「すみません敦賀さん。ちょっとだけですから我慢してくださいね」
こんなに密着してて、君の柔らかい感触と
、胸元で揺れる栗色のふわふわした髪から薫るあまい香りにクラクラしているのに…。
そんな無理難題を押し付けるなんて、君は本当にひどい。
「……まだ?」
「もう…ちょっと…」
少し手を持ち上げるだけでその華奢な身体を抱きしめることができるのに。
少し屈めばその可愛らしい旋毛にキスをすることができるのに。
今にも触れてしまいたいその衝動をグッと堪える。
そんな俺の気持ちを他所に胸元でモゾモゾと動く君は、もしかして誘っているのか?
そんなことを考えて思考の坩堝に嵌っていると、ただでさえ密着している彼女が俺の胸元に唇を寄せてきた。
(~~~~~っ!!)
プチンッ
理性の糸が切れる前に、ボタンに繋がっていた糸が切られた。
「はいっ。終わりましたよ敦賀さん」
思わず抱きしめようと腕を持ち上げたその瞬間、彼女の身体が俺から離れた。
「あっ…あぁ……ありがとう」
触れたいのに触れられない苦行から解放されたというのに、彼女が俺の傍から離れてしまったことに焦燥感を覚える。
「いえ。これくらい1分もかかりませんから」
え?1分?俺には1時間にも匹敵するくらい長く感じたのに。
「お礼に今夜、食事でもどう?」
「取れかけたシャツのボタンをつけたくらいで、そんなっ…」
「最近、忙しくてあまり食欲がないんだ…。最上さんが一緒なら、食べられるかも……」
「はっ!そう言う事でしたら、喜んでっ!
敦賀さんにお食事をしていただくチャンス、逃せませんからっ」
離れてしまった温もりを惜しみ、彼女との今夜の約束を取付ける。
今日もこれから分刻みのスケジュールが詰まっているけど、この約束を励みに頑張れる気がする。
でも……
今夜また、傍にいる君に触れたくてたまらなくなるんだろうな。
今はまだ我慢……。
この苦しいほどに愛しい少女と、恋人と呼べる関係になるまでは……。
∞∞∞∞***∞∞∞∞
ん?なんだこれ?
帰省先の実家から自宅へ戻る道中、新幹線も在来線もほとんどトンネルの中。
携帯の電波も入らず、メモにポチッと。
お外では見れない某様の奇跡の一枚を『がまん』している私の心情を少し重ねてみました。