「……蓮くん?どうしてそうなった?」

朝から俺と目が合う度赤くなったり青くなったり。
おかしな表情を繰り返していた社さんは本日の仕事も漸く半分を越えた頃、ほとほと困り果てたという顔で俺に問いかけてきた。

「何がですか?」

今日も仕事は順調で、NGも出さなかったしスケジュールも時間通りに滞りなくこなしている。
全くもって社さんに問いかけられるような事はないはずだ。



「…………クレームが来ています」

「!!?」

まさか!?
仕事に対して真摯に向き合っていると自負している俺は、まさかの事実に言葉を失った。

「どんなクレームですか?」

当然ながらセリフ覚えは完璧にしてるし、共演者とのコミュニケーションだって、どんな相手だろうと笑顔を絶やさず皆平等に接している。
もちろん、体型だって完璧に維持しているはずだ。

全く心当りのない俺が問いかけると、社さんが並べたてる。


『全身からフェロモンが溢れ出ている』

『オーラがむらさき色』

『カメラ越しの視線だけで心臓を撃ち抜かれる』

『声を聞くだけで腰が砕ける』

『目からいかがわしいビームが出てる』


「……!!!?」

社さんが指折りながら吐き出すセリフに愕然とする。

「お前……キョーコちゃんと何かあったのか?」

嫌になるくらいに俺の事を熟知した社さんの勘はまさに的中しているが、敢えてとぼける。

「………どうしてキョーコが出てくるんですか?」

「他に理由があるか?
この前までは欲求不満で色気を垂れ流していたけど、今のお前は破廉恥が服を着て歩いてるってくらいにフェロモンにまみれてるぞ?
……でも、その割には頭に花が咲いてないし……。う~ん…一体何が原因なんだ?」

「……………」

随分と酷い言われようだが的を射た推理に脱帽し、ここ最近の事を思い出した。



***


今から遡ること2週間前。

『そろそろ俺達、次のステップに進んでみない……?』


なかなか進展しないキョーコとの関係に焦れた俺は、思い切って彼女に切り出した。

その結果、曲解思考で純情乙女なキョーコも俺の意思表示を正確に受け止め、頬をピンク色に染めながらも頷いてくれた。

キョーコが俺を受け入れてくれた事が嬉しくて嬉しくて、さっそく彼女を抱き上げ寝室に移動した。
逸る気持ちをなんとか落ち着かせながら、そっと彼女を広いベッドの上におろす。

本当に先に進んでいいのか確かめようと俯いている彼女を覗き込むと、大きな瞳を潤ませ真っ赤な顔で俺を見返す。

「いいの?」

「………………はい」

その言葉を聞いた瞬間から、もう止まらなくなった。

彼女の唇を貪り、そのままベッドに彼女ごと倒れ込む。
彼女の唇は蜜のように甘くて、離してあげることができなかった。

少し乱暴に服を脱がせ、ささやかながら形のいい二つの膨らみを手で包み込んだ瞬間……

「っきゃぁぁぁっ!!?」

勢い良く手を振り払われ、彼女は身体を隠すようにシーツの中へと潜り込んでしまった。


「ごっ…ごめんなさいっ……!」

「いや…俺こそ、急にごめんね?
リビングにいるから、着替えておいで」

謝る彼女に、俺はシーツ越しにキスを送るとそう言って部屋を出る。

そして彼女が寝室で着替えている間に、昂ぶった身体を鎮めるためバスルームに向かった。


***

その後、社さんの計らいで何度かキョーコとマンションで会う機会があった。

お互いにその事を意識しているからか少しぎこちないが、それでも以前より近い距離、以前より深いキス。触れ合う身体。

その度、少しだけ進展した中途半端な接触に、俺の理性はギリギリとところまで来ていた。