“お前のチームにひとり、裏切り者がいる”
いつかの朝のように、アイツからメッセージがある時は、ロクなもんじゃなかった。
「…マジ、何なん。」
というか、そもそも勝手に私のスマホに侵入してるのって冷静に考えたら通報できる問題だよな。
私はそうしてやろうと思ったが、そんなことに気力を使うのが、何だか馬鹿馬鹿しく、ハルからのメッセージを無視し、会社に向かった。
「おはようございます。」
あいも変わらず忙しそうに書類を片付ける瀬尾さんに挨拶をする。
「おはよう、ツツジさん。」
未だかつてないトラブルなのに。
瀬尾さんは優しく返してくれた。
私は、どうすれば良いのか。
正直、どうすることも出来ないわけだけど。
何かしていないと、落ち着かない。
「ツツジさん、この後いいかな。」
着席した私を瀬尾さんは呼び戻した。
おそらく、アザレアについて、だ。
「昨日はゴメンね。
突然、あんなことになっちゃって。」
瀬尾さんは深々と会議室で頭を下げる。
「頭を上げてください。
瀬尾さんが謝ることじゃないです!!」
私はついつい声を張ってしまった。
本当に、瀬尾さんが頭を下げるのはおかしな話なのだから。
「でもさ、悔しいよね。
本気でやってきたことがこんな形になるなんてさ。」
瀬尾さんは静かに拳を握り締めているのがわかった。
この人も、私たちと同じくらいの、否それ以上に
悔しい気持ちを抱えている。
「だから、こんなところでは終わらせない。
終わらせちゃいけない。
絶対に、この企画は最後まで完遂させる。」
瀬尾さんは私にスマホの画面を提示する。
「これって…。」
目に飛び込んできたのはアザレア店からのメッセージだった。
“まだ終わらせたくないです”
「瀬尾さん…私っ……。」
拳は2つ、握られた。
大人の事情はある。
会社なのだから、大きなお金が動くのだから。
それは致し方ないことだ。
でも、その大きなお金を作るのは、小さな小さな戦士達。
人生をかけてお菓子を作る人、そのお菓子を売る人、そして、そのお菓子を宣伝する人、宣伝広告を作る人。
沢山の結晶が力を合わせてようやく人に届くのだ。
だから、蔑ろにしていいわけがない。
私達に託してくれた、お店の人たちの為に。
「作戦会議、やるよ。」
私は私を奮わせた。
ここからは、第2ラウンドなんだ。
次回、12/15(金)へ続く!
市川晴人