蓮さんのイメージを壊したくない方。

バックでお逃げください…おねがいです( ;゚─゚)ゴクリ

 

 

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零れた砂  4

 

 

 

 

 

ことの展開についていけず、取り急ぎシートベルトを締めた。

何が起こったのか確認しようにも、相手は鶴賀さんしかいない。

普段とは違う只ならぬ空気を纏った敦賀さんに、恐る恐る尋ねることしか出来なかった。

なのに…

 

「あのっ敦賀さんっ」

 

「喋ると舌噛むよ?」

 

「っ!?」

 

今までの敦賀さんからは信じられないくらいの冷たい返答と荒い運転で、車は都内を駆け抜けた。

何も言えなくなった私は、黙って座っていることしか出来なかった。

 

暫くするとスピードも弱まり、安定した運転になった。

そっと左側を盗み見れば、久しぶりの敦賀さんの横顔。

少し顎のラインが鋭くなった気がする。

痩せた?

 

食事の優先順位が格段に低い人。

真っすぐに前を向いた凛々しい横顔。

ハンドルを握る長くて形のいい指先。

どれをとっても、ひどく懐かしく感じる。

 

「食事…」

 

「っはい?」

 

「食事、付き合って」

 

「あ、はい…」

 

さっきまでに比べて随分と穏やかな声。

こんな私でも、まだ一緒に食事をしてくれるんだ。

 

「俺の家でいい?」

 

「え、でも…」

 

「いいよね?」

 

「……はい」

 

その会話を最後に、車内はまた沈黙に包まれた。

 

 

 

マンションの地下にあるスーパーで買い物をして、一緒に敦賀さんの部屋へと到着した。

 

「お、お邪魔します」

 

もう二度と来ることはないと思っていた、敦賀さんの部屋。

相変わらず広くて大きな部屋。

キッチンは全く使った様子もない。

ただ、お酒の種類だけが随分と増えたような気がした。

 

私が料理をしている間、敦賀さんは自室で過ごしていた。

今までならリビングで台本を読みながらくつろいでいたのに。

よっぽど私の近くにいることが不快なのかと思えば視界が揺らいだけれど、きっと玉ねぎを刻んでいるせいだと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

食事の支度は済んでしまったが、敦賀さんが部屋から出てくる気配はない。

このまま帰ってしまおうかとも思ったけれど、それは後輩としてあまりにも失礼にあたるのではないかと思い直して、一言声を掛けてから帰ろうと敦賀さんのいる寝室へと向かった。

長い廊下の先に見えた大きな無機質の扉が、まるで私を拒絶をするかのように目の前に立ちはだかる。

 

「あの、敦賀さん。お休みのところすみません」

 

声かけても返事はない。

 

「お食事は冷蔵庫に入れておきますので…お時間のある時にでも召し上がってください。私はこれで失礼します。……お疲れさまでした」

 

何の反応もない扉に頭を下げて踵をかえした直後、背後で扉の開く音がした。

 

「あ、敦賀さ…っ!?」

 

咄嗟に腕を引かれ、気が付いた時には暖かく少しだけ煙草の香りの混じった香水の香りに包まれた。

そのまま身体が浮きあがり、次に視界に映ったのは高く重厚な作りの天井だった。

 

「あ、あの…」

 

ギシッっと音がしてベッドが私以外の体重で沈む。

両手を縫い留められ、大きな身体が覆いかぶさってくる。

 

「なんで?」

 

「……はぃ?」

 

「なんで黙って…こんなところまでついてきたの?」

 

「え…だって…」

 

「逃げ出すチャンスはあったのに」

 

掴まれた両手首が一つにまとめられた。

片手で軽々と押さえつけられ、どう身を捩っても逃れることが出来ない。

 

「ちょっ…敦賀…さんっ」

 

「こうなるって、思わないの?」

 

敦賀さんの膝に両足を割られスカートが捲れあがったけれど、敦賀さんはお構いなしに顔を私の首筋に寄せた。

 

「いっ…っ」

 

チクっとした微かな痛み。

何度も何度も同じ場所に繰り返されるその行為。

その恋には覚えがある。

 

「やっ…」

 

「彼…長谷川くんだっけ?」

 

「な、なに…?」

 

「見たらなんて言うかな…『コレ』」

 

つぅ…と敦賀さんの指先が私の首筋を辿る。

そこに何があるのか、容易に想像できた。

だってそれを私に教えたのは……。

 

「………ど…い」

 

「……なに?」

 

「ひどいです…敦賀さんなんて……嫌いですっ」

 

驚いた顔の敦賀さん。 

拘束が一瞬だけゆるんだ。

その隙を突いて敦賀さんの下から抜け出し、荷物を掴んで玄関まで走った。

 

エレベーターに飛び乗り、扉が閉まると同時に両脚から力が抜ける。

 

(熱い…)

 

掴まれた手首が熱を持つように熱い。

口づけられた首筋が焼けるように…。

 

大切なひとがいるくせに。

私の事なんて好きじゃないくせに。

 

蹲ったまま、敦賀さんの唇が触れた痕を掌で包んだ。

それは所有の証。

独占欲を刻み込んだ…。

 

辛いのに

哀しいのに

 

どこかでそれを喜ぶ自分に、背筋が震えた。

 

 



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