6月17日の毎日新聞「月議」のコーナーに絵本作家、はたよしこさんの著書「風のうまれるところ」にまつわるエッセーが掲載されていました。「人はなぜ表現するのか?」という情熱的な問いかけがテーマの作品です。

 

 はたさんは、1990年代に障害ある人の施設「すずかけ作業所」で無償の絵画教室を始めました。そこでは、障害者の作る独創的で宝物のような作品に出合いました。

 

 コラムの著者の下桐実雅子さんが、この本を読んだきっかけは滋賀県立美術館で、アールブリュット展を見たからといいます。アールブリュットとは、日本では障害者アートを指すことが多いそうです。

 

 はたさんは、かつて造形教室を開いた時、今でいう特別支援学校の生徒の作品を見る機会があり、その作品に秘められたパワーに圧倒されました。同じような作品に出合えないか、18年間待ちましたが、かなわず、その後、「すずかけ作業所」に自ら足を向けたそうです。

 

 「出会うことがなければ、考えることもない」というはたさんの言葉は、当時とあまり変わっていない社会の分断と不寛容に通じると著者は指摘しています。その分断された世界をつなぐのがアートの力。コラムは「作り手に思いを馳せることが、他者への理解や共感へつながっていく」と結ばれています。

 

 このコラムを読み、生と死を彷徨う中で描かれた春香の「×くん」を思わずにはいられませんでした。命を賭して描いた「×くん」の世界観は、共感と寛容の世界へ誘う作品ではないかと、わが子ながら思わずにはいられませんでした。