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元カレ×元カノ
 
 
 
 

肌触りのいい上質なシーツから香る、どこか懐かしい匂いに包まれて寝返りをうつ。 

室内に差し込む柔らかい朝の光が、あたたかい春の訪れを教えてくれる。

 

昨夜は金曜日で、会社の先輩である大原さんの送別会だった。 

私が新入社員の頃に教育担当としてついてくれたのがきっかけで仲良くなった大原先輩が、結婚を機に退社することになって、引継ぎに追われる毎日だった。

特にこの一週間は、最終確認と繁忙期のピークが重なって連日の残業。

そんな慌ただしい日々を乗り越えての土曜日。

 

普段なら休日でも朝早くから起き出して、部屋の掃除に洗濯、一週間分の食材を買い物して下ごしらえと、パキパキと動き出すのに。

朝の光を浴びても一向にすっきりとしない頭。 

それ以上に重く怠い身体。

 

(風邪…?二日酔い…?)

 

それにしては吐き気もないし、頭も重いだけで痛くはない。

身体はなんだか火照ったような感じはするけど、発熱した時のそれじゃないし。

そうシーツの中で考えを巡らせていると、急に違和感に気づいた。

 

そもそもこのシーツ

うちのじゃ…ない…?

 

徐々に覚醒していく頭の中で、必死に記憶を辿る。

 

 

「ぷっ…相変わらずの蓑虫…」

 

クククッと笑い声が頭上から聞こえて、ギシッとベッドが沈んだ。

 

「っ!?」

 

聞き覚えのある甘く低い声。 

シーツの中に潜り込んで、一見どこにあるか分からいはずの私の頭に、迷うことなく触れるシーツ越しの大きな手。 

記憶の奥から呼び起こされる、爽やかなマリンの香り。 

 

「おはよう」

 

おそるおそる顔を出した私の視界に飛び込んできたのは、きっと神様の最高傑作。

 

「……敦賀さん

 

「久しぶり…の方が正しい挨拶…かな?」

 

そう、彼は…。

 

 

1年前に別れた、私の恋人。

………だった人。

 

 

 

☆☆☆

 

「身体は大丈夫…?」

 

「あの…」

 

「久しぶりだから、無理はさせないように手加減したんだけど」

 

「えっ、あ、ありがとう…ございま…す?」

 

「ぷっ…クククククッ…」

 

状況をの煮込めない私にお構いなしで際どい言葉を繰り出す敦賀さんに慌てていると、敦賀さんがベッドに突っ伏して笑い出した。 

 

「ご、ごめん。…本当に何も覚えてないの?」

 

「…すみません」

 

案の定、シーツの中の私は何も身に着けていなくて。

シーツに包まったまま正座をして、ベッドの上で敦賀さんと向かい合っている。

 

「昨夜、酔ったキョーコを偶然拾ったんだよ。それでお持ち帰り」

 

昨夜の出来事を簡潔に説明してくれる敦賀さん、

本人はいたって楽しそうに話してくれるけれど、私は青褪めるばかり。

 

「こ、この度はとんだご迷惑を…あの…では私はこれで失礼しますっ」

 

一刻も早くこの場から去りたくて、昨夜着ていた筈の衣服を探すけれど、どこにも見当たらない。

 

(あ…)

 

見渡した室内は、1年前まで何度か訪れたことのある敦賀さんの寝室。

黒を基調としたシックで質のいい家具。

記憶にあるそれと変わらないその部屋に、胸の奥で燻っていたものが疼きだすのがわかった。 

 

(早くここから出ないとっ)

 

「あのっ私の服は…」

 

「返してほしい?」

 

そう言って少し意地悪そうに、でもたっぷりの艶を含んで微笑みながら私の頬を撫でる、暖かくて大きな手。

 

ゾクリ…と背筋に走ったものは、悪寒でも冷や汗でもなくて…

もっと熱い…

 

見つめられて絡み合う視線。

頬に触れていた手は私の首を辿り、後頭部へと回る。

 

 

顔が近づいたのは、彼の手に引き寄せらからだけじゃなかった…

 

 

 

 

 



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