わたしは駄菓子屋をやっている。
この21世紀に駄菓子屋。老いた猫は寝てばかり。ストーブの灯油を代えなくちゃ。
最近では万引きを捕まえる事もしない。今捕まえて注意しても、その子が変わるとは限らない。自分でいつか気付いてくれたらわたしはそれでいい。
だから、30円相当の駄菓子を買って100円相当のモノをティシャツの中に隠す河村さんちの息子を笑顔で見送る。
「変な人についてっちゃダメだよ~、気を付けてね」と手を振る。
夕暮れ時、カラスも山へと帰る。
一日が終わりを迎えようとしている。
ストーブを消し、猫を家の中へ入れ、餌をやる。
今日の売り上げは460円。
晩ご飯は秋刀魚の塩焼きにしようかな。
フィギュアスケートが始まるまでに買い物を済ませなくっちゃ!
スーパーの鮮魚コーナーには近所の河村さんが働いていて、この時間帯、いつも値引きシールを貼ってくれる。
「助かるわ~河村さん!いつもありがとう」
半額引きシールのついた秋刀魚をカゴに入れて、レジへ向かう。
レジに向かう前に、坊や哲の牌裁きを彷彿させるスピードで、悟空とフリーザの攻防の様なスピードで、クロコダイル皮のカバンに秋刀魚を投げ込む。
わたしは駄菓子屋をやっている。
秋から冬にかけて秋刀魚はおいしいもの。
骨は猫にあげるの。
今日の月はくすんでる。
こんな夜には丁度いい。
でも明日はやってくる。
昇らない太陽はない。
明日も河村さんちの息子はやってくる。駄菓子を盗みにやってくる。 カラスは山へと帰る。明日も河村さんちの息子はやってくる。カラスは山へと帰ります。
陽だまり荘③号室住人 鳩山正義(55)
~FIN