この、夜、私は少々お酒を飲みすぎていたせいもあり。


空耳であると思いたかった。



カサッ、カサカサ、カサ。


不気味な物音。



テーブルに投げ出しておいたままのスーパーの袋の奥から聞こえるラップ音。



あの中にはシナチクしか入っていないはずだ…ぞ



恐る、恐る覗き込んだ袋の中で蠢く。



…ムカデ?



いや、ムカデにしては短か過ぎる。ま、まさか。
私はこのムカデがAパーツと呼ばれている事など当然、知る由も無い。



私は背筋に悪寒を覚えた。


ふ、ふな虫!!



家の中で一番発見したく無い虫。         


それは、ふな虫。



それが、ふな虫。



飲んだくれの男やもめ。掃除を怠った罰。怒った海とテトラの神々が私のもとへ送り込んだお仕置きとでも言うのでしょうか…なら



ならば、やってやろうじゃねえか。



男祭り。村での地蔵祭りを思い出す。
あの頃、私は村一番に勇敢な少年だった。



やってやろうじゃねーか。


私はオイキムチを摘んでいた鉄箸を手元に手繰りよせると、ふな虫を上手に挟む。


異常とも言えるうねりで抵抗するふな虫。



ぷちっ。力を込めすぎた。嫌な音。ふな虫が弾けた。


分離したふな虫がそれぞれの方向へと逃げる。



二兎追うものは一兎も得ずだ。



私はBパーツのみに全力を尽くして処理に取り掛かる。私はこれがすでにCパーツに当たる部分だとは、当然知る由も無い。



Bパーツの処理を終える頃、遠くで花火の打ち上がる音がした。



今年もまた地蔵祭りの季節がやって来たのか。わんぱく小僧どものふんどし姿を思い浮かべて、私は頬を緩める。



村では甲子園みたいな大会だもんな。



ふふと私はもう一度、笑みを浮かべるとコポコポと焼酎をグラスに注ぎ込んだ。ロックアイスが、からんと鳴った。



地蔵祭りに乾杯!村を背負う、勇敢な子供たちに乾杯!私は美味しく焼酎を頂いた。



逃げた、ふな虫Aパーツの事など忘れて。
あの虫が実はムカデでB、Cに分かれた状態である事など、私は当然知る由もない。


陽だまり荘②号室藤本修二(58)
~Fin