あの笑顔の理由が知りたい。



キュラキュラしてる…。
ものすっごくキュラキュラしてる…。

痛いほどにキュラキュラとした光をビシバシと真正面から全身に浴びながら、私は今笑顔で自分の両隣に座る俳優さん達と会話を続けている。

「京子ちゃんて、こんなに近くで見ても肌が凄く綺麗なんだね」

「役によっていろんな姿に変身するって聞くけど、素の京子ちゃんも可愛いんだねぇ~」

「私みたいな新人タレントにまでそんなお気遣いいただいて、ありがとうございます(ひぃぃっ、なんであんなにお怒りなのよぅ…)」

社交辞令に笑顔で切り返しながらも、神経の95%は正面のあのお方へ向けたまま。


***

その日は珍しく早い時間にドラマの収録が終わって、共演している女優さん方と新しくオープンしたレストランへ食事に来ていた。
未成年の私はソフトドリンクを頂いたけど、お姉様方はワインを嗜みながらの楽しい食事会。

「あれ?偶然だね。みんなでお食事会?」

突然後ろから声をかけられて振り返ると、別のドラマの収録を終えた俳優さんご一行がお店に入ってきたところで。

「よかったら一緒に飲まない?これから敦賀くんもくるよ?」

最後の一言に盛り上がったお姉様方の意向を受けて、何故か5対5の合コン状態になってしまった。

***


水面下での攻防の末、両隣を勝ち取ったお姉様達との会話をにこやかに楽しんでいる一方で、敦賀さんは私に対して怒りのオーラ満載のキュラキュラ笑顔を飛ばしてくる。

キュラキュラ攻撃を一身に受けて怯えるいる私とは反対に、その笑顔に見惚れ盛り上がる周囲のお姉様方。

「なんだか今日の敦賀さん、すっごくご機嫌じゃない?」

「うんうん!笑顔が光輝いてるわ~」

いえいえお姉様。
それは猛烈な怒りを内に秘めた笑顔ですのよ。

正面で繰り広げられる光景と、両隣の俳優さんからの矢継ぎ早の社交辞令に精神的疲労がピークに近づいた私は、「ちょっと失礼します」と告げてレストルームに逃げ込んだ。


(はあぁぁぁ~っ!!なんっであんなにお怒りなの!?私、知らないうちに何か敦賀さんの気に触るような事したのかしら?)

敦賀さんの怒りの原因がわからない私は、レストルームで頭を抱えてしゃがみこんでしまった。


***

どうにが気持ちを落ち着かせてレストルームから出ると、通路の壁に凭れて立っている敦賀さんに出会った。


「敦賀さん……」

「最上さん。具合…、悪い?大丈夫?」

長く席を外していたので心配してくれたらしい。
訳も分からず怒った敦賀さんに少なからず落ち込んでいた私は、優しい声と表情につい涙が出そうになった。

「…!?どこか痛い?」

心配そうに涙ぐむ私を覗き込む敦賀さんに慌てて言い繕う。

「だ、大丈夫ですっ!さあ、戻りましょう。みなさん、敦賀さんのこと待ってますよ……きゃあっ!」

そう言って席に戻ろうとする私の手を敦賀さんが掴んで引っ張る。
思わぬ方向にかけられた力にバランスを崩した私は、敦賀さんの胸の中にポスンと収まった。

「つ…敦賀さん?」

「……今戻ったら最上さん、またあの人達に口説かれるだろう?……嫌だ」

「く、口説かれてませんっ。あれは私ごときにも気を使って社交辞令で言ってくださっているだけで、本気な筈は……」

「……はあぁぁぁ~。………やっぱり帰ろう。送るから」

敦賀さんのダメ息に、心臓をギュッと掴まれたように苦しくなる。

「……そんなに、不快ですか?」

「え?」

「今日、ここに来てからずっと怒ってますよね。私なんぞがこんな華やかな場所に相応しくないのはわかってます!
……もう、一人で帰りますから」

涙を堪えて踵を返す私を、敦賀さんがまた胸の中に収めた。

「…ぶっ!……なんですか!?」

敦賀さんの腕が私をきつく締め付けて、苦しい。

「ごめん…そうじゃないんだ。説明するから一緒に帰ろう?送るから…」

敦賀さんの優しく諭すような声に、おもわず頷く。

「……はい」


敦賀さんが席に戻り、私が具合が悪くなった旨と、先輩である敦賀さんが責任をもって私を送り届けることを皆さんに伝えてくれ、私たちはお店を後にした。


**

帰りのタクシーの中で、キュラキュラ笑顔が消え、神々笑顔に変わった敦賀さんに恐る恐る尋ねた。

「なんでさっきは怒っていたんですか?」


すると敦賀さんは困ったような嬉しいような、なんとも複雑な表情で私に囁いた。

「最上さん、説明したいから今日は俺のマンションに寄ってくれる?」


この夜、敦賀さんからの懇切丁寧な説明とスキンシップにより、私は敦賀さんのあの笑顔の理由を知ることとなった。