「京子ちゃん、香水変えたの?」
ドラマの撮影の休憩時間。
数人の共演者の方たちと雑談をしている最中、その中の一人に突然訪ねられた。
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今回のドラマは学園モノということもあって、同年代の共演者が多い。
学校の延長のようなノリの今回の現場。自然に休憩時間は集まって雑談をする雰囲気になっている。
私も仲良くなったクラスメイト役の女の子達と一つのテーブルを囲んで話をしていた。
年頃の女の子達が集まって話す話題といえば、どのアイドルがカッコいいとか、あのモデルはすぐに携帯を聞いてくるとか…。
芸能界で生きる彼女達ならではの、共演者のウワサ話。
「私、最近貴島さんとCMで共演したんだけど、すっごく話しやすくて優しかったの~。
ファッションの話とかスイーツの話とか話題も豊富だし、女の子の扱いもスマートで素敵だったわ~」
その時のことを思い出して頬を染めながら興奮気味に話すのは、クラスメイト役の中でも大人っぽい印象の女の子。
すると、隣で聞いていた別の女の子が自慢げに続いた。
「私なんてこの間、敦賀さんに会っちゃったのよ~!」
「えぇっ!?どこで!?」
「すご~い!いつ?いつ?」
心当たりのありすぎる名前にドキリとした。
「アシスタントしているトーク番組にゲストで来てくださったの。
お茶を出しただけなんだけど『ありがとう』って言ってくれて、フワッといい香りがしたのよ」
「へぇ~。いいなぁ~」
「敦賀さんの香りかぁ。どんな香りなのかしら?」
***
敦賀さんとお付き合いをはじめて数ヶ月。
敦賀さんが忙しいのは当然のこと、ありがたいことに私も沢山のお仕事をいただけて忙しい日々を送っている。
それはもう、せっかくお付き合いするようになったのに、なかなか会う機会がないくらいに……。
昨夜は久しぶりに日付が変わる前に帰宅できた敦賀さんと、彼のマンションで一緒に過ごすことができた。
軽めの夜食を二人で食べて、食後はリビングのソファに寄り添って座る。
私はカフェオレ、敦賀さんはウィスキー。
お互いの近況報告をしながら、会えなかった時間を埋めるように指を絡めたり、キスをしたり。
その甘い雰囲気と、キスの合間に薫るウィスキーに酔っているうちに、いつの間にか場所は寝室に移っていて……。
お互いに久しぶりに会えた嬉しさから、少し盛り上がり過ぎてしまい、朝目覚めた時、何も纏っていない自分に顔から否が出るほど恥ずかしくなってバスルームに駆け込んだ。
シャワーを浴びバスルームから出ると、ふと目に着いたのは、彼が普段から愛用しているフレグランス。
抱き締められた時に香る、爽やかで優しい香り。
あの香りに包まれると、悩み事も不安な気持ちもふっと軽くなる。
最高の癒やし効果。
敦賀セラピー。
昨夜は久しぶりにゆっくりと会えたけれど、今日の午後から彼はまた2週間の海外ロケに出発する。
(少しだけ……いいわよね…?)
敦賀さんがゲストルームに用意してくれた私専用のクローゼットから、洗ったばかりのハンカチを一枚取って引き返す。
手にとったのは、例のフレグランス。
それをシュッと一吹き、ハンカチに染み込ませる。
フワッと香る敦賀さんの香り。
(これで少しは寂しくない……かな…?)
そっとハンカチを鞄にしまう。
ヒミツのお守り。
***
昨夜のことを思い出して、両手を頬にあてながら一人悶絶していると、声をかけられた。
「確かに京子ちゃん、いつもより少し大人っぽい香りがするね~」
「なになに?カレシでもできたの?」
「えっ……。いえ……そんな…っ」
「そっかそっか。京子ちゃん、恋しちゃってるんだね~」
「言えないってことは、事務所から止められてるの?
大丈夫よぉ?みんなコッソリ上手くやってるんだから」
慌てる私に彼女達は勝手に解釈して話を進める。
話しが盛り上がりかけた時、撮影再開の声がかかり、話しは中断された。
(危なかった……。ハンカチはスタジオに持ち込まないで鞄にしまっておかないと…)
ふぅと安堵のため息をついて、私もスタジオに設置された教室のセットの中へと向かった。
∞∞∞∞
「………」
「……?どうしたの?」
「うん…。京子ちゃんのあの香り、何処かで嗅いだことがあるんだけどなぁ……?」
セットに向かう途中、トーク番組のアシスタントをしていた彼女だけがキョーコのハンカチと同じ香りを嗅いだことがあるのだが、幸いにも誰の香りか思い出すことはなかった。
∞∞∞∞***∞∞∞∞
うぅん…。
場面の切り替えがおかしくなっちゃいました。
読みづらかったらごめんなさいm(_ _;)m
お盆休みも終わりですねっ。
なんだかバタバタした休みでした。
休みの日ほど、自分の時間を作るのは難しいですね~(ㆀ˘・з・˘)