(3)

「教室にいる時の俺がみんなには見えてないだけさ。お化けじゃなくて、少しだけ不思議な存在ってやつ!」

「でもそれってやっぱお化けって事でしょ?学校の怪談で読んだことあるもん。図書室にあるよ。北川翔太も借りてみなよ」

赤い靴を履いた女の子がぴゅーんって追いかけてきたり、無人のはずのブランコがゆらゆら動き出したり、理科室のガイコツの模型ががたがた襲い掛かってきたり、学校にはこわーいお化けがいっぱい住んでいるお話。

「雄太はお化け信じてるんだ。いないよー、俺はお化けなんて信じない!」

「じゃあ、北川翔太はなんなの?」

「同じだよ。雄太と同じ目も鼻も口も足もある人間。パパとママだっているし、雄太みたいにお使いも行くし。ただ見えないだけ」

「そっかー、よく分かんないけど同じなんだね。僕さ、今日北川翔太が来るのずっと待ってたんだよ。一緒に遊ぼうと思って。好きでしょサッカー。だって北川翔太のベンチコート、日本代表モデルじゃん。僕のもそうなんだよ」

僕は北川翔太と色違いの青いベンチコートを同じようにきゅきゅーと鼻の辺りまでファスナーを上げてみせた。

「うん!好きだよ、サッカー!行こっ!」

僕たちは夕暮れのグランドにダッシュで駆け出した。北川翔太がお化けでも、不思議な存在でも、なんだか関係なかった。だって僕には北川翔太が見えてるし一緒にサッカーボールだって蹴っている。赤い靴だって履いてないし、ブランコだって勝手に動き出さないし、ガイコツの模型だって襲ってこない。それに北川翔太のシュートはスゴイんだ。高学年の連中も今のシュートを見たらきっとスカウトに来るぐらいだよ。北川翔太が爪先で蹴るボールは魔法をかけたみたいにスパスパとゴールポストに全部飛び込むんだ。

「北川翔太!明日も一緒にサッカーしよう!タケルもきっとビックリするよ」

「いいよ!俺、すごく早起きして場所取りしておくよ!」

「あっ、でも見えるかな?北川翔太は不思議な存在だからタケルには見えない?」

僕の純粋な疑問に北川翔太はにっこりと笑った。

「もちろんタケルにも見えるよ!何度も言うけど、俺は雄太と同じだよ!同じ目も、鼻も」

「うん!口も足もある人間だもんね!お化けじゃない!」

僕はその夜、なんだかとてもすごくワクワクした。もしかしたら、北川翔太は魔女に魔法をかけられた存在なのかも。その魔法を解くには北川翔太を見える人間をどんどん増やせばきっとみんながみえるようになるんだ。きっとそうだ。明日、北川翔太に教えてあげよう。


                                                                             (つづく)