カーテンの隙間から漏れる光で目が覚めると、自分がとても温かいものに包まれていることがわかった。
毛布ともシーツとも違う。
しっとりとして滑らかな肌触りと、爽やかないい香り。
あまりにも気持ちがよくて、素肌のまま擦り寄ってしまう。

まだはっきり覚醒しない頭でぼんやりと目を開けた私は、目の前に広がる彫刻のように整ったお顔に驚いて悲鳴をあげそうになった。

「ひぃっ……ふっ……ぐふっ……」

(危ない…。この至近距離で大声をあげたら、敦賀さんが飛び起きてしまうわ)

慌てて両手で口を塞いで悲鳴を堪えたあと、逸る心臓を抑えながらすぐ目の前で眠る大好きな人の顔をじっくりと眺めた。

(綺麗な顔……私、昨夜………)

昨夜の出来事を思い出し、ひとしきり悶えた後、彼が眠っているのをいい事に寝顔をじっくりと観察する。

長い睫毛、すっきりとした鼻梁、少し厚みのある形のいい唇。
すっきりとした顎と首筋から肩への芸術的なライン、そこからすらりと伸びた長い腕。
厚い胸板と、バランスよくついた無駄のない筋肉……。

つい触れてみたくなり伸ばした手を、突然掴まれた。

「っ!!?」

「もっと…する……?」

朝の爽やかな空気とは程遠い、艷やかな瞳で見つめながら掴まれた指先が舌で辿られる。

「おっ…起きてっ…?いつ…!?」

「ん?キョーコが起きる前からだよ?……寝顔も…かわいい…」

「ひぃっ……!!」

そう言って私の髪を梳きながら微笑んだ敦賀さんの笑顔は、目が潰れてしまいそうなくらい神々しかった。

あまりの眩しさに目を瞑った私の唇に、敦賀さんはそっとキスをくれた。



***


「お~~い、れ~んく~ん!」

今日何度目かの呆れたような社さんの声で我に返った。
またキョーコの事を思い出して、顔が緩んでいたらしい。
あの始めての夜以来、キョーコとは更に順調に愛を育んでいる。

「まったく、幸せそうな顔しちゃってさあっ!」

社さんが不貞腐れ気味につぶやく。

「この間までは、なかなかキョーコちゃんと進展できない欲求不満から、あ~んなにエロい空気振りまいてたくせに……」

「その節はご迷惑をおかけしました」

自分のスケジュールを全て管理してくれるこのマネージャーに逆らっても得はないと心得ている俺は、素直に謝る。

「いいよいいよ。この前までの危うい妖艶さを醸し出してたお前は、本当に目の毒だったからなぁ……。
……ただなぁ、蓮……」

なかなか酷い言われようだが、事実クレームが来ていただけに反論できない。
すると、社さんが言いにくそうに話を切り出した。

「……どうかしましたか?」

まだ何か問題でもあるのかと問いかける。

「うん、それが……。今度はキョーコちゃんが…最近、色気が出てきたって噂になってて……」

「なっ!!?」

どうやら、今まで可愛くて礼儀正しい清楚なイメージだったキョーコの、時折見せる艶っぽい表情とのギャップに心を奪われる馬の骨が増産されているらしい。

「…………」

「もういっそのこと、芸能界イチの破廉恥カップルとしてコンビでも組んで……ひいっ…!!!」

行き過ぎた冗談を言う社さんが、俺の周りに漂う空気に悲鳴をあげた。
これから起こりうる事態を先に見越して、俺は彼に胃薬を手渡した。


(さて、どうやって馬の骨共を始末しようか……)

俺の纏う黒いオーラに、社さんは早速胃薬を飲み始めた。




fin