

 まさかこんなことを聞かれるとは思っていなくて、頭が真っ白になった。

 こんなことをしゃべってしまったデメリット。

 惚れた側の弱み。

「たとえばさ……ノア様に忠誠を誓うなら結婚してやるとか言われたらあんた、どうすんのよん」

「そ、それは」

 言葉に詰まる。

 そして驚いた。

 即答できない自分に。

 ブレスガールは地球を守るんだって言えない自分に。

 動揺しているのを悟られないようにへらっと笑う。

「ば、ばかだから、わかんないなー……」

「わかんないってことはフィフティーフィフティーかしらん?」

 くそ。こいつ。ミクは完全にやらかした。だから、こういうときは。

 吹っ切れてしまえばいい!

「うるせーーーー! わかるかそんなもん! 実際にビアード様に言われたら多分ホイホイついていくわ私ばかだから! でもビアード様そんなことしないもん、多分!!」

「……ぷっ。あははははは!!!」

 フィシューが笑いだしたものだからびっくりしてミクは固まった。

「あたし、あんたのそういうとこ、好きよん。惚れた側の弱みよね、仕方ないわん!」

 明るく笑い飛ばすフィシュー。まだびっくりして動けなかった。

 この人クールな人だと思ってたけど。

 なんだ全然クールじゃないじゃん。

 そう思うと笑えてきて、へへへと笑みがこぼれた。

「まあ、でも気をつけなさい。鉄血のビアードとはいえどあいつも男よん。もし本当にあんたを、何をしてでも手に入れたいって思ったときはどんな手段に出るかわかんないわ。規則とか原則とか全部ぶっ壊してでもあんたを自分のものにしたいと思うかもしれない。そのとき、どうするか、ね」

 意味深な台詞を言い、「なんちゃって」と笑う。

「ま、安心なさい。アタシはあんたたちのこと応援してるんだから。せいぜいうまくやりなさいよ」

 そう言い残して、くるりと背を向けて帰ってしまった。ミクはぽかーんとしてフィシューの言った言葉を反芻する。

……あれ、ビアード様もしかして脈あるんじゃないかこれ。

「ビアード、あんたどこ行ってたのよん」

銀河が見える窓にもたれ、長身の女が薄く笑った。サメのジョーバス、フィシュー。彼女はジョーバスの中でも数えるほどしかいない女性戦闘員で、さらに幹部の紅一点である。フィシューはつらつらと光る尾を引きずって、熊の大男を見上げた。

「愛しのおひめさんのところでしょうね、大体わかるわ。……まあ安心なさい、あたしはあんたたちのこと応援してるんだから、野暮なことはしないわん」

女の子だからわかるのよん、恋心ってやつ。

フィシューは意味深な笑みを浮かべて見上げてくる。

ビアードはフン、とそれを鼻で笑った。

「……愛しのお姫様、なんて柄じゃない、奴は。それにワシは奴のことを倒すべき敵として以外に見たことなど、ない」

「あんたまだそれ続けるの……」

素直になりゃいいのに。そう言いかけてフィシューは黙った。

このままでいいのかしら、こいつ。

居ても立っても居られなくなって、ビアードが来た方向に歩き始めた。

「……待て、フィシュー。そっちは」

「あんたの敵が捕らわれてるところでしょ。そんながちがちな頭じゃいつか痛い目見るわよ。あたし、あの子とお話ししてくるから」

「待て! ワシの許可なく立ち入ることは……!」

冷徹、鉄血。そう呼ばれた男が珍しくうろたえ、大声をあげた。だが、するりと鍵を手から取り、フィシューは勝ち誇って笑う。

「安心なさい、あたしはあの子と恋バナしたいだけなのよん。

このバカで愚鈍な熊の愚痴でも聞いてあげようと思ってねん」

制止する将軍、ビアードの声を無視して、フィシューは地下に降り始めた。

全く、どうしてくれようかしら。

フィシューは久しぶりにうきうきしていたのだ。








薄暗く、寒い。鉄の檻と冷たいコンクリートの床で、動けない手首をがちゃがちゃと動かした。

(……なんという屈辱だろーか)

 そう、とても油断したのだと思う。やっぱり殺し損ねるべきじゃなかったのだ。黒いトカゲのジョーバス、キリザ。奴は、いよいよ私たちに追い詰められると突然火事場の馬鹿力でもだしたみたいに暴れだし、後ろから切り付けられそうになったライカちゃんをかばう形で私が傷を負った。それだけなら全然ましだったんだけど、キリザは背中からにょきにょき触手みたいなものをわたしにからませて、

そしてわたしをジョーバスの船に拉致してきた。

(どうせならビアード様に攫われたかったんだけどなー)

手錠、動かない。がちゃがちゃと無意味な抵抗をしながらのんきにこんなことを考えていた。今はこうでも考えないとどうしていいか分からないのだ。キリザ、まさかあんなに奥の手を控えていたなんて思わなかったから。後悔ばかりが薄暗い鉄の部屋に積もっていく。

(どうか3人が助けに来ませんように)

ブレス・ブレスレッドも没収されて連絡もできない。非常にもどかしい。でも助けにだけは来てほしくなかった。

(ここにきたら全員殺される)

嫌なことばかり考えてしまった。やることもないから寝よう、と目を閉じると、カツカツ、と靴の音が響いた。大股な音はこちらに近づいてくる。どきどきしながらも、どうかろくなやつじゃないといいなと薄眼を開けて、

驚いて固まった。

「…………びび、びびび、びあーどさま……」

わたしがつかまっている檻の目の前に立っているのは、好きすぎてどうしようもないその人。相も変らぬ眉間の深いしわ、それをぐい、とさらに深めてビアードは膝を立てた。

目線がばちり、とぶつかり合った。

「ブレスクォーツ。貴様がこんな失態を犯すとはな。貴様が捕まったときいて半信半疑で来ては見たが事実らしい」

「こ、これは、あの、その……」

私は何を言い訳しようとしているんだろう。大好きな人がこんなに近くにいて、

なんで私は手錠かけられて捕まっているんだ。

色々なことを考えてじたばたしているわたしに、ビアードは「いくら貴様でも平常ではいられないようだな」と少し笑みを見せた。

 そして、あろうことかポケットからだしたのは、檻の鍵だった。

「…………び、びあーどさま、それは……」

「見てわからんか。カギだ」

 大きな手は鍵を穴に差し込み、くるりと回した。重い鉄がぎぎぎ、と動き、

ビアードは檻の中に入ってきたのだ。

「…………ん!?!?」

まって、まってまって。どういう状況。わかんない。憧れのモフモフ筋肉達磨熊おじさんが目の前にいるのだ。しかもその距離は1mもない。顔が熱い。

どうしたよ、ミク。

いつもみたいに口説いて見せたらいいのに。

「ア……むりだ、わたしガチでビアード様だいすきなんだ」

「ならうれしいだろう。今ワシは貴様とこんな狭いところで二人きりだ」

「……っ!?」

 がちゃがちゃ動かしすぎて赤くなったわたしの手首をビアード様が触れる。その手が冷たくて、ぞくりと背筋が凍る。恐る恐る顔をあげると、冷たい目のビアード様がにやりと笑った。

まって、なんかいつもとちがう。

ふるふると震えだした私を見てビアード様は愉快そうにわらった。

「貴様、敵の本陣で囚われているんだぞ。

……これから何をされるか、察しがつかぬわけではないだろう」

「さ、察し……」

「ヒントをやろうか。戦闘員は雄ばかりだ」

「……び、びあーどさ、」

まじでかよ。何をされるのか分かってしまった私は固まって目の前の男を見つめなおした。

「…………あ、あの、わ、わたしいつも冗談半分で確かにあなたにそれはそれはセクハラまがいの行為や言動繰り返してたけど、全然本意じゃないっていうか、ほんとはうぶなんです、嘘じゃないです……」

「じゃあワシ以外にやられてもいいのか」

「そ、それは、それだけは嫌……」

 目に涙をためながら精いっぱい言葉にした。ビアード様は「フン」と言って手首から手を離した。あっけにとられる私に、

「ワシがそんなことをするわけがないだろう。だが、本当に何をされるかわからない。こんなところにいれば何もないと保証はできんからな」

――ワシの部下を見張りにつける。ワシも時間ができればまた来よう。

と。

「……ビアードさま」

「勘違いするな。好敵手が捕まってさらに良いようにされるのはワシが気に食わんからだ。貴様とは正々堂々勝負をつけたいと思っている。ノアに掛け合って条件付きで貴様を解放するように言うつもりだ」

「び、びあーどさま……」

やばい、感激で泣きそうだ。

なんでこの人宇宙人なわけだ。ああ、もう好き。顔を真っ赤にして、ぐずる私に

「……泣くな。また来てやるから」

と、大きな手で頭をなでた。ああ、手が、体が自由じゃないのが本当に悲しい。いますぐ抱き付いて、お礼を言いたいのに。もどかしくてじたばたするわたしに、

「暴れるとまた手首に傷がつく。

……まあ、大方なにがしたいかはわかるがな」

と、優しくほほ笑んだ。

「自由になったらわたし一番にビアード様に飛びついていきます!」

「もう一度捕まっても知らんぞ」

「いやもうむしろビアード様だけには一生捕まえてほしい」

「……なんだかワシのほうが捕まりそうだ」

いや、もう捕まっているようなものか。

小さくつぶやいて、ビアード様は出ていった。

まだ、心も体も熱で浮かされたみたいだった。


ブレスクォーツ★夏白未來
→アホの子。戦闘狂。
ビアードが大好きなブレスガール新人。

ブレスサファイア★千里粋
→頭良い。クレイジーサイコレズ。(無自覚)
蓮さえ幸せならいい。
蓮のことが大好き。頭脳担当。

ブレスガーネット★空見蓮
→めっちゃいい子。バスケが得意。
バスケ部の先輩が好き。
なのにロォに言い寄られて困惑。

コア
→地球の神であり地球自身である存在、大きな石の姿が本来。
いろんな生命の形に変化できる。
ノアにその膨大な生命エネルギーを狙われている。
日本にコアに通じる大樹がある。


ノア
→かつて箱船で全ての動物と宇宙に逃げ出したその人。
あれから数百年、様々な星の命をエネルギーとしながら宇宙海賊として放浪している。
ちきゅうをしんりゃくし、完全な頭脳を持った獣人こそが統べる世界を作ろうとしている。

ビアード
→宇宙海賊
グランフィラティスの侵略軍総指揮であり将軍。
いかつい風貌からノアの次に恐れられている。

ハイリェ(ゲィーテ・バン・ハイリェーディ)
紺色の長髪
痩せている
左目に包帯
長身
→ゾンビ研究学の最高峰であり医者でもあるマッドサイエンティストの男。35歳ぐらい。
その正体は世界をゾンビパンデミックに陥れたネイティヴリアクタンス社の跡取り息子で、幼い頃からゾンビを研究していた。
病院でもある自宅の地下には大量のゾンビを飼育しており、実験に勤しんでいる。
近所に住む少女、シーパが好きになり、殺して自我あるゾンビとして育てている。
一応シーパとは相思相愛だが巨乳好きのためたびたび浮気する。
「シーパ……俺だけの、人形。クフフ……」
「シーパごめん。謝るから殺さないでごめんなさい!!!!」

シーパ
黒いおかっぱ
17にしても幼い体と顔立ち
ジト目
→幼い頃両親をゾンビに殺され、それ以来医師であるハイリェに懐いている少女。ハイリェのことが大好き。
ある日ハイリェのところに遊びに行ったところ治療と騙され薬を打たれ、朦朧とした意識の中ゾンビに襲われゾンビになる。しかしハイリェの思惑通り、初の自我あるゾンビとして生き返り、それ以来メイドとしてハイリェの身の回りの世話をしている。ハイリェのことは別に恨んではいないが、ちゃんと人間として結ばれたかったなあと思っている。享年17歳。
「先生はへんたい、です」
「また、うわきですか。ひとのことこんなにしといて。どっちの心臓から、つぶしますか?」

イスカ
→シーパの幼馴染の少年。一人で暮らすシーパを気にかけていた。突然ゾンビに襲われ亡くなったシーパの件でハイリェを完全に疑っている。ある日ハイリェの庭で花に水をやっているゾンビシーパを見かけ、ハイリェに食ってかかる。
「このエセ医者。前から怪しいと思ってたんだ。シーパはどこだ!?」
「シーパは生きている……!」

セラ
→ゾンビシティ、アンクリースタ出身の男。街をゾンビシティにされたこと、家族をパンデミックで失ったことでネイティヴリアクタンス社とゾンビを猛烈に恨んでいる。現在はゾンビハンターとして世界中に散らばったゾンビを殺している。ワイルドな性格。
ゾンビ症治療のためハイリェの病院を訪れ、以来そこそこ仲良くしている。シーパがゾンビだと気づいていない。
「久しぶりっと……相変わらず辛気くせえな。ハイリェ。」
「シーパちゃん大変だろ、こんな変人の世話なんか焼いてよ」


アンナ
→ハイリェの友人。唯一全ての事情を知る。見た目は絶世の美女だが男。ゾンビも人間も一緒に暮らせる世界を望んでいる。シーパの相談相手。
「…………また浮気ぃ?? 金玉つぶしちゃえばいいのよ、あの変態」
「ハイリェ、シーパを泣かすんじゃないわよ」






怪盗弱虫ジャック

怪盗ジャック
(雨木 未兎)
前世で超悪党ザクロ丸に助けられたことを急に思い出した少女。
千年樹に封印されたザクロ丸を助けるため、ザクロ丸の封印を解くための紫金貨を探し、盗むことを決意する。しかし運動音痴で泣き虫の弱虫なため、ザクロ丸の力をそのまま借りる形での怪盗行為である。


超悪党ザクロ丸
(七天下 柘榴)
人殺し盗み暴力と悪の限りを尽くして封印された元人間の悪霊。
前世のミトを助けたらしいが全く覚えていない。
だが封印から逃れるチャンスだと意気込み、未兎を利用して紫金貨を盗ませる。

音光寺 疾風
柘榴を封印した陰陽師一族の少年。未兎の同級生。
ザクロ丸のことは代々受け継がれており、月に一度様子をみにいくことを父親から使命付けられた。ザクロ丸に恐れを抱く一方で許してはならない存在だとみており、封印を解くことはあってはならないと考えている。

雨宮 未子
前世の未兎。温厚で優しい性格の礼家の娘。生まれつき体が弱く、外にでられなかったが、封印されるまえのザクロ丸に会い、一度外に連れ出してもらう。
これが原因でザクロ丸は封印され、未子もその直後に死亡した。
ザクロ丸自身はその時の記憶ごと封印されているので覚えていない。
十年前からずっとここにいる。
十年前の、もっと前からずっとここにいる。
有数の魔法都市、羅門。
その中心となった羅門魔術学校。
俺様はずっと、ここに孤独。

ーー眠りから覚めた。

何も見えない、何も聞こえない。暗闇。
そっと手を掲げる。果たしてしかし、俺様は手を掲げているのだろうか。
掲げた手は闇に飲み込まれて見えず、
感覚まで失ったかのように錯覚する。

ああ、もう一度この忌々しい封印を解いてしまおうか。

十年前のように、もう一度暴虐の限りを尽くそうか。
何度も何度も、眠りから覚めるたびに同じことを考える。

(魔界にも人の世界にも俺様の居場所がないなら壊してしまえばいい)

凶暴な自我が語りかける。おまえは魔王。魔界を追放されし、罪深き魔の者。

(壊してしまえばいい)

フッと自嘲気味な笑い声が聞こえた。これは自分自身の声だ。しゃがれた低い声。

(こんな世界など)

存在しなくていい。

目をつぶる。目の奥の闇で

ああ、もし俺様が魔王じゃなければ一人じゃなかったのかもしれねぇな

らしくもないことを考えて、

孤独を壊すためぐっと爪を立て、暗闇を押した


押した暗闇はそのまま上に開き、

魔王ライレオはあっさりと復活したーー

(ーーえ?)


厳重に施された封印は消えていたのだ。ライレオの手によってではない。ましてや忌々しき羅門の魔術師でもない。気配やエネルギーを一切感じない。
何者の気配も感じないのだ。

(……どういうことだ)

眩しくて目をゆっくりと開く。十年ぶりに自分の手を見た。マントを見た。白銀の髪を見た。

(まぁ、そんなことはどうでもいい……)

混乱は静まり、
メラメラと黒い殺意に支配されていく。
黒い爪を立て、背負う黒き大剣を握り、ニタァと悪魔のような笑みを浮かべた。

「この俺様を封印したこと後悔させてやる……羅門の魔法使いどもめ!!!」

背負われた漆黒の大剣を抜き、天に掲げて狂ったように嗤った。

禍々しい雷鳴と共に、魔王ライレオは閉ざされた壁を壊し、その場所から姿を消した。
羅門は、規模は小さいものの西の周辺の国の中では最も栄えており、魔法の技術も随一である一方で物資も豊富な街が多い。
サッチは、赤いレンガの道路をくるくる回りながら歩いていく。その後ろには、銀髪黒マントで額に黄金の角が生えた魔王の男が、大量の荷物を持たされて歩いているのであった。
「おっかいものーおかいものーねえ、ライレオ、あとなにが必要なんだっけ!」
「……エー……制服は買っただろ。教科書も買った。……つーか金残しておけよちょっとは。飯はどうすんだよ明日から」
「なんか、お昼と夜は寮でごはんがでるらしいよ。朝は自分でってことだから、朝食はサッチは食べません!」
なぜならサッチは極貧に慣れているから!
ライレオは呆れながら「知らねぇぞ腹が鳴っても」と重い荷物を肩にかけなおす。
ああ、なんで俺様はこんな平和ボケしそうな会話をしているんだ。
魔界からこの世界にでて来てから封印され続けていた俺様が。
こんな牧歌的な日常を過ごしていることが未だに信じられないし、違和感を抱えたままだというのが本音だ。
なにより自分が信じられない。
この少女を突然引き裂いて喰らってしまうことを否定できない性分。
俺様を信用するな。
「おいサッチ。俺様を信用仕切るんじゃねえぞ。いつかあの青髮を殺して、てめえからも解放されてやるからな」
「はいはいはーい、ライレオったら思ってもないこというんだね! サッチ爆笑」
「おまえのことはマスターと認めてやるが、あのクソババアの言ったとおり油断してんじゃねえぞ」
「うあーうあーうるさい魔王だぜこいつ」
……だめだ。全然聞いてくれん。
赤いレンガを自分勝手にl歩いていく、と、サッチはりんご飴の屋台を見つけたようだ。ぴたりと足を止めて、真っ赤で甘い誘惑にとろとろふらふら近づいて行く。だからだめだっておい!むやみに金使うな!首根っこ捕まえて引きずるとサッチは「うわあありんご飴えええ」とわめいた。
……なんて手のかかるマスターなんだ。
俺様は、もしかしたら貧乏くじひいたんじゃねえのか。
ライレオは、へらへら笑ってばかりなサッチを見て先行きに不安を感じてしまう。


そして迎えた入学式当日。
ライレオはなぜかジーン、とする。真新しい制服に身を包んで、どやぁと威張るサッチを見るとなんだか感慨深いのだ。まるでこれではオカンである。羅門魔術学校は赤い城のような形をしていて、その中央にある講堂も真っ赤だ。中は無駄に広くて、新しく魔法を学ぼうとする大人からサッチくらいの年齢の者まで多く混雑している。サッチは背中にライレオの剣を背負い、重さでふらふらしながらもなんとか講堂にたどり着いた。
「えっと、サッチは魔法戦闘学系統の中高等部、だよね。どこに並んだらいいんだろ……」
「人が多すぎてわけわかんねぇな」
それだけ、この学校は様々な人がいるということだろう。ライレオは、講堂の奥に魔法戦闘学系統とかかれた看板を見つけた。ちょいちょい、とサッチに指差して示してやるがサッチは「はー?」と間抜けな声をだすばかりだ。
「だから、看板があるから、あっちだ」
「サッチ見えない……」
口を尖らせて「見えない」ともう一度言った。ああ、そうかと理解する。大人もいて、精霊も魔獣もいるようなこの空間で、奥のほうを見るにはサッチの身長はあまりに小さいのだ。
「そォか、見えねえんだな。チビ」
「チビじゃない!ひとよりちょっとちっちゃいだけだもん、サッチ! 場所わかったなら連れてってよーライレオー」
「はいはい……ったくよぉ」
と、サッチの手を引いて集合場所を目指して行く。
周囲の疑惑の目を無視しながら。

「……あの子いまライレオって言ったか……?」
「まさかあの、魔王じゃ……」

くそうぜってえ。
下等な魔族がゴロゴロいるような状況なだけでも耐えられねえのに、ゴチャゴチャうるせえ生き物だ、人間は。
ライレオのピリピリした雰囲気に気がついたのか、手を引かれるサッチは「ら、らいれお?」と心配そうな目を向ける。
ああ、イライラする。
集合場所には、おそらく教師らしき魔法使いが「2列に並べ!」と呼びかけており、すでに多くの生徒が揃っていた。サッチよりすこし年上に見えるものが多く、やはり魔獣を従える者、剣や弓などの魔法武器を持つ者ばかりだ。サッチは随分後ろの方に並ぶ。隣には、黄色い髪の同い年くらいの少年が既に並んでいた。
「あ、どーもどーも」
サッチの軽い挨拶に少年は「ああ、あんたも新入生なのか。よろしく」と白い手を差し出す。指には指輪がジャラジャラついていて、気だるそうな表情も含めてチャラそうな印象を与える。
「俺はバグス。俺の相棒は魔法武器、紫雲だ。日本刀の魔法武器だな」
サッチはバグスの腰にさげられた紫色の刀身を見た。日本刀をみるの、はじめてだ。どきどきする。
が、がんばれサッチ!
「サッチは、ニア・サッチといいます。えっと、サッチのあ、相棒はえっと」
「魔王、ダーク・ライレオ・クディーチ・サンダーオーガ」
低い声でライレオが遮った。
サッチは驚いて「ら、らいれお!」と声を上げる。
「そうなの、サッチのパートナーはライレオなの。よ、よろしくね」
バグスの白い手を握り返した。だが、バグスは目をパチクリさせて、固まってしまう。
どういうことだ?魔王ライレオ?聞いたことがあるぞ。たしか、羅門で封印されていた超危険魔族じゃないのか。なんでそんなやつがここに?
バグスは己の相棒ーー紫雲に目をやった。そして、その事実を確信する。紫雲が、震えている?ガタガタ、と小刻みに揺れる紫色の刀身が、目の前の凶悪な顔をした魔族は、確かに魔王であることを証明しているようだった。
『バグスーーこいつは、まぎれもない。魔王ライレオだ。気をつけろーー』
「お、おい、紫雲!?」
はっ、と顔をあげる。と、際限なく腹が立つ顔でにやにや笑うライレオと、そんなライレオとバグスを交互に見ながらおろおろするサッチがいるーー。
ーーなんなんだ、どういうことなんだーー?
おい、と話しかけようとしたとき、学長が現れ、「これより、羅門魔術学校入学式を執り行う!」と宣言した。
バグスは謎の少女に話を聞くタイミングを失ってしまったのだ。



入学式のあと、それぞれのクラスに分かれて行く。クラスは入学試験の点で分かれており、最も優秀だった者がAクラス、そこからFクラスまでになっている。サッチは自分に配られたカードを見た。サッチ、入学試験やってないもんなあ。予想通り、そこにはクラスFと青い文字で書かれている。
「ライレオ、サッチFクラスだよ」
「ハァァ?」
ライレオはカードをひったくった。確かにFと書かれている。まあ、サッチは魔法初心者だしな。下級の魔獣に紛れて過ごさなければならないことにじゃっかんの抵抗もあったが、それよりも彼は、今はこの少女の成長が見てみたいという気持ちのほうが強かった。
だからといって……本音としては、彼の高いプライドが、これから下級魔族たちと同じ扱いをされるということを不快に思うのは当然である。
そんなライレオの複雑な心境も知らず、サッチは、Fクラスの教室を探してうろうろする。すると、案内板があった。おおう、さすが広いなあ、と思いながら自分の行くべき場所を探す。「クロ校舎」と名付けられた校舎にFクラスはあるらしい。F、E、Dクラスが黒校舎。ほう、と首を縦に振った。
「クロ校舎ってぐらいだから、真っ黒な校舎なのかな」
「知るかよんなこと」
「……どしたの」
「ケッ。なんでもねーよ」
「ライレオへんなの」
なぜか機嫌の悪いライレオを不思議に思いながらも、その原因に心当たりがないので黒い校舎を探しててくてく歩いていく。サッチにはライレオの気持ちがよくわからない。だからどうすることもできず、歩きながらちらちらと様子を伺うだけだ。歩くこと少しして、真っ赤な校舎群からあきらかに浮いた真っ黒な建物があった。それは校舎というよりは塔のようでーーその頂点に大きな時計が浮いている。くすんだ黒色の壁紙は年季を思わせ、まるで物語にでてくる大きな時計塔のようだ。これ以外に黒い建物はなさそうで、ぞろぞろと新入生と思わしき魔法使いたちが入っていくのでこれがクロ校舎だろう。
「ここがそうかあ」
「……なんか、雰囲気ちげぇな」
少し不安に思ったサッチは、キョロキョロあたりを見渡した。すると、青い狐のような魔獣を従えた少女と、ぱちんと目が合った。
彼女のもつカードにはFと書かれているーー
「あ、あの」
「ひゃ、ひゃい」
漆黒の長い髪を揺らし、少女はサッチに駆け寄る。
「ここって、クロ校舎ですよね」
低く落ち着いた声が言った。緊張したサッチは「そ、そうだよね!」と頷く。黒髪の少女は「よかったぁ」と両手を胸の前で合わせた。
「なんか雰囲気違うから、合ってるか心配だったんです。ありがとう」
笑うと可愛らしいえくぼができる。
こ、これは友達になれるチャンス!とサッチは意気込んで
「サ、サッチっていうの! よろしくね!」
と手を伸ばした。
「……アイリです。よろしくお願いします」
暖かい手を合わせて、ぎゅっと握手した。
心がぽかぽかするのを感じてサッチはふわふわ笑う。
「一緒にいこうよ」
「ぜひとも」
手をつないで走り出した少女たちを、ライレオはふと微笑んで後ろから見守っていた。



「えー、みんな揃ったようだな」
黒い壁、灰色の机と椅子。灯りはランプで少し薄暗い。
40名ほどが席に座り、ガヤガヤとしていた。半分くらいが新しい制服に身を包んだ新入生である。その一方で、くたびれた制服に身を包んだ生徒が半分を占める。彼らは落第生か。サッチは改めてこの学校の厳しさを痛感する。
後ろに席が空いていたのでアイリと隣同士に座った。ちらりと横目でライレオを見る。サッチの隣で立つライレオはブスッとしたままで、教壇に立つ中年の女性魔術教師を睨んでいる。黒いマントに身を包んだ教師は、「全員揃ったか」と凛々しく唱えた。
「おまえたちは、今は実力は最低クラスだがーーそれでもこの難関、羅門魔術学校の魔法武術学系統に入学した、立派なエリートの卵だ。学び、そして己を鍛えよ。いいか」
「「「イエス、エデュケーター」」」
「ふぁっ!?」
Fクラスの生徒一斉が頭を下げて変なことを言い出したのでサッチ、混乱。3秒ほど遅れて慌ててあたまをさげると、全員頭を上げた。えええ、と思いながら頭を上げる。顔を真っ赤にしたサッチに、教師が「ん……?」と気づいた。
「おまえが、アイシャ様の命で特別入学をした生徒か」
「………あ、は、はい」
「この学校では師匠である教師の命が絶対だ。覚えておけ」
切れ長の目が薄く笑った気がした。
「ーーそこの、魔人もな」
「あぁ?」
俺は魔人じゃねえ、と掴みかかろうとしたライレオをサッチが「だめだめだめー!」と押さえた。
「なんだよサッチ!」
「サッチ、入学初日から目つけられたくないよ!ライレオ~~~」
「静かにしないと、初日から罰を与えるぞ。ニア・サッチ」
厳しい声で名前を呼ばれ、びくっとする。ライレオに「サッチ、罰やだ」と小声で言うと、舌打ちしながらも一歩下がってくれた。そして、「……そういうことか」と小さく頷く。
サッチはほっとして、前を向き直した。
「ーー改めて、自己紹介だ。私はロウロウ。羅門魔術学校、魔法武術学系統のFクラス担任だ。そしてーーおまえたちをエリートに導く師匠だ。よろしくな」
か、かっこいい、、、。
そのビシッとした口調、自信に溢れた言葉。
おもわずかっこいいっておもっちゃう、サッチ。
むふふ、とこぼれる笑みをかくせず、これから始まる学園生活に胸を踊らせた。


「……ではまず、おまえたちに自己紹介ついでに得意な魔法を披露してもらおうか」
ロウロウ先生は細くて小さい杖でつぅーっと黒板をなぞる。すると、白い文字が浮かび上がる。名前、出身地、年齢、契約魔法形態、魔法の属性。サッチは、ンン?と目をこすった。なんだ、属性って。隣にたつ魔王ーーライレオを見やると、「んなことも知らねぇのかよ」と呆れる。
「サッチが使える魔法は俺様の魔法エネルギーを媒介にしたものだ。それによって内なる魔法エネルギーを放出するのが魔法。だから、サッチの属性は自然と俺様の属性になるわけだ
ーー俺様は闇属性雷特化型。覚えとけ」
「えっ、も、もういっかい言って!」
「闇属性! 雷特化型だ!」
「ヤミゾクセイ……カミナリトッカ……」
覚えられるかなあ。困っちゃってアイリを見ると、アイリは契約魔獣とキャッキャ笑っていらっしゃる。そーか、魔法を使うにはこれって常識なのか。なんとなく理解して前を向き直した。
「では、番号1番。アイリ・バンリから」
ロウロウ先生が呼んだのはアイリだった。緊張した感じで「は、はい」と立ち上がる。
「アイリ・バンリです。出身地はヒノクニっていうところです。羅門の隣の島国です。年齢は15歳。契約魔法形態は、魔獣です。青い狐の、ザラメっていいます。ザラメは水属性です。よろしくお願いします」
深々とお辞儀をする。拍手が起こった。サッチもぱちぱちと手を叩く。座ったアイリが恥ずかしそうに「あー緊張しました」と笑った。ぐっと親指をたてると嬉しそうに「よかったです」と言う。
ああ、可愛いなこの子は!
サッチもなにを言おうか、どうしようかと悩む。だってサッチの出身地なんて遠すぎて絶対誰も知らない。ていうか、ライレオが魔王って言っちゃってもいいのかなあ。だんだんわかってきたけど、魔王ってやばやばな存在なんじゃないのかしら。最初にバグスに言っちゃったのもまずかったのかな。思案していると小声でライレオが「おい、サッチ」と裾を引っ張る。
「……俺様のことはあの教師の言うように魔人って言え。俺様の名前もライレオとしか言うな」
「やっぱり、まずいの?」
「サッチが余計な目ぇつけられたくねぇならそうするこった」
ここにいるのは魔法使いだけだ。
ーー俺様がどんな形で恨み買ってるかわかんねぇ。
ライレオは小さく言って顔を伏せた。サッチはそんなライレオはやっぱり悪いやつじゃないって思ってしまう。
きっといままでのことも、なにかわけがあったんじゃないのかな。
なかったにしても、
やっぱり暗闇にずっと閉じ込められたままなんて、いやだよね。
考えているうちに、番号は最後ーー学年のなかで1番最後の番号でサッチが呼ばれた。
すっと立って。クラスメイトになるであろう仲間たちと、師匠となるべく前に立つロウロウ先生をきっ、と睨む。
サッチは中途半端な魔法使いを目指しに来たんじゃない、お父さんみたいな最強の魔法使いを目指しに来たんだ。
だから、恐れない。
すぅ、と息を吸い込んで大きな声でいった。
「ニア・サッチといいます!年齢は13歳!たぶん最年少なんじゃないかな、みんな年上だったね!出身地は遠い遠い国のちっちゃい村。3年旅して最近羅門にきました!」
サッチの自己紹介に教室がざわつく。13? この羅門魔術学校に13で入学だと?3年も旅してんのか、しかも。ヤバイ。ヤバイ。
サッチは「びっくりすんのはまだはやい!」
と大きな口で笑う。
「サッチが契約したのはーーみなさんもご存知であろう、魔王、ダーク・ライレオ・クディーチ・サンダーオーガです! 先日は彼が脱走騒動起こしたみたいで大変失礼しました!しかしまあそのおかげでサッチはライレオと出会えたわけです。ご存知だとは思いますが、ライレオは闇属性雷特化型の魔王。そしてサッチは最強の魔法使いになる予定なんでよろしくお願いしますっ!」
息つく間もなく喋り倒し、はー、と椅子に座った。教室はシーンと静まり返り、5秒ほどたって「はあああああ!?」「えっおいどういうっこと!?」とがやつきはじめる。にまにまと笑うサッチの隣でライレオが「おいサッチ俺様の話聞いてた!? おい!!」と怒鳴り散らし、アイリは「サッチちゃんはすごいですねぇ」とのんびり笑った。だからサッチはアイリに「サインがほしいならいつでも書くぜ」とイケメンを意識して笑いかけた。混乱にどよめく空間を切り裂くように「静かに!」とロウロウ先生が一喝する。すこしの間をもってどよめきは一度落ち着きを取り戻し、挑発的にニマニマ笑うサッチをロウロウは睨みつけた。
「……どうやら阿呆は魔王ではなくおまえのほうだったようだな、ニア・サッチ。私の忠告の意図も分からないで余計なことをして。ーーその行動で身を滅ぼすことになるのはおまえ自身だぞ」
低い声で冷たく言う。本当に怒っているのだろう。
ハア、と額に手を当てて困り果てるライレオを尻目に
「サッチは滅びたりしない」
と口を尖らせる。
「意味わかんなかったわけじゃないよ。……まあ正直わかんなかったからライレオが教えてくれたんだけど。それでも、ライレオのこと隠してサッチは羅門にいたくないな」
ライレオはサッチが初めて契約できた魔族だもんね、とクスリと笑う。
「そいつが何をしたのか知って言っているのか」
「人殺しでしょーか、魔法使い殺しでしょーか」
「……そいつに親や兄弟を殺された魔法使いがいないとも限らないぞ」
「だからってさ」
サッチの目に強い光が宿る。
それはサッチの心がめらめら、と燃えている証のようで。
「サッチがライレオと最強の魔法使いを目指しちゃいけない理由にはなんないよ。文句があるならかかってこい、だよ」
不敵に笑う少女にーー一種の恐怖ともとれる感情を覚え、ロウロウはゾクリと背筋を凍らせる。
彼女は赴任前にアイシャに言われた言葉を思い出していた。
『おまえのクラスには、一人特別入学の生徒がいる。ーー普通とは違う特性を持つ……魔王と契約した魔法使いだ。気をつけろーー』
(……どうやら、私は勘違いをしていた。気をつけろというのは魔王ライレオの方を言うのだと思っていた。だが本当に気をつけるべきは魔王ライレオではない)
見ろ、現に。
魔王ライレオは私と同じ表情をしているではないか!
目眩を感じ、ふらつく体を教壇に手をついて支えながら、
ロウロウは次第にサッチと同じような笑みを浮かべていた。
「……なら私のクラスにきたのは幸運であったな。わたしはおまえたちをエリートに導きに来たのだ。サッチ。必ず最強の魔法使いになれるだろう」
ただし、着いてこられればな。
「今日はここまでだ。解散!」
「イエス、エデュケーター!」
今度はちゃんと言えた!
サッチは満足げに顔をあげ、
さてこの怒りで今にも怒鳴り散らかしそうな魔王のご機嫌をどう取ろうかと悩んだ。

天真爛漫魔法少女
ニア・サッチ
12歳
1/8生まれ ?型
143cm 37kg
家族構成:父、(おじいさん、おばあさん)
趣味:お裁縫、金儲け
すきなたべもの:チョコレート
きらいなたべもの:にんじんー
容貌:栗色ショートカット、翠色のくりくりした目、色白。黒色のワンピース型制服にブーツ。ちっちゃい。
超がつくほどポジティブな魔法使い見習い少女。底知れぬ潜在魔力があり、その正体は天才魔導師の父と、龍神である母の混血である。ゆえに普通の人間では契約した瞬間に命をおとすほどの危険魔族、魔王ライレオとの契約に成功し、後々には羅門を光の魔王から守り抜く勇者にまでなる。表情豊かで、自信満々な反面、無神経でめんどくさがりや。

オカン系ドS魔王
ダーク・ライレオ・クディーチ・サンダーオーガ
?歳
190cm 70kg
魔族階級:魔王
属性:雷特化型、闇属性魔族
魔族種:鬼
趣味:虐殺、料理
好きな食べ物:肉、酒
きらいなたべもの:にんじん
容貌:銀色長髪、額に大きな角。金色、切れ長の目。大きな口。顔色悪い。痩身。全身黒コートにロングブーツ。

かつて羅門を何度も破滅させようとした史上最悪の魔王。その凶悪さによって魔界からも追放され、羅門魔術学校に何重にも固い魔法で封印されていた。だが、何者かの仕業によって封印がとかれ、逃げ出そうとしていたところでサッチと契約する。我儘で傲慢な性格だが一方で世話好き。破天荒なサッチから目が離せない苦労人のオカンである。サッチに対しては口では反発しているがその秘められた可能性を認めており、自分のマスターとして信頼を寄せている。


火炎の傭兵戦士
クディーチ・ライサッチ
22歳
1/8生まれ
152cm 45kg
家族構成:無し
趣味:読書、裁縫
好きな食べ物:チョコレート、お酒
きらいなたべもの:にんじん
容姿:茶色長髪、翠色の切れ長の目、右目は黒い眼帯をしている。紅色の薄い唇。黒いマントの下は動きやすい軍服風の姿。背中に黒い剣を背負い、腰に火炎銃を下げている。
サッチが大人になった姿。かつての天真爛漫さはなくなり、どこか冷たい雰囲気を醸す。戦いにはシビアで、一方で好戦的な戦闘狂の一面さえ併せ持つ。各地に散らばった魔王剣ライレオの破片を集めて旅をしている。
ライレオの復活を快く思わない羅門により指名手配犯として追われている。