小学生の時。
綺麗な女の子が隣のクラスに転校してきた。

6年の時に同じクラスになり、妹同士が同学年で仲良かったということもあり、僕はその子とけっこうすぐに仲良くなった。
授業中も休み時間も給食の時間も、僕はずっとその子と話したりふざけ合ったりしてた。
【たくあん和尚(おしょう)】という変なあだ名をつけて泣かしたりもした。
でもずっと仲は良かった。多分1番仲が良かった女子だと思う。

中学生になってまた同じクラスになって、相変わらずずっと仲は良くて、でもその子は中学1年でまた転校することになった。

転校する日、同じ学校に通う最後の日。
最後のHRでその子が、お小遣いを貯めてクラスのみんなにプレゼントを買ってきたと言って配り始めた。はっきりとは覚えてないけど、文房具だった気がする。
それを受け取ったとき、本当に最後なんだと改めて気づかされたけど、特に深く考えることもなく、友達が1人遠くに行ってしまうことがそれほど寂しいものだとは当時の僕は思ってなかった。
その頃はみんな今みたいに携帯電話なんかも持ってないし、もちろん引越し先の住所も知らない。でも特に何も思わなかった。
多分僕は、次の日から当たり前のようにその子に会えないということをちゃんと理解できてなかったのだと思う。

みんなにプレゼントが行き渡って、その子が最後の挨拶をして周りの女子達が泣いたりしているのを特に何も考えずにぼんやり眺めていたのを覚えている。

HRが終わってみんな部活に行ったり帰ったりして、何故か教室には僕とその子の2人だけが残った。

なんとなく気まずい沈黙の中、突然、
『はるみ、今までほんまにありがとう。はるみは特にずっと仲良くしてくれたから、そのお礼。』
と言って大きな紙袋を渡された。

『みんなには文房具しかあげてないけど、はるみにだけ特別。だから、みんなには内緒ね』
と言って笑ってた。

なんか嬉しいのと恥ずかしいのが頭の中で混ざり合って、どうしていいかわからず、これで最後なのに気の利いた言葉も浮かばなくて、

ありがとう、俺もう帰るわ、ばいばい。

とだけ素っ気なく言って僕は教室から出た。
多分この時点で僕はこれが最後だということをまだちゃんと理解していなかった。
また次の日も当たり前に会うかのように、いつものように普通に別れた。

家に帰って母親に大きな紙袋のことを聞かれて、

あの子がはるみにだけ特別って言ってた

と説明した。

紙袋の中を見てみると、正直もう18年も前のことなので細かくは覚えてないけど、いろんなものが入ってた。その中にカセットテープが1本入ってた。その当時はまだMDすらなくて、CDやラジオから音楽を録音するにはカセットテープが主流の時代。みんなカセットテープを使っていた。普通に嬉しいプレゼント。

ただ、そのカセットテープは封が開いていた。

母親はふざけて
『愛の告白のメッセージとか吹き込まれてるんちゃう?』と茶化してきた。

僕は、そんなわけない、と言いながらももしかしたら本当にそうなんじゃないかと思って急にテープの中身が気になったので、すぐに自分の部屋に戻ってテープを再生した。


告白の言葉なんて吹き込まれてなかった。


テープには、1曲だけ、その当時流行っていた曲が入っていた。

SPEED の   ALL MY TRUE LOVE

それがどういう意味なのかは理解できなかったけど、急にめちゃくちゃ寂しくなって僕は泣いた。そのときに初めて、僕はその子のことが好きだったのかもしれないと気づいた。

その後、その子とは一度も会っていない。声も聞いていない。もちろん連絡先も知らないし、今どこに住んでるのか、日本にいるのかすらも知らない。生きてるかどうかも知らない。

あのALL MY TRUE LOVEにどんな気持ちと意味が込められてたのか、もしかしたら何の意味もなく流行りの曲を入れてくれただけだったのか。
あのテープに込められた本当の意味を、今の僕には知る術もない。

ただひとつだけ、最後の教室で、

今までありがとう。元気でな。

と、ちゃんとお別れを言わないまま教室を去ったことを今でもたまに後悔している。