「すみませぇ~ん。これが一番小さいサイズなんですぅ~」

くそっ
どいつもこいつも同じこと言いやがってっ!
中学生が全員、そんなにでかいのかよ!?

卒業を目前に控えた2月。
進学予定の学校の制服を採寸に来た俺の機嫌はすこぶる悪かった。

手元の注文書に目を落とせば、並ぶ文字は〖S〗と〖SS〗ばかり。
屈辱に耐えながら全ての採寸を終えると、付き添いで来ていた家政婦の松田に手続きを押し付け、早々に店を後にした。

この前は一人で某デパートの中を歩いていたら、迷子と間違えられて店員に声をかけられた。
あのデパートには2度と行かないと誓った。

小学6年生にしては小柄な方なのは自覚している。
それでも、醸し出す雰囲気とかで何となく察しがつくもんじゃないのか?

相変わらずのコンプレックスを容赦なく刺激されてイライラが止まらない。
それもこれも、先ほどまでいた制服売り場でヤツに遭遇したのが原因だと思う。

アイツに会ったのは本当に偶然だった。
アイツ…敦賀蓮は、2か月前俺のクラスに転校してきた。
アメリカから来たという敦賀は、背も高く容姿端麗。
外国育ちとは思えないほど流暢な日本語を使い、そのくせレディファーストを重んじる欧米ならではのフェミニストぶりで、一躍女子の注目株となった。

それまでの男子の勢力図を一変させるような敦賀の登場に、反発する男子も少なくなかったが、本来の温和で誰にでも平等な態度や、顔に似合わず一途にあからさまに一人の女子に好意を寄せるその姿に、周りの男子達も次第に打ち解けていった。

(まあ、不破あたりは未だに文句いってるけど…)

かくいう俺も、実は敦賀には文句がある。

敦賀蓮の第一印象は、とにかく『デカい』の一言に尽きる。
身長はすでに170近く、身体のほとんどが脚で出来てるんじゃないかと思うほどに長い脚。
整った顔立ちは、とても小学生には見えない。
未だに小学2~3年生間違われることも少なくない俺とは真逆の存在だった。

ただ、それだけなら俺だってここまでイライラはしない。

敦賀はどういう訳か、同じクラスの最上キョーコに随分と執着していて、隙あらば近寄り、アメリカ育ちだということを口実に過度なスキンシップをはかろうとする。
そこまでだって、別段気にならない。
問題は……

『れぇ~ん~!毎度毎度、何回言ったらわかるんだ~!!』

敦賀が最上に(一方的に)イチャイチャベタベタする度に、日本人としての恥じらいや慎みを説く社先生。
それに対して、確信犯的に最上に接触する敦賀は、のらりくらりと躱すばかり。

そしてストレスのあまり社先生が毎日のように通い詰めるのが……


保健室。


敦賀の行動に胃を痛める社先生は、胃薬を求めて保健室へ日参している。
事情を知らない生徒たちは

『社先生、また奏江先生の所へ行ってるよ~』
『社先生と琴南先生って、美男美女って感じでお似合いだよね~』

なんて、くだらない噂話で盛り上がっている。

これが俺のイライラの原因。


***

奏江先生に初めて会ったのは小5の春。
体育の授業中に怪我をしてしまった俺は、保健委員の最上に連れられて保健室を訪れた。

「モー子せんせぇ、上杉君が怪我をしました~」

(モー子?なんだその名前)

普段から礼儀正しい最上が、先生に親しそうに接する態度に驚きつつ保健室に入ると、今年赴任してきたという保険の先生が迎えてくれた。

「もー!その呼び方止めなさいっ」

中から顔を出したのは、黒く長い髪の綺麗な女性。
見た目はキリッとして、気の強そうな目元がクールなイメージだが、あの最上がここまで砕けた表情をしているところを見ると、随分と面倒見のいいタイプなのだと思った。

「どこを怪我したの?」

俺を椅子に座らせると、先生が尋ねてきた。

「足を…」

傷口を差し出し、手当てを受ける。

「上杉君、サッカーの試合中に他の男子と接触しちゃって…」

最上が怪我の経緯を説明する。
俺は運動神経は良い方だ。
周りの奴らを身軽に躱しながらゴールへ向かっていたところに、横から体当たりで足をかけられた。
身軽な(小柄じゃなくて身軽だ!)俺は、簡単に飛ばされた。

「っいってぇぇぇ~~!!」

容赦なく消毒液をかけられ、思わず叫ぶ。

「我慢しなさい!男でしょう!!」

ピシャリと窘められて、思わず黙る。
それからはじっと堪えて手当てを受ける。

「はいできたわよ。よく耐えたわね。さすが上級生」

傷口から視線を外すと、先生の笑顔が視界に入った。

「っ!!!」

嬉しかった。
初対面では、見た目で実年齢よりも随分下に見られる俺を、きちんと上級生扱いしてくれたこと。
そして、先生の笑顔に目を奪われた。


***


奏江先生の元に毎日のように通う社先生。
女子が噂するのも納得するほど、並んで立つと絵になる二人。

教師と生徒。
大人と子供。

追いつきたくてもなかなか追いつかないもどかしさに、二人の姿は追い打ちをかける。

二人が一緒にいるところなんて見たくもないのに……

全ての元凶はアイツ、敦賀蓮だ。

「れぇ~~ん~~!何度言ったらわかるんだ!人前で頬キスはダメッ!!」

「隠れてすればいいんですか?」

「そういう問題じゃありませんっ!……うぅ……」

毎日繰り広げられる埒が明かない会話。
胃を擦り続ける社先生の右手。
フラフラと蛇行しながら歩く廊下の先には保健室。

クソッ!敦賀!!
いい加減最上と纏まって、社先生の目につかない所でコソコソいちゃついてくれよっ!
最上もさっさと敦賀の気持ちに気づけよっ!!


心の中で悪態をつき、牛乳を買いにコンビニへと足を向けた。







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冒頭部分は実話混じりです(笑)

久しぶりに書きましたが、相変わらずヤマとかオチとか無くてすみません~(*μ_μ)