第19回大阪アジアン映画祭では、長短編合わせて38本鑑賞しました。

 なのに賞に絡んだのは、未見の方の作品ばかりという……(苦笑)。自分の人生そのものを物語っているかのようで、若干凹みながら授賞式を見守りました。

 その中で朗報が。38本の中で1、2位を争うお気に入り映画『サリー』が、アジア映画の未来を担う才能に贈られる「来るべき才能賞」(リエン・ジエンホン監督)と、映画祭の実行委員会の一つ朝日放送が最も優れたエンターテインメント性を有すると評価した作品を讃える「ABC賞」の2冠に輝いたのです。

 

 同作も、最優秀作品賞を受賞した『シティ・オブ・ウインド』のラグワドォラム・プレブオチル監督同様に、ジエンホン監督が世界各国の映画祭の企画マーケットに参加し、長年温めてきた企画です。ベルリン国際映画祭会期中に行われるプロジェクトBerlinale Tarentsにはじまり、香港国際映画祭併設のAsia Film Financing Forum(HAF)、カンヌ国際映画祭の企画マーケットまで。そして昨年の釜山国際映画祭でのワールドプレミア上映を経て、今回が日本発上映となりました。

 ジエンホン監督が本作を製作したきっかけは、今流行のロマンス詐欺に興味を抱いたそうですが、その誘惑に引っかかってしまうのが台中の田舎町で、両親亡き後、養鶏の仕事で弟を育ててきた中年女性。その彼女が詐欺か否かを確かべるべく、田舎町を飛び出して男性が住んでいるというパリへ向かいます。それは、まさにカゴの中の鳥状態だった彼女にとっては、外の世界を知り、自分の人生を見つめ直す旅となります。

 主演を務めた元アイドルデュオ「Sweety」のメンバーにして、実年齢では35歳のエスター・リウ。彼女を中年と称するのは憚れるのですが、家庭の事情の犠牲になりがちな女性の生き方を問いつつ、軽やかなエンタメに仕立てあげたジエンホン監督のセンスが光ります。

 日本での公開は未定ですが、全台湾での公開は4月3日。このニュースが良い弾みになることを祈ってます。

 そんな今語られるべきジェンダー問題をテーマに掲げた本作に、地上波放送の放映権を副賞としたABC賞が贈られるのは非常に意義のあることだと拍手を送りました。

 ところがです。

 プレゼンテーターとして登壇した朝日放送コンテンツプロデュース局制作部I氏の挨拶に愕然としました。以下、その全文を記します。

「昨今LGBTQという言葉がかなりポピュラーになってまいりました。レズビアンの方、ゲイの方、トランスセクシャルの方。それぞれのジェンダーに合わせる。その人たちを平等に見守っていこうという、かなりポピュラーになった言葉です。

 ただし私に言わせるとそんなことは20年以上前に知っていましたよ。

というもテレビ番組のロケで”はだか祭り”を取材したことがありました。勇壮な男たちが、褌一丁で御神体を奪い合ったり、寒い、寒い、冷たい川に飛び込んだり。そういう祭りです。

 で、全国の”はだか祭り”を取材しているディレクターがボソッと

「Iさん。色々なロケに行ってますけど、必ず同じおっさんが何人かおるんですよ」。

「ほほぉ。あっそう。そっち系かな?」

 私は素人だったので分からなかったんですけど、当然そういうおっさんたちが愛でるのは、美少年とか美青年とか、筋肉ムキムキな方だとばっかり思っていたんですけど、”はだか祭り”を取材していたら、集団から外れた兄ちゃんにものすごい熱い視線を送っているおっさんがおったんです。その兄ちゃんはボテボテで、腹出まくりで、僕らが考える、愛でる対象ではなかったんですけど、その人はずっと目で追ってました。

 私は目から鱗が落ちました。

 「ほほぉ。そっちかと。そっちもありなのね」と。

以上の理由から、私は20年以上前からLGBTQに完全な理解を示していたという自慢話でした」

 I氏は例年、ABC賞のプレゼンテーターとして登壇される方です。いつも会場の笑いを狙った的外れな発言をして、ある意味それが恒例ともなっていたのですが、今回は賞の価値をも下げる言動であったことは否めません。

 ただ発言が英語通訳されず、会場にいた海外ゲストの耳に届かなかったことだけは幸いでした。

 ABC賞はこれまで、シェ・ジュンイー監督『君のためのタイムリープ』、デレク・ツァン監督『ソウルメイト/七月と安生(チーユエとアンシェン)』などが受賞しています。

 その眼力を評価していたのですが、それも疑わしくなってきました。

 大阪アジアン映画祭ではジェンダーはもちろん、多様な人種や歴史・文化・宗教を題材にした作品を上映していますが、本当にそれらをきちんと鑑賞してきたのか?とすら思ってしまいます。

 ことジェンダー問題に関しては、報じているメディアが最も差別や偏見に疎いと常日頃から感じています。

 同じ轍を踏まないために何をすべきか。

 メディアに携わる人間としても考えていきたいと思います。