こんばんは(。・ω・)ノ゙
クリスマスなお話を書きました!
キョーコちゃんお誕生日なお話を書くはずが、全く違ったお話になってしまいました。
キョコ誕なお話は素敵なマスター様方が書かれておりますので、箸休め程度に、覗いていただけたら幸いです。
アメンバ様には、限定記事に繋がるリンクを文中に忍ばせてみました(バレバレですが…)ので、よかったら探してみて下さいね。
別館のパスワードはいつも通りです。
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日付が変わる前に仕事が終わったのは、実に3週間ぶりにのことだった。
テレビ局を後にして愛車を運転する自宅までの道のり。
都心とはいえ普段よりも随分と煌びやかな街並みと、遅い時間にもかかわらず人の多い様子に、今夜がクリスマスイブだったことを漸く思い出した。
けれど、かといって特別に何か予定があるわけではない自分には、やはり少しだけ早く帰宅できたということ以外には特段普段と変わりはないはずだった。
異変が起きたのは、日付も変わり1時間ばかりが経ったころ。
シャワーを浴び、バスルームからリビングへと移動したところで、あるはずのない人の気配を感じ取った。
咄嗟に身の危険を感じ殺気だった俺が目にしたのは、真っ赤ンワンピースに真っ赤なブーツ姿でベランダに続く窓を丁寧に両手を添えて閉めている小さな少女の後ろ姿だった。
ふぅ。と一仕事終えたかのように額の汗を赤い袖で拭いながら振り返り、満足げに口元を上げる。
サイズが合っていないのか、華奢な身体と小さな頭には見合わない大きな赤い帽子のせいで、ここから見えるのは、かろうじて口元のみだった。
誰もいないと油断したのか、呑気に顔を上げた彼女は、目の前で自分を凝視する俺の姿にビクッと身体を大きく震わせて驚き、暫く視線を彷徨わせた後で自己紹介を始めた。
「……で?」
「ですから、何度言ったらわかってくださるんですか!?」
にわかに信じられない彼女の言い分に、俺は幾度となく同じ質問を繰り返し、何度も同じことを説明させられる彼女は少しイラついたように声を荒げた。
「何度聞いても信じられないからだよ?……警察………」
「ちょちょちょちょっ待って待って待ってっ!」
テーブルの上に置かれたスマートフォンを手に取り通話機能をタップしたあたりで、慌てたように俺の傍まで駆け寄り、スマートフォンを取り上げられた。
「お、お願いですから、私の話しを、聞いてくださいっ」
土下座された。
女の子に。
「わかったから顔を上げて…それで、君はどうやってここに?」
例え得体の知れない相手だったとしても、女性にこんなことをさせるのは自分の中で決して許容できない。
ひれ伏すように頭を下げる彼女を抱き起し、なんとかソファに座らせた。
「ですからっ、トナカイに乗って窓からこう…このマンション、煙突ないんで…」
「普通、マンションに煙突はないよ…」
身振りで我が家への侵入手段を再現が、窓をのぞき込む姿はまるで不振…
「ここ、高層階だよ?」
「ですから、さっきから何度も言っているように、私はサンタさんなので、空から現れたんですっ!高いトコロだって全然怖くないんですからねっ」
得意げに腰に手をあてて胸を逸らせる、自称サンタ。
「はぁ…で?そのサンタさんがなんで此処に?」
いつまでも続く進展のない問答に区切りをつけ、質問を変えてみた。
「それはもちろん、良い子にプレゼントを届けるためです」
「良い子?」
ビシッと音がしそうなほど勢いよく指をさされ、戸惑いながら俺も自分を指差す。
「はい。あなたですっ」
「俺、大人だけど」
それに『良い』子なんて、俺からは程遠い。
思い起こすのは、どれも暗い記憶ばかり。
アメリカで過ごした日々。
忘れられない大きな出来事。
全ては自分が…
俺が……
「……っ!?」
「あなたは良い子ですよ?」
ふと頭に触れた小さな手の平。
ゆっくりゆっくりと、やわらかい力加減で何度も行き来するその感触はどこか懐かしく、遠くまだ何も知らない幸せな頃の穏やかな時間を連れてくる。
聞こえる声はまるですべてを知り、そして包み込まれるような温かさ。
「あなたは優しい良い子ですよ。……コーン」
「……なっ!?」
驚いて頭をあげると、大きな赤い帽子から見える彼女の小振りでピンク色の唇が、優しく微笑んでいるのが見えた。
そして、少しだけズレた帽子から覗く大きな瞳。
悪戯が成功したかのようにどこか嬉しそうなその顔。
脳裏に浮かんだのは、子供の頃に訪れた父の故郷。
木々が生い茂る小川と、セミの鳴き声。
くるくると忙しなく変わるその表情。
「……キョーコ…ちゃん?」
口をついて出てきた名前は、懐かしい記憶の向こうにある幼い少女の笑顔。
あの頃とは少し違う、大人びた笑顔でにっこりと微笑んでいる。
「あの頃はコーンのこと、私と同じように人ではない存在だと思っていたの。傷つき悲しむ私の話を、気が済むまでずっと聞いていてくれた。別れがつらくて泣く私に、自分の大切なものを譲ってくれた」
昔を懐かしむように、思い出を宝物のように大切に話す。
「そのあなたの気持ちが、そしてこの石が、私を確かに勇気づけてくれました。だからあなたにプレゼントを届けに来たんです……まぁ、寝ていなかったのは予定外でしたけど」
良い子はもう寝ている時間ですよ?なんておどけて話す。
「プレゼント?」
「はい。さぁ、あなたの欲しいものを言ってください」
「何でも?」
「はい。なんでも」
「それじゃあ……君」
「…………へぇ?」
たっぷり10秒。
溜めに溜めてもその返事。
なんだか脅かされてばかりの仕返しが出来たようで、すこしだけ溜飲が下がる。
「君が欲しいよ。キョーコちゃん」
ずっとずっと特別だった女の子。
「あ、あの、でもそれはその…っ」
「なんでもいいんでしょう?」
「う…そ、そうですけど…」
「あれ?サンタさんなのに……できないの?」
そう挑発すれば、あっさりと乗ってくる。
「で、できないなんて言ってませんっ!」
「じゃあ、いいよね」
「もちろんです!」
これからずっと…傍にいて。
君と一緒なら、どんなことも乗り越えられそうだから。
「う~~もう、わかりましたっ。不束者ですが、どうぞ宜しくお願いします!」
勢いよく、それでいてとても姿勢よく頭を下げる彼女。
「はい。こちらこそ」
細く伸びた腕を掴んで僅かな力で引っ張るだけで、華奢な身体はふわりとよろめいてトンと俺の胸の中に納まった。
暖かくて甘い香りのする最高のプレゼントを抱きしめた。
「メリークリスマス。これからよろしくね。キョーコちゃん」