小田急線下北沢駅南西改札口に直結した複合施設(tefu)lounge2Fにある映画館シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』で、宮崎大祐監督(映画『大和(カリフォルニア)』、『VIDEO PHOBIA』)が映画美学校アクターズ・コース第10期生とコラボレートした映画『MY LIFE IN THE BUSH OF GHOSTS 』(2022)が公開中です。

1週間限定公開の予定が、延長に延長を重ねて4月25日まで上映という盛況ぶりです。

 

 

 

 これが実験性に富んだ作品なのです。

 まず、制作過程からして挑戦的。 

 俳優一人一人が「自分が演じたい役」や「演じたいシーン」を考え、それを宮﨑監督が一つの物語にまとめあげたもの。

 ざっくりいうと宮﨑監督の地元・神奈川県大和市を舞台にしたSFです。

 ええ、厚木基地や東急電鉄の終着駅・中央林間駅を擁する大和でSFです。

 実に観客の想像力を刺激します。

 

 さらに俳優陣の中には、映画美学校が2022年からスタートしたろう者・難聴者向けの俳優養成講座「デフアクターズ・コース」の受講生たちもいます。

 ろうのLGBTQをテーマにした映画『虹色の朝が来るまで』(2018。前にも紹介しましたが、傑作です)の今井ミカ監督と、弟で俳優の今井

彰人さんも、まさかのチンピラ役で登場します。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、劇中で彼らが、ろう者であることは説明されません。

 同じ空間で、聴者とろう者が芝居をする。

 それだけ。

 ところが、こと映画やドラマとなると、「それだけ」がなかなか出来ません。

 例外的に、北野武監督『あの夏、いちばん静かな海。』(1991)ぐらいでしょうか。

 

 

 

 

 私たちの日常生活を振り返ってみても、外を歩けば聴者とろう者はもちろん、人種が異なる人も、車椅子利用者など様々な人と遭遇します。

 たとえ異なる言語を持ち合わせていたとしても意思疎通を図ることは可能ですし、コミュニケーションを取る手法も文明機器が発達した今で はスマホという強力な味方も存在します。

 なのに映像作品になると字幕やセリフで説明したり、両者の違いを利用して劇的なドラマが生まれるきっかけにしたり。

 もちろん、ろう者を取り巻く社会をテーマにした作品も重要ですが、そろそろそこから一歩先に進んだ世界を見せてくれる作品はないのか?

 といつもモヤモヤしていました。

 

 『MY LIFE IN THE BUSH OF GHOSTS』は、まさにその”一歩先”を見せてくれたような思い。

 同時に、映画美学校に設けられたデフアクターズ・コースの意義を再認識しました。

 

 

 時を同じくして、東京国際ろう映画祭の代表を務める映画作家・牧原依里さんが演出を手がけたパフォーマンス作品

「聴者を演じるということ 序論」を観劇しました。

 

 

 

 

 場所は牧原さんが運営に携わり、2023年11月にオープンした日本初のデフスペース「5005(ごーまるまるごー)」です。

 

 

 

昨今、映像作品ではLGBTQだったり、発達障害やろうの役を当事者が演じるがスタンダードになりつつあります。

大きな流れを変えたのは、ろう者のトロイ・コッツァーが出演しアカデミー賞助演男優賞を受賞した『コーダ あいのうた』(2021)の存在。

 

 

 

ほか、HIKARI監督の映画『37セカンズ』は、実際に脳性まひで車椅子生活を送る佳山明さんが主演し、見事な演技を披露しています。

 

 

今年日本公開されたイタリア映画『弟は僕のヒーロー』も、オーディションで選ばれたダウン症の少年が出演しています。

 

 

 

そう、確実に世界は変わりつつあります。

でも国内を見渡すと、テレビや映画のメジャー作品となるとなかなか。

特にろう者となると手話を学んだ聴者の俳優が演じることも多し。

手話を第一言語としている人から見れば、拙い英語を聞いているかのような感覚を抱くこともあるようです。

 

当事者ではない人が演じるというのはどういうことなのか?

それを具現化したのが今回のパフォーマンスで、ろう者の俳優・數見陽子さんと山田真樹さんが聴者を演じます。

 

恐らく何の情報もなしに側からみれば、

営業担当の先輩と後輩が喫茶店でたわいもない会話をしていると見えるでしょう。

しかし鑑賞者限定のプロダクションノートを見ると、

彼らにとっては、手話を禁止されていた聾学校での口話教育を彷彿とさせるような稽古だったことが伺えます。

手話は表情と合わせて相手に感情を伝えますが、「聴者はそんな大きな口を開けない」とか。

会話の”間”も、聴者とろう者では異なるようです。

 

はて?

と頭に疑問が湧きました。

聴者にも、声の大小はあるし、間の取り方だって千差万別。

「聴者らしく」で一括りにされる、この違和感。

 

でもこれこそが、このパフォーマンスの狙いなのでしょう。

すぐに、日頃ろう者は「ろう者らしく」演じている聴者をみながら同様の思いを抱いているのだ

ということに気付かされました。

打ちのめされた思いで、会場をあとに。。。。

一方で、いろんなバックボーンを持った人たちとが集まると表現の幅が広がって面白い!

と、気持ちとは裏腹に足取り駅まで向かいました。

 

ちなみに出演者の山田真樹さんは、映画美学校のデフアクターズ・コースの第1期制であり、

東京2025デフリンピック(2025年11月15日〜26日)出場を目指す陸上短距離走のアスリートという二刀流です。

大谷翔平、ここにもいましたよ。