昨今の世界の映画祭のトレンドはジェンダー。

審査員や映画祭の選考委員をはじめ組織内のジェンダーバランスに積極的に取り組んでいます。

中でもドイツ・ベルリン国際映画祭は2004年から、スペイン・サンセバスチャン国際映画祭は2019年から、組織内、映画祭参加者、応募作品のジェンダー調査を行い、実態を公表しています。

 

⚫️サンセバスチャン国際映画祭2023年のジェンダーリポート

 

⚫️ベルリン国際映画祭2024年のジェンダー評価

 

とはいえ、映画祭の実行委員長、プログラマー、映画のプロデューサーなど決定権を持つ立場にいるのは相変わらず男性が中心なんですけどね。

それでも、業界を牽引する存在がこうした取り組みを行うことで、人々の意識や行動に変化を与え、結果的に多様な作品を育む土壌が形成されると思っています。

 

そんな時代の流れを実感する作品が、大阪アジアン映画祭で上映されました。

A〜Eまで組まれた短編プログラム。

作品を見続けていると、プログラムごとに「死」とか「引っ越し」とかそれぞれテーマがあって分けられていたことに気づきます。

プログラムDが「ジェンダー」。

女性監督の視点で、女性ならではの人生の喜びや哀しみを描いた作品が集められていました。

その代表作が韓国のユ・ジミン監督による『ジョンオク』

テーマは、ズバリ「生理」です。

 

主人公は、閉経し、更年期となったジョンオク。

夫は彼女を元気づけようとしますが、どうにも気分が晴れません。

ある日彼女は、不要になったナプキンをご近所さんと不用品を売買するフリマアプリに出品します。

交渉が成立し、引き渡し場所に現れた購入者は初潮を迎えたばかりの少女。

彼女はナプキンを買うために雑貨店に入ったものの、男性店主だったことでモジモジしていまい、万引きをしにきたのではないか?とあらぬ疑いをかけられて、購入出来ず。

フリマアプリで手にし、急場を凌ごうとしていたことが判明します。

それがきっかけで芽生える世代を超えた女性の交流を描いています。

 

ジャンダーレスな時代になったとはいえ、どうしても身体からくる性差の苦悩は、当事者じゃないとなかなか伝わらない感情です。

特に女性の象徴たる子宮にまつわる問題は。

それを、わずか18分間で鮮やかに描き切ったユ監督の才能に、拍手を贈らずにはいられない秀作です。

本作は大阪アジアン映画祭が海外初上映だったのですが、各国で話題になること間違いナシ。

日本でも再び上映される機会があると思うので、その際はぜひその目で確かめてください。

 

                ユ・ジミン監督(写真提供:大阪アジアン映画祭)

 

 

ほか、今年の短編プログラムには、真利子哲也監督が米国で撮影した『Before Anyone Else』、映画評論家の塩田時敏さんが初監督し、廣木隆一、三池崇史両監督、水戸かなが出演した『りりかの星』の日本初上映といった話題作もあり、実に充実していました。

 

                舞台挨拶を行った水戸かなと塩田時敏監督

 

ちなみに『りりかの星』は6月15日よりシアター・イメージフォーラムなどで全国公開決定。

三池監督の「クララが立った!」みたいなシーンもあり。必見です。