『この前はお招きいただきありがとうございました。その事を両親に話したら今度茜ちゃんを家に連れておいでと言われたよ。次の日曜空けといてくれるかな?』
おっと、朝陽君、ご両親に話したんだ。
今度は私の番ね。プレッシャーだわ。
浩明も杏子も喜んでくれた。
『お呼ばれ』なんて自分には無縁だと思ってた茜はどうしたら良いか分からない。
「んなもん、自然体の茜を見せたらええねん。あちらさんも取り繕った茜を見たいわけじゃないと思うよ」
「でも、私、今までの事どう説明しようかと、それを考えたら怖くて」
「そうね。全部を全部正直に話すのはもっと後になってからでも良いんじゃない?」
別に悪意があって黙っている訳じゃないし、わざわざこちらから印象悪くするのもね、と杏子。
「分かりました。今は内緒にしておきます」
「うん。まずは茜の人柄を見て安心してもらえればええと思う」
日曜は午後から薄曇り。
ベージュのロングスカート、白のブラウスの上からデニムのジャケットを掛けて、靴は濃紺のブーティーにした。
お化粧もやや薄めにした。
小さめの黒いチェーンバッグと駅前で買ったケーキを持ってJRの〇〇駅に行く。
あぁ、ドキドキしてきた。
この前の朝陽君もこんなだったんだろうなぁ。
JR三国ヶ丘で南海高野線に乗り換える。
朝陽の地元の駅には14時に着いた。
風が強くなってきた。
探しているとバスターミナルの待合で座っていた朝陽が近づいてきた。
「よう、こんちは」
「こんにちは」
「駅から遠いけど車無いから歩きになるけどええ?」
「うん」
朝陽と話しながら歩くのも好き。
踏切を超えて坂を上がっていく。
丘の上にショッピングモールが見える。
そこを左に曲がり国道に出る。
歩くこと15分、突然「ここ」と言われる。
道の真ん前に並んでいる民家の一つが朝陽の家だった。
「大きなお家ね」
「え~?これが?普通じゃね?」
「ううん。立派なお家」
「ドラえもんののび太の家と変わらんけどな」
二階建ての門扉のついたその家は確かにのび太の家に似ている。
ちょっと笑ってしまった。
「あ、笑ったな」
「ごめんなさい」
「せめてサザエさんちぐらい広かったらなぁ」
なんでアニメ比較やの?とまた笑う。
ドアを開けるとぶわっとしたパーマのおばさんが「いらっしゃい!」と大きな声で迎えた。
「こんにちは。初めまして。右藤茜です」
「まあまあ、可愛い!小さいのね~」
「失礼や」
「あら、ごめんなさい。どうぞ」
「お邪魔します」
圧が強いお母さんだと思った。
「お、朝陽の彼女さんか。え?おい、可愛いじゃないか」
黒縁眼鏡の丸顔のおじさんが笑った。
どっちかと言うともうちょっと痩せてたらおじさんの方が朝陽に似てるかも。
「右藤茜です」
父親の笑顔が一瞬ひきつったのを茜は見逃さなかった。
居間のソファとテーブルは小ぶりで普通の家って感じがした。
「どこから?・・・え~!遠いわね~」
「あぁ、あそこは昔住んでた〇〇町やないか」
「あ、そうね、〇〇町よね。懐かしいわ」
二人とも良くしゃべる。
「団地の奥にあったスーパーマルエイってまだあるん?店長が陰気な店やったからもうないかな?売ってるものも古かったし野菜なんか・・・」
「お母さん!」
朝陽はイラっと来てキツイ口調で止めた。
「依里、ええからお茶をお出しして」
父親もイラっと来ている。
「あ、ごめんなさいね。つい」
「申し遅れました。朝陽の父の慎二です。あれが朝陽を産んだ張本人の依里(より)です」
「勝手に産まれたみたいに言わんといて!」
キッチンから大きな声がした。
「お母さん!」
「朝陽君にはいつもお勉強でお世話になっています。あの、これお口に合うかどうか。召し上がってください」
「ご丁寧にありがとうございます」
こう言うのよと杏子から聞いたセリフを丸暗記してきた。
庭は小さいながらもあって物干し台がある。
いろんな話をした。
里親の事、朝陽とお付き合いしていること。
朝陽の父は塾の講師、母はそこの事務員らしい。
わーわー言うのが楽しい。
「ところで」と慎二が茜に聞いた。
続く

