《キョーコ》



「話しをしよう」


敦賀さんとそういう関係になった翌朝、いまいち現実味がないままに、朝からあまいあまいひと時を過ごした。

「一緒にお風呂」のお誘いを全力で辞退した私は、敦賀さんがシャワーを浴びている間に作った遅い朝食を二人で食べ、リビングのソファに並んで座った。

今日は久しぶりに昼過ぎまでオフだという敦賀さんが淹れてくれたコーヒーを飲んでひと息ついたころ、話は切り出された。


「……はい」


目が覚めて頭がスッキリしたところで、私なんかに手を出してしまった事を後悔しているんだわ。

「やっぱりなかった事に…」そう言われる事を覚悟して、ギュッと目を瞑る。

膝の上で握りしめた拳を暖かいものにそっと包まれる。

恐る恐る目を開けた私の視界に入ってきたのは、見たこともないくらい真剣な表情をした敦賀さんの顔。


「キョーコ……。いや、最上キョーコさん。ずっと君のことを好きでした。
俺の恋人になってください」


「……え…でも……。敦賀さんには他に好きな人が…。キョーコさんていう……年下の」

震える声でそう呟くと、不思議そうな顔をした敦賀さんに逆に尋ねられた。

「君以外に『年下』で『キョーコさん』には心当たりがないんだけど?」

「うそ……」

「その話、どこで聞いたのか教えてくれる?」

「ひいっ!」

突然降臨した魔王様に慄きながら、私は敦賀さんに隠していた事実を話すこととなった。



***

「…………はあぁぁぁ~」

「すっ…すみませんっ!」

今まで見た中でも最大級のダメ息をついた敦賀さんは、目の前の高級そうなガラステーブルに突っ伏したまま動かなくなってしまった。

「あ、あの……。敦賀さん…?」

「…………最上さん」

顔を伏せたまま、敦賀さんが話し始める。

「はい……」

「俺の恥ずかしい秘密を知っちゃったんだね」

「ひぇっ!?」

「なら、全部聞いてくれる?」

そう言って顔を上げた敦賀さんの表情は、その軽い口調とは裏腹にとても緊張している様子だった。



***


「ふっ……うぇっ……」

「最上さん…ごめん」

敦賀さんは最後まで話し終えると、涙のとまらない私に謝った。

「ちが…違うんです……」

敦賀さんが手渡してくれたタオルで涙を拭うと、私は敦賀さんに思い切って抱きついた。

こんな大胆な行動は物凄く恥ずかしい。
でも、抱きしめずにはいられなかった。

「……よかっ…た…」

「……え?」

「敦賀さんがコーンでよかった。私の大好きな人があなたでよかった」

敦賀さんの首に回した腕に力をこめると、それよりももっともっと強い力で抱き締め返された。

「キョーコ…っ!!」


暫く二人で抱き締め合った後、改めて敦賀さんから交際を申し込まれ、私達は晴れて正真正銘の恋人同士になった。



それから、
敦賀さんが仕事に行く時間まで私達はソファの上に並んで座り、たくさん話した。

あの輝く奇跡のような夏の日こと。
グアムで再会した時のこと。
綺麗な思い出も、そうでない思い出も。


「ありがとうキョーコ。上手く言葉に出来ないけど……今、俺の胸が暖かくて心地良いのは、キョーコが傍にいるからだよ」

「敦賀さん……」

「『蓮』って呼んでくれないの?」

敦賀さんがいたずらっ子みたいに笑う。

「そっ…そんな急にはっ……」

「うん。じゃあ、せめてベッドの中では呼んでね」

「んなぁっ!!!」

クスクス笑いながら敦賀さんが私を抱きしめて、額に口付ける。

両腕ごと抱き締められている私は抵抗できずに、只々赤い顔を敦賀さんの大きな胸に埋めるように隠す。



ドサッ!!


突然の物音に二人で振り返ると、手に持っていた荷物を全て足下に落としたまま、真っ赤な顔で震える社さんが立っていた。


「~~~///////」

「……あ~。社さん……そう言う事になりました」

羞恥に言葉も出ない私の代わりに、敦賀さんが社さんに説明してくれる。


正気に戻った社さんから、撮影の時間が迫ってきたことを告げられた敦賀さんが、慌ただしく出かける支度を済ませ

「絶対にここで待っていて!」

と珍しく大きな声を出しながら何度も何度も私に言い聞かせ、出掛けて行った。


広いマンションのリビングに一人残った私は、もう一度ソファに座りクッションを抱きかかえて大きく息を吸う。


ふわっと香る仄かな敦賀さんの匂いに包まれながら、ゆっくりと目を閉じた。




∞∞∞∞***∞∞∞∞

告白の部分はもっと掘り下げるか迷いましたが、このくらいで。

やっしぃ…見ちゃったね~ヽ(・∀・)ノ