SIDE K


その日は朝から雨が降っていて、今日の仕事の内容と相まって、とても憂鬱な気分だった。

先日、私は有名デオドラントウォーターのCMに抜擢された。
今日はそのCMの第二弾の打ち合わせの日。
共演者は………バカショー………。

本来なら会うどころか名前を聞くのも嫌なくらいだけど、これも仕事。
与えられた役は全力で引き受ける!これも先生の教えだし……。

そう自分に言い聞かせて会議室の中に入ると、すでにスタッフの方が数人来ていた。


「おはようございます。本日はよろしくお願いします」


スタッフの皆さんと挨拶を交わしていると、会議室のドアが開いて祥子さんが入ってきた。
そして、その後ろから現れたアイツの姿に、思わず手に持っていたカバンを落としそうになった。


「おはようございます。不破です」


何人かのスタッフは顔を赤くして固まっているし、女性スタッフは数人でキャアキャアと黄色い声をあげている。

唖然として動きが止まった私にショータローはニヤニヤしながら話しかけてきた。


「なんだ?久しぶりのこの姿に惚れ直したか?」


そう、先日の顔合わせの時とは打って変わって、アイツの髪はダークブラウンに染められていた。


「……!!?……ありえないっ!
アンタとの悍ましい過去の記憶の数々……今すぐどこかに頭をぶつけて記憶喪失になりたいくらいよ!!」

「てめぇ……」

「お~い。打ち合わせ始めるぞ~」

ショータローと言い合いをしていると、黒崎監督が入ってきた。
相変わらず、厳つい格好ね……。


「おっ、尚。言ったとおりにしてきたな。似合う似合う。
はぁぁ~ん。顔が綺麗な奴は、どんな姿でも様になるなぁ」


監督は感心しながらも、驚いたか?キョーコ。とニヤニヤしながら事情を説明してくれた。

CMのインパクトを狙う監督と、尚の新しい一面を見せたい事務所の狙いが一致した結果だそうだ。


「第二弾のCMは、デオドラントウォーターの新シリーズを使う。新シリーズのテーマは『和の香り』だ。
まずはキョーコ、お前、茶道の心得があると聞いたが本当か?」

「……はい。一応」


またひとつ、嫌な過去を思い出す。
子供の頃、女将修行のひとつとしてお茶を習った。
あの頃は、女将さんに褒めて貰えるのが嬉しくて、喜んでもらいたくて一生懸命お稽古をした。
それが、花嫁修行の一つとも知らずに……。
なんて愚かな私……。


「それから、尚。
テレビでのお前の様子や、顔合わせで実際に会った印象なんだが……。
お前、実は良い所のお坊っちゃんじゃないか?」

「「……えっ?」」

「テレビ番組の企画で食事をしながらトークしてるのを見たが、箸の使い方、魚の食べ方、それ以外にも細かい所まで、スカしたフリをしているが所作が随分と綺麗だ。
きっと育ちが良いんだろうと思ってな。
それに、所作の雰囲気が心なしかキョーコと似ている」

私もショータローも、驚のあまり絶句してしまった。
私達が幼馴染みとは知らない筈なのに。

(凄い、監督の観察力……)


「尚、お前も茶席の経験はないか?」


確かに、アイツの実家の旅館には茶室がある。
本格的に教わったのは私だけだけど、幼い頃は私もショータローもお行儀の練習の為に、お茶を点てていただいていたので、ひと通りの流れは身についている。


「……少しなら……」


ショータローの意外な一面に、スタッフだけでなく祥子さんがまで驚いている。
確かに、ビジュアル系アーティストの不破尚からはイメージできない。
驚くのも無理はない。


「やっぱり経験アリか。さすがだな。
いくら考えても、お前たちからはラブのイメージが浮かばねぇんだ。
よって、CM第二弾のテーマは男女の友情だ!」




∞∞∞∞***∞∞∞∞

予め、言い訳を……。
mamiはお茶の経験など全くございません。
全てはmamiの想像のみで出来ております。
何かおかしな部分が多々あるかと思いますが、どうか目を瞑って見逃してください。

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いよいよ彼が出てまいりました……。