「お前はまだ、夢から覚めてねぇんだよ。」
リタ君の逃走と、散り散りになったラフを拾いながら、私はハルに何かを諭される。
「………何が……言いたいんですか。」
目を合わせると、噛みつかれそうなその雰囲気は、私を守れと本能が警告する。
「お前は心のどっかで、自分がプレイヤーじゃないと思ってんだ。
マザーテレサみたいに世界平和を祈りながら、戦国乱世の群雄割拠の中心にいる。
だからリタ君はお前に苛立ちを覚えた。
当然だよなぁ、テメェは安心できる場所にいながら、美味しいとこはちゃっかり持っていってんだからよ。」
ハルはドアから離れると、上座にゆっくりと腰掛ける。
「瀬尾さんがテメェをなんで選んだか分かるか?
テメェと一緒に勝つ為だよ。
なのにいつまでもお前は盤上の外にいる。
自分の役割を理解しようとしていない、だからリタ君は怒った。
それだけだ。」
気がつけばハルも退席していた。
私は、ビリビリに破れたリタ君のデザインラフを繋げ、感想をこぼす。
「……リタ君は………飛車だなぁ。」
涙が止まらなかった。
ハルの言う通り、私は逃げていただけだった。
「きっとツツジんなら、自分で気づける日が来るよ。」
いつかカレンちゃんに言われたこと、そしてハルに諭されてようやく向き合える気がした。
私は金で、リタ君は飛車なのだ。
皆、隣の駒に憧れて、嫉妬し、自分の駒の動きを全うしようとはしない。
だからこそ、一歩進める人がいるとするのなら、それは己の駒を正しく認識した者なのだろう。
ようやく、アザレアと戦う覚悟が出来たらしい。
遅すぎるかもしれない、また、どこかで逃げたくなるのかもしれない。
それでも私は、リタ君のところに走っていった。
少しだけ、雲の混じった空を見上げながら。
次回、11/3(金)へ続く!
市川晴人