まだ一話を読んでいない人でも話が分かります。興味を持った人は読んでみてください。
※あくまでも趣味で書いているだけなので、文章に誤字や脱字、文の重複などがあります。ご了承ください
魔法のドリンク屋四つ葉④
登場人物:三条心(さんじょうこころ)四つ葉の店主。
船出懐希(ふなでなつき)
懐希は夢見がとても悪い。小学六年生になってすぐ悪夢しか見なくなってしまったのだ。
(寝たくない。寝たら怖い夢の中に入るだけ)
今日も夜、ベッドに寝転がって眠たい自分に必死でそう言い聞かせていると、ベッドの下から体が引っ張られるような感覚になった。
(えっなにこれ!?まさか、いつの間にか眠っていたの?)
景色がサッと変わり、着いた先はバーのようなところだった。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」
優しそうなお姉さんにそう言われたものの、怖くなってそばへ行けなかった。懐希は何回もこんな感じで始まる悪夢を見たことがあるのだ。
「大丈夫です。これは夢ですから」
その言葉に少しほっとしてカウンター席の真ん中に座る。
「私、小学六年生になってから毎日悪夢しか見なくなってしまって。もう、寝ることが怖くて仕方がないんです」
お姉さんになにを言っているんだろう、と思いながら懐希は続けた。
「なにか、この悩みを解決できるようなドリンクってありませんか?」
「もちろん、ありますよ。よかったらお作りしましょうか?」
「お願いします!」
お姉さんはこくりとうなずくと、冷蔵庫から牛乳とピンクがかった白っぽいの液体が入っているサーバー、カットされている桃を取り出した。そして透明で綺麗なグラスに手際よく注いでいき最後にカットされている桃を一つグラスのふちに挿した。
「お待たせしました。桃のミルクのドリンクです」
カウンターのテーブルに置かれたドリンクを見て、懐希は思わずほっと息をついた。
(本当に綺麗でおしゃれなドリンクね)
早く飲みたくなってドリンクに手を伸ばそうとしたとき、お姉さんに「ちょっと待ってください!」と止められた。
「懐希さんが毎晩悪夢を見るようになってしまった理由はお分かりですか?」
「え?理由なんてあるんですか?」
「はい。懐希さん、前にこんな夢が見たいとつぶやいたりしませんでしたか?」
「そういえばそんなことを言ったような、、、。でも、悪夢が見たいなんて言っていませんよ」
懐希がキョトンとすると、お姉さんは「やっぱり」とつぶやいて続けた。
「その夢をたまたま夢の神様が叶えてくれることがあるんです。でも、だいたいはちょっとズレているのですけれど。その時に文句を言ってプライドを傷つけてしまうと悪夢しか見れなくなってしまうんです。なので、このドリンクを飲んでから、絶対に夢に文句を言わないでください。分かりましたね?」
「はい!」
お姉さんの迫力に驚き、懐希は何度もうなずきながら返事をした。そしてドリンクに手を伸ばし、一口飲んだ。
(おいしい!桃の味とミルクのまろやかさがちょうどよく混ざっている)
そのまま勢いよくごくごくと飲んでいくと、少し大きめのグラスに並々注がれていたドリンクはあっというまになくなった。懐希はすっかり満足してグラスをカウンターのテーブルに置いた。すると、次の瞬間眠気がおそってきた。まぶたが重くなり、そのまま目を閉じた。懐希は深い眠りに落ちていった。
・・・ピピピ、ピピピという目覚まし時計の音で懐希は目を覚ました。
(あれ、あのドリンク屋さんの出来事は夢だったのかな?)
ためしにあのおいしかったドリンクを思い浮かべてみる。すると、あの桃の味やミルクのまろやかさ、冷たさまでをはっきりと思い出すことができた。
(たぶんあれは夢じゃなくて本当にあったことだ!たしかに今日は珍しくスッキリ起きられたような気がする)
いつもはパジャマが汗でぐっしょり濡れているのに、今日は汗一つかいていない。懐希は深く考えるのをやめて学校の支度を始めた。・・・その日から懐希は前までのことが嘘のように毎日すっきりとベッドから起き上がることができるようになった。しかし、今度はいい夢が見たくなって仕方がなくなり、だんだんいつもの目覚め方が物足りなくなってきたのだ。
(そういえば、あのドリンク屋のお姉さんが見たい夢を言うと神様が叶えてくれるって言っていたっけ。ためしにやってみようかな)
ふと寝る前にそんなことを思い出したので試してみることにした。
「お姫様になる夢が見たい!」
少し幼い内容だろうか、と考えながら何度もそう言い、懐希はベッドに横になった。・・・懐希はいつのまにかおしゃれなドレスを身にまとって明るい音楽の流れる庭に立っていた。
「お姫様、ご結婚まことにおめでとうございます」
次々とそんな声が聞こえてくる。懐希はここで自分のための結婚式が行われているということが分かった。
(どれくらいイケメンな王子様なのかしら?)
つい、そのことが気になって右を向くとちょうど王子様もこっちを見たのか、目があった。しかし、その王子様の顔は~顎が四角くて目がぐりんとしている、まるで馬のような顔だった。
「きゃー!」
懐希は思っていた王子様と想像と全く違っていて驚き、ありったけの声を出して叫んだ。そしてドレスの裾が乱れたり、王冠が落ちるのも構わず全速力で走り王子様から離れた。けれども王子様は懐希よりも速く走って来るのであっというまに追いつかれてしまった。しかも逃げ込んだ場所は行き止まりでこれ以上は前に進めない。・・・そこで懐希は目を覚ました。まだ、心臓がバクバクしていて、汗もぐっしょりかいている。
「思っていた夢と全然違うじゃない!こんな夢なら、夢なんて見ない方がいい!」
あのドリンク屋のお姉さんに注意されたことはすっかり抜けていた。懐希は夢の悪口をこれ以上言えないというくらい言うといつも通り学校の支度をした。その日の夜、夢の中で懐希は紫色の豪華なワンピースを着ていて、綺麗に整った顔立ちの人と出会った。なんとなく、懐希はその人が夢の神様だということを悟った。
「あなた、私の夢が気に入らないって言ったわよね?」
「言いましたよ。あんな最悪な夢、今まで見たこともないくらいにひどかったんだから!」
懐希は夢の神様に思いきり怒りをぶつけて言った。
「もういい、あなたを悪夢しか見られないようにしてあげる」
夢の神様は怖いほど静かな声でそう言うと、右手に持っていたステッキをくるりと一回転させた。すると、そのステッキから黒いものがたくさん出てきて懐希にまとわりついてきた。
「なにこれ!?やだ、気持ち悪い!」
どんなに手で剥がそうとしても黒いものはべったりと懐希の体中に貼り付いてきて取れない。だんだん黒いものは懐希の体にすうっと吸い込まれていきやがてなくなった。次の瞬間、懐希は眠気におそわれた。
・・・その日から、懐希はまた悪夢しか見ないようになってしまった。
(あのドリンク屋さんでまた同じ物を頼めばいいんだわ)
下校中、懐希はそう思いつくと走ってドリンク屋さんへ行った。不思議なことに、まるで案内をしてもらっているかのように行ったことのない道もなんとなく分かるのだ。なんとなく、ここじゃないか、と思い立ち止まると[四つ葉]と書かれた看板のあるお店の前にいた。ドアを開けるとカランコロンというベルの音が店内に響く。
「いらっしゃいませ、、、この前にいらっしゃった懐希さんですね」
お姉さんはこの前と同じ優しそうな表情をくずさずに「こちらの席へどうぞ」と真ん中のカウンター席に案内してくれた。
「私、また悪夢しか見なくなっちゃって。また、同じドリンクを作ってくれませんか?」
「すみませんが、当店では一人のお客様につき一つのドリンクしか提供できないことになっております。それよりも懐希さんが注意したことを守らなかったことが原因ではないでしょうか」
懐希はこの言葉を聞いてとてもがっかりした。
「それは、、、忘れてしまっていたから。ということは私、どうやっても毎日悪夢を見なくてはいけないってことですか!?」
「それは大丈夫です。私が何とかしておきますので。とりあえず、気持ちが落ち着いたみたいなので家にお帰りになった方がよろしいのではないでしょうか?」
「あの、本当に大丈夫なんですか?」
懐希はつい、不安になって聞き直した。
「ええ、大丈夫です」
その、お姉さんの一言に懐希はすごくほっとした。そして、椅子から立ってドアの方へ向かうとなんとなくお姉さんにペコリと軽く頭を下げて外へ出た。
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心は、いつもより早く店じまいを済ませると制服を軽く整え、髪の毛を結び直した。そして何回か深呼吸をして気持ちを落ち着けると魔法の呪文を唱えた。
「アタ・トゥ・リバイタン」
景色がガラリと変わり、着いた先は幻想的という言葉がぴったりな世界だった。
「夢の神様、夜分遅くにすみません。あの女の子の話があって来ました」
心が声をかけると、夢の神様は書き物をしていた手を一回止めて振り向いた。
「そんなこと、とっくのとうに分かっているわ。でもね、こっちにも掟があるから」
「それでも、一つ方法がありますよね。私は覚悟を持ったうえでここに来ました」
「それも知っている。でもね」
夢の神様は一呼吸おいてから続けた。
「神様はえこひいきなんてしない、それは守るけれど。でも一応心と私は友達だから大変な目には合わせたくないのよ。ねえ、別に自分勝手な人間のことを守る必要なんてないでしょ?」
「それでも、ドリンク使いの役目です。ドリンク使いを目指す以上、どんな状況であれ困っている人を助けることは絶対です」
心の意志の強さを感じたのか、夢の神様はためいきをついて質問した。
「本当にその女の子の身代わりになるつもりなのね?覚悟はできているのね?」
「もちろんです」
心はそう、一言答えた。そこには、今までにない強さが感じられた。
「分かったわよ。やればいいんでしょ」
仕方がないわね、と夢の神様はつぶやくと右手に持っていたステッキを二回転させた。
「、、、っ」
心の体に激痛が走り、周りが黒いもやで覆われた。だんだん痛みが薄れていくのと同時に意識がだんだん遠のいていく。心はまぶたの重さに目を閉じた。黒いもやもだんだんなくなっていった後、そこにあったのは暗い闇だった。
終わり(魔法のドリンク屋四つ葉⑤へ続く)