和「顔、洗って来る」



それだけ口にして洗面所へ。



洗面台に両手をついて
鏡の向こう側を
ぼんやり見つめた。




和「基本的に
嫌いなものには向き合わないのよ、俺。

興味のないものにも向き合わない。」




「おまえは違うと思ってたよ……? 俺は。」




「本当にいいの? それで。」




ふっ、と、
鏡に映る自分と目が合う




和「隠したい事があんならさ………、

もっと上手に隠しなさいって……。」




「結構キツいから………。」




切なさと虚しさが同時に
襲って来る。




和「ったく、なんて顔してんのよ…。」




そう言って
顔を洗い

タオルを顔に押し付けた。





和「いられんの……?  普通で。」







和「保てんの……? 平常心。」




鏡に映る自分に、そう問い掛けた。




   和『フフッ………、無理。 』


  



リビングへ戻り
ソファーに座る



コトッ



と、同時に置かれた
マグカップ



和「ん、ありがと」


「しぃ?」

S「なに?」

和「携帯 貸して」

S「携帯? いいよ。」



あいつはそう答えて
テーブルの端に置いてあった
携帯電話を取り、俺に差し出した。



和「で?」

S「ん?」

和「調べたい事があんのよ。俺。」

S「いいよ、調べて、」

和「この状態でどうやって使うのかな?」

S「あっ、ロック 笑」

和「番号」

S「0125」



和「ふ~ん……。0125……、ね。」


「いいや。 やっぱり」



S「ん?」

和「貸して」

S「貸す? 何を?」

和「パソコン」

S「いいよ」

和「いいの?」

S「いいよ。 笑」

和「俺はここで使いたいの。」

S「ん、分かった。今、持って来るね」

和「いいって、俺が持って来るから」

S「いいよ、私が持って来るよ」

和「出掛ける準備があんだろ?」

「大丈夫よ。ノート型でしょ?
腕痛めたりしないって。その位の重さなら。」



「その前に………。 」



「ん。」




あいつに携帯を差し出した。



和「そのロック、設定したのおまえじゃないね?」

S「うん、そう。 もうずっと前に、」

「ん………? なんで分かったの?」



和「俺の誕生日に変更してあるから」

S「俺の?………なんで?」



和「気に入らない」



「奥の部屋で使うわ、パソコン」



そう言いながらソファーから立ち上がり、
マグカップを手に持ち



和「すぐに終わる。」



少しトーンを落とした声でそう言い、
ゆっくりと奥の部屋へ歩いて行った。 







 和『暗証番号は即答なのよ……。』




 『俺に携帯を触られても、平気…。』





部屋の扉を閉め
机にマグカップを置き
椅子に深く腰かける。




 和『追いかけて来るはず………。なのに、』







 『来ないね……。』






次にあいつが
どんなカードを切って来るのかが、
解らない。


読めない。




和「ったく、不安にさせるんじゃないよ……。」





パソコンを見つめながらそう呟き、

俺は部屋を後にした。




~ 続 ~