SIDE R

相変わらずの分刻みのスケジュール。
マネージャーの社さんと足早にテレビ局内を移動していると、偶然聞こえてきた会話に思わず足を止めた。 


「ええっ……!?
京子ちゃんに告白したん!!?」

「リーダー……、つ、ついに………」

(あれは……)


ふと楽屋の名前を見ると『ブリッジロック様』とある。 


(……石橋、光くん?)

「そ、それで?どうやったん?」

「うん……。振られたよ」

「………」

「京子ちゃん、好きな人がいたんだ」

(!!?)


まさか……。
あの最上さんに好きな人が?
彼女は愛を否定して生きるラブミー部の第1号だぞ!?

思わず聞き入ってしまっていると、横から社さんに声を掛けられた。 


「蓮、気持ちはわかるが時間だ」


社さんに促されてその場を後をしたが、俺の頭の中は彼の言葉でいっぱいだった。


**

彼、石橋光くんのことは例のCMの顔合わせ以来気になる存在だった。 

同じ事務所の同じタレントセクションに所属し、彼女とも随分と親しそうに話していた。 

確か共演はないはずだけど、一体どうやって親しくなったんだ? 

『かわいいカップルってカンジねぇ』

近くにいた女性スタッフがコソコソと話しているのが聞こえた。
最上さんと彼はどちらも、ほんわりとした雰囲気を持っていて、並んでいると初々しいカップルのようにも見えるそうだ。

彼が最上さんに特別な視線を送っているのは明らかだった。
だからこそ、今回のCMで何か行動を起こそうとしているのでは?と懸念はあった。

そしてその予感は的中したようだ。

彼は最上さんに告白した。 

そして………。

『京子ちゃん、好きな人がいたんだ』 

一体誰が彼女の心を変えたというのか。
愛とは、破滅への序曲とまで言っていた彼女が恋をしている。
その相手は一体………。 


1人の男の顔が浮かんだ。
名前だけで彼女の心を乱す男。

彼女とアイツの間には、誰にも入れない空気がある。
軽井沢でストーカーに襲われた時も、彼女を助けたのはアイツだった。
俺にはわからない二人だけの会話を自然にする。

たとえ、昔のような関係ではなくなっても、二人が築いてきた長い時間がそうさせている。

(いや、まさか)

すぐに否定をするが、心に宿った黒い染みはなかなか消えない。

先日聞いたスケジュールによれば、今日は彼女がアイツとCMの打ち合わせをする予定だった。

その場に自分がいられないことが酷くもどかしい。 

急かす社さんの声に、俺はグッと拳を握りしめて次の撮影現場に向かうしかなかった。 



∞∞∞∞***∞∞∞∞

だらだらと引っ張りすぎて、しばらく出てこれなかった敦賀さんに登場してもらいました。