スーパーに行けばパックに入った美味しそうな肉が売られています。
焼肉に行けば美味しそうに盛られた刺しが入った肉が出てきます。
もともとは1頭の牛や豚ということを分かっていても、
スーパーで買う時、料理をする時、食べる時、
本来の動物の姿を思い浮かべて食べる人は少ないと思います。
この「いのちをいただく」という本は、食肉センターで牛の命を解く、
食肉解体業の仕事をされている、坂本義喜さんのお話です。
★食肉解体業という仕事
食肉解体業をしている坂本さんですが、牛と目が合うたび仕事が嫌になり、
いつかこの仕事を辞めようと思っています。
ある日、坂本さんは小学校3年生のしのぶ君の授業参観に行きます。
授業は社会科の「いろんな仕事」がテーマでした。
実はしのぶ君、お父さんの仕事を血がいっぱいついて、かっこ悪いと思っていました。
しのぶ君は授業参観でお父さんの仕事を小さい声で「普通の肉屋です。」と答えます。
しかし、担任の先生は
「しのぶ君のお父さんがいなければお肉が食べられない、すごい仕事だ」と教えてくれます。
ある日、坂本さんは牛をセンターに運び込んできた女の子とその家族との出逢います。
牛は女の子と一緒に育ってきたみいちゃんと言います。
牛のみいちゃんがお肉にならなければ、女の子も家族もこれから生活していけません。
「みいちゃんごめんねぇ・・・」と一生懸命牛のお腹をさすります。
坂本さんはこの光景を見て坂本さんは、もうこの仕事を辞めようと思います。
そして、みいちゃんの解体の日は休むことにしました。坂本さんがしのぶ君がこう言います。
心がない人が殺すと牛が苦しむからお父さんがしたほうがいい
解体されることを察する牛のみいちゃんは目から涙を流します。
さまざまな思いを持ち、坂本さんはみいちゃんの命を解きます。
女の子は泣きながら、美味しいと言ってお肉を食べます。
★それぞれが持つ、仕事に対する思い
坂本さん、息子のしのぶ君、女の子の3人の視点から
「食べること」、「生きること」、「仕事に対する思い」について語られます。
本の内容も良いですが、巻末インタビューやあとがきにも考えさせられるものがあります。
坂本さんの娘さんは介護士として働いていて坂本さんにこう言ったそうです。
お父さんの仕事と私の仕事は似ているね。あんね。おとうさん。
私は最後に会った人間が私でよかったなって、お年寄りに思ってもらえるように仕事をしてる。お父さんも、牛や馬や豚に最後まで気持ちよく生きてほしいと思っとるけん、なでたり、話しかけたりするんやろ。最後に会った人間がお父さんでよかったなって、思ってもらおうと思ってもらえるようにしとるやろ？だけん、同じよ。
実は、私も自分が作った食事が最期の食事になった経験が何度かあり、
娘さんのこの言葉にとても共感しました。
この本を読む度に、「きちんと自分の仕事と向き合えているか」と考えます。
★今こそ「命の大切さ」について考えるとき
スーパーでは魚が切り身で売られ、子供のなかには切り身が本来の姿と思っている子もいます。
パックに入っている肉を見て「牛」を思い出すということは少ないでしょう。
私たちは食肉解体業の仕事をされていること方々へ目を向けることなく、
いつの間にか「動物」から「食べ物」に変わった肉を見て美味しそうだと思っています。
現在日本では、はまだ食べられるのに捨てている食べ物、いわゆる食品ロスが
年間500万トン～800万トン出ています。
日本人1人あたり毎日おにぎり1個～2個を捨てていることになります。
弁当に入っている嫌いな野菜を除けて食べたり、バイキングで取るだけとって残したり、
平気で食べ物を残す人もいます。
いつの間にか、食べる事に豊かな時代を通り越し、飽食の時代になりました。
そして生活習慣病という言葉までできました。
食卓に並ぶ料理がたくさんの命から成り立っていることや、
感謝の気持ちを込めて「いただきます」「ごちそうさま」を言うことを、
食品ロスについてもう一度見直すきっかけになる本です。
食にあふれている日本だからこそ。
考え直す必要があるのではないでしょうか。
この本は絵本や紙芝居にもなっているので、子どもでも読みやすいです。
ぜひ、子供に読んで欲しい1冊ですが、動物を食べる事をかわいそうだと思う繊細な子供もいるので、
読むタイミングはとても難しいと思います。小学生中学年くらいからいいと思います。
中学生や大人になってから読んでも、「いのちをいただく」ことを改めて考えさせられる1冊です。
シミルボンという書評サイトで本のレビュー＆コラムを書いています。
良かったらご覧ください♪