『流れ星』
「あっ!ニジマスです、マス!!」
懐かしいなあ。
彼女を連れて地元に帰省した時、ブラウン管から流れて来た映像。それはガキんちょの頃、オレが遊んでいたドブ川に魚が戻って来た事を報じていた。
へえ、あんな川にも魚住むようになったんだ。
オレはこのドブ川で遊ぶのが大好きな子供だった。ぬめったヘドロの中に膝まで浸かり、ザリガニを探す、それに飽きたら、サルの一つ覚えみたいにファンタの王冠何十コも集めたりすんの。
そうそう、そこで毎日、会うおっちゃんがいたんだっけ。
リヤカーいっぱいに空き缶や空き瓶やら積んで、いっつも汚い作業服着てんのに、社長みたいに偉そうなの。ザリガニ釣ってるオレの邪魔すんのさ。
「おい、エビなんて釣ってねーで空き缶拾うの手伝え!」って。エビじゃねーし、ザリガニだし。
だからドブ川のヌシってオレは呼んでた。
ヌシは、ほら吹きでさ。空き缶拾いながらおとぎ話みたいな事ばっか言うんだ。
「このドブ川には、昔流れ星がいっぱい住んでたんだ、また戻ってこねーかな。将来、女に教えてやれ」なーんて。
流れ星がいっぱい住んでた。
魚とか、昔は泳げたとかなら分かるけど、流れ星って。住んでた訳ないじゃん。はいはい。
その内、オレはドブ川で遊ぶよりサッカーに夢中になって、ヌシと空き缶拾うコトも無くなったんだよなあ。
懐かしいなあ。
ヌシはいったい何年かけて、ドブ川を綺麗にしたんだろう。でも、ヌシの努力は実ったってコトだよな。ドブ川に魚が住むようになったってスゲーじゃん。流れ星は住んでないけど。
見に行こうかな、綺麗になったドブ川って奴。
オレは、この夜、久々にドブ川へと出かけた。
橋の上から見下すドブ川は、昔の真っ暗闇とは違い、水面が時折キラキラしていて少し驚いた。
うおっ、ドブ川、お前綺麗になったじゃん。って。
そしてさあ、雲に隠れていた月が顔出した途端、オレはもっと驚いた。
うわっ、流れ星!
流れ星、住んでんじゃん!
流れ星、帰ってきてんじゃん!!
ゆらゆらと空を映す水面。月明かりに照らされ、鏡になった水面にはもうひとつの空が存在していたんだ。
星をいっぱいに吸い込んだようなドブ川、流れに合わせ揺れるきらきらとした星たち。
どんだけ、綺麗になったんだよ、ドブ川・・・・・・
星が住んでるみたいだった。
ヌシの言ってたコトは本当だった。
そして、オレは笑った。
そりや笑うよ。だって意味が分かると、ヌシの表現がロマンチックすぎてさ。
このドブ川には昔、流れ星がいっぱい住んでいたんだ。
なんて。どんな口説き文句なのさ、ヌシのおっちゃん、マジで。
けど、決めた、オレこのドブ川で彼女にプロポーズするわ。
(流れ星・終わり)