「インチキ!インチキ!」


講義が終わり、いつものホールのドアをくぐると目の前の新台コーナーで暴れている客がいた。店員の制止を振り切り、ガラスを割らんばかりの勢いで殴っているあの御方は、・・・宮口さん!?常連の宮口さんじゃないか!海物語で1500ハマっても顔色一つ変えずに打っていた宮口さんがここまで感情を露にするなんて、一体何があったのだろう?新台入れ替え三日目のカイジのシマは異様な雰囲気に包まれていた。



「宮口さん、どうしたんですか?」

「おお遠藤ちゃん。聞いてくれよ、酷いんだ」

聞けば、突然確変を引いて高確率状態に入ったのにも関わらず、出玉無しの当たりを引き続けてずるずるずると追加投資1万3千円。挙句の果てにそのまま一玉も獲得できずに確変を抜けてしまったらしい。60回転ポッキリという定められた回数のみ確変状態に突入するST機で、尚且つ出玉アリの大当たりを引かない限り電チューサポートが付かない仕様故起こった交通事故のようだが、確かに酷い展開である。

「おらぁよ、いくらハマっても文句は言わねぇ。でもよぉ、当たったのに更に金を使わされるなんて馬鹿な話があるか?しかも出玉ゼロときたもんだ。ふざけやがって、一体いくら入れてると思ってんだ!」

「なるほど。それは確かに腹が立ちますね」

「だろ?遠藤ちゃんもそう思うだろ?ったく、ふざけた台だ。さて・・・」


一頻り喋り終わると、宮口さんはようやく気が済んだのか、煙草を下皿に入れ両替機へ向かって・・・

「って、まだ続けるんですか!?」

「こうなりゃ意地よ。ここで席を立ったらパチンカーではないっ・・・!」

「はぁ・・・」


あれだけ台をぶん殴っておいて続行とは。気が狂ってる。

「ふふふ。出そうで出ない。人喰い沼よ、こいつは・・・」

「うわぁ!!びっくりしたぁ」


何時の間にか隣にいた美香ちゃんがそれらしい台詞をポツリと呟く。右手には両替してきたばかりであろう千円札が30枚。台詞と行動が一致してません。君も気が、狂ってる。


(しかし何なんだ一体?)

カイジが導入されて以来、どうもここアライホールは殺伐としてしまったような気がする。美香ちゃんも新台初日に打ってからというもの、すっかりカイジにハマってしまったようだし、宮口さんに至ってはもはや中毒といっても過言ではないほどの入れ込みっぷり。シマの端では僕にパチンコを教えてくれた師匠分でもある吉田先輩が目を血走らせて打っている。

常連達がこぞって虜にされたこの台。それほどの魅力があるのだろうか?

「なんていうかね、興奮するの」

僕の問いに対し、美香ちゃんは遠くを見つめてそう言った。

「そりゃパチンコだもの。興奮はするよ」

「違うの。他の機種とは別の・・・。叫び出したくなるような衝動?」

「なにそれ」

「とにかく、打ってみればわかるから。一緒に打とっ、けいちゃん!」

「まったく・・・」


さて、このCRカイジ。正式名称『CR 弾球黙示録カイジ 沼 』は福本伸行先生による人気漫画、「賭博黙示録カイジ」を原作としていてそれは僕もよく知っている。とにかくギャンブルをやる人間の心理描写が秀逸で、読み手は皆例外無く主人公カイジの駄目人間っぷりに感情移入してしまう、そういう漫画である。確かに題材としてはピッタリだとは思うけど、しかし果たしてパチンコであの世界観を表現出来ているのかどうか、重要なのはそこである。


(高尾さんのお手並み拝見だね)


僕はいっぱしの評論家きどりでCRカイジと向き合う事としたのだが…

「どう?ね、興奮するでしょ?」

「なるほど。これは確かに・・・」


しばらく打って確信したが、どうやら僕の心配は杞憂であったようだ。おもしろい!おもしろいじゃないかカイジよ!高尾よ!



ドックン・・ドックン・・


液晶右上に配置された心臓役物は、まさに打ち手の鼓動の代弁者。全体的に陰鬱な雰囲気はカイジの世界観を完璧に表現しきっていて、そして何より数々の語録に名言。カイジには絵になる場面がたくさんあって、それを余すところ無く使い切っている点に僕は感服せざるを得なかった。まさに原作ファンも納得の演出!開発者がどれだけ原作を読み込んでいるかが想像に難くない。


「神よっ!俺を祝福しろっ・・・!」


例えばこういう語録一つ取ってみても、それがズバリ打ち手の現在の心理そのものを的確に捉えており、打っていて気持ちが盛り上げられる事この上無い。美香ちゃんの言う「興奮する」「叫びだしたくなるような衝動」、この二つの言葉はとても的を射ている。僕は近年こんな熱いパチンコに出会った事がない気がする。宮口さんがあそこまで感情を露にしたのも、今となってはわからなくもない。

そしてST(スペシャルタイム)という回転数限定の確率変動。これが熱さに拍車をかけている。60回転が50回転に、50回転が40回転に・・・ じわじわと訪れる終わりの時、焦燥感。そしてそれを乗り越え大当たりした時の快感、文字通り生き残ったという事に対する一時の安堵。液晶内でカイジが「うおおおおお!!」と叫びだすとき、思わず僕も一緒に叫びだしたくなる。こんな機種は他には無い。文字通り自力で大当たりを掴むという感覚は、一度覚えると病みつきになってしまう。


「美香ちゃん、何をそんなにざわざわしてるんだい?」


「ふふ。けいちゃん、それを言うならそわそわ・・・でしょ」


「あっ!」


気付けば翌日から僕の頭はカイジ一色。いつのまにか僕もあの異様な光景を醸し出すカイジのシマの一員となっていた。



最近、日雇いバイトで先輩とよく会う。
(おしまい)