<春田>
昼過ぎにノロノロと起きて、とりあえずお茶を飲む。
メシ何食おうかなぁ。
そんなことをぼんやり思いながら、リビングを見渡す。
この前、せっかく部長が片付けてくれたのに、もう散らかってる。
飲み終わったビール缶とペットボトル。
脱ぎ散らかした服。
惣菜のパック。
あ。
あそこに落ちてるネクタイ、返せなかった牧のネクタイだ。
ぼたぼたとテーブルが濡れた。
涙がこぼれて、止まらなくなった。
ズルズルとテーブルに突っ伏す。
目をつぶって、深く息を吐く。
このまま消えてしまえればいいのに。
どうしてそう思うのか、どうして俺は今泣いてるのか、そんなことも考えたくなかった。
そのまま、また眠ってしまったみたいだった。
夕方近くなってから目が覚めた。
変な姿勢で眠ってたから、首が痛い。
またノロノロと起きて、飲みかけのお茶を飲み干して、風呂に向かう。
熱めのシャワーを頭から浴びる。
頭を洗って、体を洗って、あーそういえばまたバスタオル持ってくるの忘れた、牧に持ってきてもらわないと………
心の中の扉の奥に、ぎゅうぎゅうとそれを押し込めて、強引に扉を閉めた。
シャワーを止めて、適当に近くにあったタオルで体を拭く。
服を着て、冷蔵庫から取り出したビールを一気飲みした。
<牧>
近くのスーパーに買い出しに行く。
一週間分のごはんを簡単に作り置きしておくための食材を買う。
何を作ろうか。
どうせ食べるのは自分一人だから、正直なんだっていい。
適当にカゴに食材を入れて、レジに向かう。
ふと。
カゴの中身を見直して、一人分にしては随分多いことに気がつく。
はぁ。
頭を振って、くるりと売り場に戻り、いくつかの食材を元に戻す。
無意識のうちに二人分の食材をカゴに入れてた。
春田さんの家を出てから随分経つのに、何やってるんだ俺。
会計を済ませて家に戻る。
ただいまって言っても、誰もおかえりって言ってくれない家。
空っぽな部屋。
脱ぎ散らかした靴下も、飲んだままのマグもない部屋。
春田さんのいない家。